第64話 知人との交渉1

 エルフの里の入り口に椅子を用意して貰い、座って待つ。

 とりあえず、することはないけど、緊張感は抜け切れていない。かなり警戒しながら待っている状況だ。俺の背後には、エルフさんが立っている。

 監視とも取れるけど、俺を国賓として招いているとでも言いたそうだ。エルフ族の中からは、敵対的な視線が今だ来ているし。


「……もう、半日経過している。来るんだよな?」


 独り言を呟いた時だった。


「待っていてくれたのね。それもこんな目立つ場所で」


 岩瀬さんが、いきなり目の前に現れた。

 反応できなかった……。それは、エルフ族も同じようだ。

 エルフ達の殺意が、一気に岩瀬さんに向くけど、俺は手を上げて、それを制した。

 それを見た岩瀬さんが、椅子に座る。


 エルフさんが、飲み物をテーブルに置くと、岩瀬さんは一礼してカップに口をつけた。毒の心配はしないのか……。

 まあ、知っているんだろう。


「岩瀬さん。早速ですが、本題に入ります。エルフの里と開拓村をどうしますか?」


 岩瀬さんが、笑う。


「ちょっとせっかち過ぎない? 雑談から入りましょうよ?」


 俺に雑談とか求められても困るのだけど……。

 何を話せと言うのかな?


「向後君は、死にかけたことはない? もしくは、向後君の彼女でもいいわ」


 予想外の質問が来た。……これが雑談になるのか?

 オークの時の事を言っているんだよな?


「開拓村にオークが現れて、死にかけました……。数ヵ月前の話です」


「その時に頭に声が響かなかった?」


「……ありましたね」


「私達は、〈その声〉の主に生かされているの……」


 意味が分からないけど、簡単には死ねないということか?

 そうなると、異世界召喚には、やはり理由があるはずだ。


「その声の主って誰ですか?」


「まだ分かっていないけど、神様らしいわ。私達一人ひとりに一柱ずつ付いているみたいなの」


「理由と根拠は?」


「……歌川君がね、何回か前にかなり良いところまで行ったらしいの。その時に会っているわ」


 簡単に鵜呑みにはできない内容だ。フェイクの可能性を考慮する。

 神……、神か。記憶を辿る。


『ヴォイド様から、"神の気まぐれ"と言われた』


 少し繋がった気がする。


「まず、歌川君の能力だけど、〈死に戻り〉は理解しているのよね? 伝わらない人には、追加で説明が必要なのだけど」


「タイムリープ系と、想像していました。まあ、合っていましたね」


「話が速くて助かるわ。それでね、歌川君はある技能スキル持ちを探したの」


 ……試されていると思うけど、想像できないな。


「教えてくれるのですか?」


「他人の記憶を読み取る技能スキルよ……。そして、読み取った記憶を他人にも与えることができる人材を見つけたの」


 驚いてしまった。

 何度も人生を繰り返して、その記憶を共有する……。

 本当に可能であれば、短時間で最強の集団ができ上がると思う。

 俺みたいに、実験を繰り返す必要もない。


「〈死に戻り〉と〈精神感応系〉の組み合わせですか……。最強とも取れますね」


 岩瀬さんが、噴き出した。


「ぷっ、あはは」


「なにか?」


「歌川君の記憶では、向後君の彼女が死亡した場合、あなたは人類領を破壊し尽くすのよ? それに危機感を覚えた、亜人族とエルフ族が、向後君を止めようとしてね……。魔人族も参戦して……。もう、終末戦争よ。ラグナロク? ハルマゲドン?」


「……現時点で、大規模破壊の方法は思いついています。答えの一つとしてですが、"竜巻"くらいなら作れるでしょう。実験してないので、制御はできないでしょうけどね。

 でも、そうですか……。俺はそんな行動にも出るのですね」


 ありえない……、とは言えない。

 今の俺が、気が触れたら、そういう行動にも出ると思う。

 仮定の話……、パラレルワールドの話になるのだろうけど、あり得る未来だ。


「今の向後君に知識があるのか分からないのだけど……。

 大質量を打ち上げて、極超音速で飛ばすの。本来であれば、燃え尽きてしまい、前世でも開発されていなかった兵器……。『重力と熱の"収納"』は誰かの入れ知恵なのかな? もう、地殻や岩盤が割れて地形とか残らないほどの大規模破壊だったみたい……。〈神の杖〉とか〈運動エネルギー爆撃〉とか言われていたわ」


 ……なるほどね。それならば、今の俺でも作れる。そうか、この後に『兵器』について詳しい人物と出会う可能性があるようだ。前の世界で『まだ作成できていない夢の兵器』のアイディアさえ貰えれば、俺の魔法は作れる可能性がある。

 少し苦笑いが出た。


「……硝酸を作ろうとか考えていた自分が、可愛く思えますよ。俺の収納魔法は、核兵器まで届くのかな? そうすれば、前の世界よりも技術的に優位に立てるので、世界を破滅に追い込む事も可能ですね。いや、俺よりも未来から来た異世界召喚者もいるだろうから、そう簡単にはいかないかな?

 でもいいのですか? 俺にそんな知識を与えてしまって」


 水素を一億℃まで加熱すれば、核融合が起きるとか聞いたことがある。重水素……、トリチウムが燃料になるのは、漫画の定番のネタだよな。エネルギーとヘリウムができるとか。未来のクリーンなエネルギーとして聞いた事がある。

 入念な準備をすれば、俺ならば作れなくはないと思う。検証は収納魔法の中で行える。それこそいくらでも実験ができる。俺の収納魔法なら……。


『設置型の魔法陣で、"時間"を〈条件〉に加えれば……。一億℃以上の熱量を一瞬で"開放"……。熱の拡散を抑えて、極短時間で、連鎖反応が起きれば……』


 怖い発想をする、俺がいるな。


「最後は分からないのだけどね。歌川君は途中で退場させられてしまったから。でも、あの記憶からすると、あるいは亜人族とエルフ族も全滅に追い込んでいたかもね。それほど、覚醒した向後君は凄かったのよ」


 瞼を閉じる。俺にもそんな感情があるんだな。


「アドバイスだけど、彼女さんを常にそばに置いた方がいいわ。今は余りにも目立ちすぎているから。彼女が攫われることも考慮しておいて」


 反論はできないな。スミス家の敵対勢力にとって、俺は目障りだろうし。


「覚えておきます」


 ここで、エルフさんが震えている事が分かった。顔も真っ青だ。

 エルフさんは、〈死に戻り〉を理解している? いや、兵器の方か?

 魔法のある世界だと言っても、理解できる内容なんだろうか?


「それでなのだけど、向後君は、元の世界に帰る気はないでしょう?」


 ……。驚いて、天を仰ぐ。

 心を見透かされている? いや、行動を読まれている……かな。

 他の時間軸でも、俺はエレナさんを選んだと言う事なのか。

 これだけは、変わらないのかもしれない。

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