第3話

扉がノックされる


「お嬢様、お食事をお持ちいたしました。」


「いらないと言ったでしょ、下げてちょうだい。」


私は扉の外にいるメイドに、ベッドの中からそう声をかけた。

しかし…


「失礼します」


メイドは私の言葉を無視して扉を開け、料理の乗ったカートを押して中に入ってきた。


「ちょ、ちょっと…!」


私は文句を言おうとガバッと起き上がった。

それは、この世界では嗅いだことのない…

でも懐かしい「あの料理」の香りだったからだ。


「案外みたことのない料理の方が、興味を持って食欲が出るかと思いまして。」


そう言いながら、メイドはテーブルの上に丼を置いた。


私はその料理の中身を確認するために、テーブルに向かう。


そこにあった食べ物は…予想通りのものだった


「これ…」


メイドに顔を向けると、ニコニコしながら料理の説明をする。


「私の国で「うどん」と呼ばれる料理です。

東の国で食べられる料理なのですけれど、お口に合うかどうか…」


私はもう一度丼に目をやる

綺麗な色のつゆの中に、白い麺が入れられ、上には茶色い四角の揚げが入ってる。


間違いない「きつねうどん」だ。


「本当はお箸…二本の棒を使って食べるのですが

使いにくいと思うのでフォークを…」


「お箸…あるならちょうだい…」


メイドは目を丸くして聞き返す。


「使い方、わかりますか?

お箸の使い方は…結構難しいですけれど…」


「昔食べたことがあるわ」


それを聞くと彼女は納得した様子で箸の準備をしてくれた。


私は箸を受け取るとズルズルっと思いっきり麺を啜った。


口の中にはつゆの味が染み渡り、出汁の香りが鼻をくすぐった。

そして、そのうどんの暖かさが心をじんわりと温めた。


「おいしい…」


そういうとメイドは嬉しそうにニコニコと笑顔を返してくれた。


何も食べたくない…と思っていたけれど、

ツルツルとしたうどんは、とても食べやすく、

箸は止まることなく、どんどん面は口の中に入っていった。



あぁ…


懐かしい…あの時と同じ味だ……。



そう………前世のあの日もきつねうどんを食べたんだ。



彼氏が友達に取られて、家のキッチンで泣いてた時、

前世のお兄ちゃんは、「赤いきつね」うどんを持ってきてくれた。


そして、何も言わずに黙って私の愚痴を聞いていてくれた。


その時思った、

誰かに見放されても、誰かは見ててくれてるって。


そしてそれは今もだ。


もし、心配してくれてないなら、

わざわざ、料理なんて運んでくれないだろう。


だから、私は彼女に少し話しかけた。


「ねえ、少し話を聞いてくれる?」


側で見守ってくれていた彼女は微笑みながら頷いて


「もちろんです、お嬢様。

どんなお話でも聞きますわ。」


と肩に手を置きながらそう答えてくれた。

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