第63話 エルフとの迎撃5

「岩瀬さん。俺にも情報をくれませんか?

 俺の魔法も知っているのですよね?

 納得できれば、協力もします」


「……そう単純じゃないのよ。あなたは、選ばれなかった。そして競売所送りになり、力を付けて私達の前に現れた」


「世界規模で、なにをしているのですか?」


「ああ、勘違いしないでね。戦争ではないの。

 ……言ってしまった方が速いかな。

 『元の世界に帰る』ための準備をしているのよ」


「!?」


 驚いてしまった。

 方法があるのか?

 いや、探している?

 俺が思案していると、岩瀬さんが続けた。


「それでね。私達の中からは、歌川君と私と……、もう一人がメンバーに選ばれたの。

 選定基準は、技能スキルね。 歌川君のタイムリープは分かるわよね?

 〈死に戻り〉とも言われていて、何度でもリセットできる人生。

 そして、最終的にはゴールに辿り着けるスキル。

 まあ、それもあなたに拘束されて止められてしまったけど、 向後君が寿命で死亡した場合は、タイムリープが再開されるはずでしょう?」


 言いたいことは分かる。

 歌川を永久に拘束などできない。

 俺が死亡した場合に、収納魔法がどうなるかは分からないけど、"消滅"するか、"解放"だとは思っている。

 そうなれば、別な時間軸で歌川が復活すると思う。


「……歌川を"開放"しろと?」


「う~ん。もう少し情報を与えた方が良さそうね。

 〈次元転移魔法〉を作ろうとしているのだけど、席がそれほど多くなくて、3チームが開発にしのぎを削っているの。

 私と歌川君は、別グループなのよ」


 結構、饒舌だな。

 俺は。岩瀬さんに対して、前の世界ではこんなイメージを持っていなかった。

 人格が変わっているのではないかと思えるくらい、性格が違う。

 技能スキルによる影響か?

 いや、年齢を少し重ねている感じがする。魔法のある世界なんだ。俺はこの世界に来て数ヵ月程度だけど、彼女等は数年経過しているのかもしれない。もしかすると、100年以上作業をし続けている可能性……。

 タイムリープはあるんだ。〈時間魔法〉があり、時空間を捻じ曲げているのかもしれない。〈次元転移魔法〉と言う言葉から推測したけど、確証は得られない。岩瀬さんがどんな技能スキルを持っているのかも想像できないし。


「歌川は……、拘束し続ければいいですか?」


「そうね。お願いするわ」


「エルフの里と開拓村は、どうしますか?」


「それなのよね~。この地に魔法陣を書きたかったのだけど、住んでいる人がいると悪影響が出てしまう恐れがあってね。

 自主的に移動して貰おうと画策したのだけど、向後君に邪魔されてしまったみたいね……」


 矛盾していないか?

 3チームが競い合っていて、歌川と岩瀬さんは協力しあっている?

 共通の目的がある……、か?

 思案する。

 先ほど、『次元転移魔法を作ろうとしている』と言った。

 今はまだできていない。

 完全に作成されてから、席を争うのであれば理解できる。

 それと、先発隊の危険度もかなり高そうだ。また、繰り返し行える魔法なのか?

 動力の元になる燃料も関係しているだろうし。

 推測を続けたいけど、ここで思い出した。


『………俺は帰りたくない』


 この世界の方が楽しい。

 開拓村を成功させて、衣食住の不安のない生活を送れれば、不満はない。

 目を閉じて考える。


「岩瀬さん。俺は邪魔する気はないです。

 歌川は、殺して良いのであれば、ここで"解放"して渡します」


「……あら? 開拓村から出て行って欲しいと言っても?」


「別な土地を用意して貰えませんか? エルフの里も含めて」


「面白い妥協案ね。でも、そうね。歌川君をここで失うのと、この土地を諦めるリスク……。協議に値する話とも取れるわね」


「俺はしばらくエルフの里にいます。話し合って来て貰えますか?」


「いいわ。明日にでもまた戻って来ます」


 そう言って、岩瀬さんが消えた。





 今俺は、集会所でエルフの長と数人のエルフに取り囲まれている。

 勝手に交渉した事を怒っているようだ。


「どういうつもりだ? エルフの里までも天秤にかけるとは?」


「相手側からの要求は、『この里からの移住』ですね。

 あの地図にない場所に全員移住しろというのが、相手側の要望だと思います。

 別な大陸に移住させたいのかもしれません。

 そう思ったので、できるだけ良い土地に移住できるように、交渉してみました」


 エルフ族が、ザワザワし出した。


「この大陸からだと? 何万人いると思っているのだ? それを未開の地に追いやるなど、不可能だ」


「……何年か先の話になりますけど、実施されるでしょう。

 それほどの相手です。

 それは、俺の住んでいる開拓村も同じだと言っていました。

 最悪、この大陸の生物を駆逐してでも、実施するのでしょうね」


「なぜ言い切れる?」


「俺の前の世界では、それだけの火力は保持していたので。魔法ではないのですが……、"科学"という言葉は聞いたことありませんか?

 この世界で、異世界召喚者がそれを再現していないとは言い切れないと思います」


 エルフ達は静まり返った。


「拘束している者から、情報は引き出せないのか?」


「俺の収納魔法は、そこまで使い勝手が良くないのです。

 〈壊す〉専門と考えてください。今はまだ生きてはいますが、交渉はできないでしょう。

 時間停止空間の中で生きているだけと思ってください。もう、生かして"開放"することはできませんし」


 エルフ達が議論を始めた。

 多分だけど力の次元が違う。従う以外に生き延びる道はないと思う。

 そして、カミキリムシという害虫での退去を迫って来た理由……。

 亜人族、魔人族も被害が出始めている。この後に、人族への嫌がらせも予想できる。


 推測するに、歌川は別な時間軸で強引な手を使ったことがあるはずだ。

 各種族に、効果的にかつ同時に行えているのが理由だ。

 しかし、それでは上手く行かずに、回りくどい手段を用いていると推測する。


「ダメだな。情報が足らない」


 いくら考えても、推測の域を出ない。

 今、俺から動けることはなさそうだ。

 岩瀬さんの回答待ちしか、できることがない……。待つか……。

 その間に、エルフ族の説得だな。

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