例えば繋がっているのなら
桜咲 人生
第1話君はいつも繋がっている
いつもの街の風景。
高層ビルに輝く宣伝用の俳優が隠れないよう、空飛ぶ車がポツンポツンと頭上に浮かんでいる。
それがこの街。
最適化かされ、効率を求め追求した結果の世界。
人は文化を大事にし、伝統を忘れてしまったのか、歌舞伎役者の...誰だったか忘れたが辞めたそうだ。
そんな街を私は歩く。
文学的に有名な人物は言った。人は泣いて産まれてくると。
実際そうなんじゃないかとさえ最近思ってしまう。
それほどまでに退屈な世界。
楽しいのは研究者ぐらいなのではないか。
前を向いて歩く。
ふと、見慣れた街並みには似つかないイチョウの木を見つける。
イチョウの木はどこか弱々しく、数の少ない緑色がよく目立っていた。
「よっどうしたんだ肩が沈んでいるぞ」
俺の肩を叩き、元気そうに出社するこいつは杉田。
俺の同僚だ。
「よお、今日のプレゼンは大丈夫なんだろうな?」
「いきなりきついところついてきますね。
大丈夫ですよ。
朝ごはんもしっかり食べてきましたから」
自信満々にドヤ顔をしてくる。
普通なんだけどなとは言わず、すごいすごいと褒め称える。
そうするとこいつは元気になり、普段より数倍の実力を出せる。
「なら行けるな、よし気合入れていくぞ」
「「おー」」
元気な掛け声は少しだけ響き渡った。
「よし、上手くいったな」
「だな」
プレゼンを終え、疲れた体を癒すため食堂に来ていた。
休みは最高だとつくづく思うばかりで、成長もクソもない。
「何か食べるか?」
朝食を食べてきたはずの杉田は俺に聞いてくる。
「何が簡単に出来る食べ物があったら頼む」
杉田は少し考え、金を入れて自動販売機のボタンを押す。
自動販売機の中でなにか起きているのか、杉田は直ぐには取り出す待っていた。
ガランと音をたて、杉田は自動販売機から何かを取り出すと俺の前に出してくれた。
「これ赤のキツネだよ。
お金は200円ピッタでいいよ」
現金なヤツだと思いながらも自身のスマホを杉田のスマホにかざす。
「ヘイ、200円を杉田に送って」
スマホに語りかけると、スマホは了解しましたと電子音を鳴らしスマホが震えた。
「サンキューな、手数料分は頂きましたよ」
杉田はニヤリと笑い、まるで銀行員のような嫌な顔つきだった。
「やめろその顔、ムカついて殴りたくなる」
「なに!俺は柔道五段の実力派の経験者だぞ。
君に勝てるのかな?」
あっそと適当に流し、蓋を開ける。
暖かく少し辛く味付けされたのがわかるようなこおばしい香りが俺を最初に包んだ。
箸をとり、麺をすする。
もちもちとした食感とスープが染み込んだ熱い麺が口の中で広がる。
次にキツネ、甘く味付けされているこのキツネは少し辛いスープと混ざり絶妙なバランスを保つ。
そして、自動販売機とは思えないがなんと卵がついてくるのだ。
これは最初に本当に驚いたが、慣れてしまうと感動も何もない。
悲しいことだ。
麺をすすり、スープを飲み干し殻になった植物性プラスチックの容器をゴミ箱に入れる。
「じゃ、先に行くぞ」
杉田を置いて、先に職場に戻る。
杉田の声が聞こえた気がしたが、気にしないことにした。
仕事を終え、帰りの準備をする。
杉田は定時で上がってしまったため、一人で帰る。
俺の家は職場から近く、歩いて行ける距離にある。
そのため、健康も兼ねて歩いて出社している。
ふぅー。
ため息が漏れ出す。
広い目で見ればとんでもなく広がっている世界だが、真っ直ぐ前だけを見るととんでもなく狭い。
家に着き、ソファーに沈み込む。
今日も頑張った。
そう思いながら上を見つめる。
白い天井に輝く光が切れることなく点滅していた。
そうだなんか食べるか。
急な思いつきだった。
別になんの思いもなく、冷蔵庫の中にあった緑色のたぬきを取りだし水を入れて温めた。
温かくなった緑色のたぬきを取りだし、蓋を開ける。
その時だった。
なんの前触れもなく、俺は思った。
この食品をひとつ食べるだけでも、たくさんの人が関わり考え作り出され、そして俺のもとに運ばれる。
そんな簡単なことが浮かんだ。
何故だろう、不思議だ。
でも、わかったいた気で本当は忘れていたんじゃないのか。
世界は成長し、人との関わりなんて考えることなんて無くなっていた。
そんな現実にしょうがなく納得して過ごしていたんじゃないのか。
俺は忘れていた。
人とは関わりあって生きていることを。
自分一人では生きていけないと。
こんな簡単な常識を忘れ、変わった世界を嘆いていた。
なんて馬鹿なんだ。
俺は俺は!
涙が出る。
昔分かったことも今では分からないことの方が多い。
それは大人になったからだろうか。
常識を知ってしまったからだろうか。
分からない。
でも、俺は多分成長することが出来たんだとわかることが出来た。
それは、とてつもない進歩なんじゃないのかな。
「おっす。今日は何か元気いいですね?
いいことでもあったん?」
「わからん。
でも、すごく大切な事を思い出せたよ」
「へー、それってなんなの?」
「教えん」
ちょっとそこまで言ったなら教えろよと駄々をこね始めた。
俺は前をみる。
通り過ぎたイチョウの木はどこか力強くみえた。
例えば繋がっているのなら 桜咲 人生 @sakurasakijinsei
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