第62話 エルフとの迎撃4

 歌川の襲撃から数日が経過した。

 結論から言うと、再度の襲撃はなかった。

 来てもおかしくはないと思ったのだけど……。


 俺は、干した果実に触れてみた。

 果肉に触れても、ピリピリする痛みはない。これは……、成功かな?

 収納魔法に入れると、壊してしまって食べられなくなる。

 エルフさんにお願いして、調べて貰うことにした。

 〈スキル:鑑定〉というのがあるらしい。まあ、ファンタジーの定番だな。

 〈艦定〉して貰ったところ、毒が薄れていることが分かった。

 毒が日光により変質したのか、乾燥に弱いのかは分からないけど、ここから先はお願いすることにした。

 魔法を使えば、時短もできると思う。


「しかし、皮をむいて干すと効果があるとはな。トールは、良く知っているのだね。"カガク"とやらか?」


 エルフさんからの質問だった。


「……先人の知恵ですね。渋かったり、すっぱい果実を加工する方法を試しました。

 後数種類試すことも考えていたのですけど、早めに当たりが引けただけですよ」


「ふむ……。『加工』か。我々エルフも多少はできる。ドワーフには敵わないがな」


 サラリと、とんでもないことを言った。


「……ドワーフ族がいるのですか?」


「ああ。海を隔てた大陸にいる。それが、どうかしたのか?」


 オークを含めた魔人族、それと亜人族、エルフ族だけではなかったのか。

 歌川は、『世界規模』と言った。

 今俺の持つ地図が、世界の何分の一かも分からない。


「トール? どうした難しい顔をして?」


「……地図は見せて貰えますか? できるだけ広い地図が見たいです」





 集会所に連れて行って貰った。

 その建物の壁には、大きな地図が張られていた。

 俺の持つ、人類領から持って来た地図と比較する。


「広さが十倍以上になるんだな……」


「トールには、説明しておいてもいいだろう。この大陸は外周を海に囲まれている。

 そして我々の住んでいる地域がここだ。

 人族は、西端に追いやられてしまっている。この半島だな。

 中央は、亜人族。北は、魔人族。南は、エルフ族がそれぞれ統治している。

 東は不毛な土地なので放牧民族がいる程度だ」


「この里……、集落が、大陸の南ではなく、北西に作られた理由は? 飛び地になりますよね?」


「エルフ族内でも対立があってね。我々の祖先は負けたのだ。

 放浪の末にこの地に辿り着いた。この地は、寒いが深い森を持っている。

 住めなくはないと言ったところだったのだろう……。

 いや、食べ物があったので、定住することに決めたのだ。

 まあ、それなりに歴史もある。多少長いこと住んでおり、ここまで開拓できた」


 良く分からない。

 地図を見ると、大陸の中央から東側は、緑が少ないと思う。

 サバンナ気候とかステップ気候なのだと推測する。もしくは、山岳地帯か?

 大陸の中央付近には亜人族がいる。それも深い森の中に。交渉すれば、住まわせて貰えるんじゃないのかな? 種族間で対立している?

 それでも人族の領土を越えて、不干渉地帯に逃げ込んだんだ。どんな理由があろうのだろう?

 それに、戦争していた過去を聞いた。

 この位置では、魔人族と人族に包囲されてしまう……。

 防衛には自信があるのかもしれないけど、隠れ住むのには向かないと思う。

 歌川も来ているし、場所は割れてしまっている。この里はもう長くないのかもしれない。


 大陸の南端には、街が記載されていた。あれが、エルフ族の首都になると思う。

 首都は、港があるのであれば船で逃げられそうだ。

 大陸から離れた小島にも、街の記載があるので、こちらはそうそう落とされそうにない。

 この里以外のエルフ族は、地理的にだけど、大丈夫そうだな。


 人族は追いつめられている。それはいい。これから開拓を進めればいいのだから。

 そして、このエルフの里と手を組めれば、共存共栄も見えて来る。


 次に亜人族の領土を見ると、かなり広い。だけど、街などは書かれていなかった。


「亜人族は、街が少ないですね……。もしくは、ない?」


「定住を好まない種族なのだ。季節ごとに住みやすい土地に移り住んでいるのだよ」


「……これだけ領土が広大だと、かなりの数がいますよね?」


「いや、そうでもない。逆に食糧難となり数を減らしていると聞いている」


 どういうことだ? 領土が広すぎて持ちきれないのか?


「……我々と同じでね。数年前まで普通に狩れていた獲物が、見当たらなくなっているそうだ。餓死者が出始めているらしい」


 同じ……? 同じ……、か?

 外部から干渉を受けている?


「魔人族からは、なにか来ていますか?」


「同様だよ。食糧難で、かなり広範囲に獲物を求めていると聞いている」


 この大陸でなにが起きているんだ?

 異変が起きている事は分かったけど、原因がはっきりしなかった。


 とりあえず、集会所から出た時だった。

 いきなり、が俺の目の前に現れた。

 エルフさんも、一動作遅れて剣を抜く。

 だけど、俺は左手でエルフさんを制した。


「俺の知り合いです……」


 前の世界のクラスメートが、また現れたのだ。しかも、大人びている。数歳年上みたいだ。

 そういえば、歌川もそうだったのかもしれない。

 女性だから、真っ先に気が付いたのだと思う。


「久しぶりね。向後君。それでなのだけど、歌川君が来なかったかしら?」


「久しぶりですね、岩瀬さん。歌川は……、俺が拘束しています。二度と出られない場所にですけど」


「あはは。形を保てない空間魔法に入れられたんだ。それじゃ、〈死に戻り〉も終わりね。

 そうすると、この時間軸では歌川君の陣営は、ここまでかな?」


 この人も俺の事を知っている。俺はそれほど有名なのか?


「……岩瀬さん。なにが起きているか教えて貰えませんか?」


「そっか。今の向後君は知らないのか……。それはそうよね。でもそうなると、困ったわね~」


 冷汗が止まらない。歌川と同じくらいレベルが高そうだ。まともには相手できそうにない。

 さて、どうやって情報を引き出すかだな。俺は交渉事は苦手だ。

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