第52話 エルフの襲撃3

 襲って来たエルフより突然の「待った」がかかった。

 待ってやる理由もないけど、言葉が通じるのであれば話を聞いてみたいとも思う。

 エルフを見ると、武器を捨てて降参のポーズだ。


「……なにしに来たのですか?」


「我々の食糧が尽きたので、奪いに来た……。 ついでに、あの村も目障りだったので滅ぼそうと考えたのだ」


 まあ、予想通りの答えだな。

 そうなると……。


「エルフの里は、近いのですか?」


「……言えないが、少し遠くにある。君等では見つけられないだろう。それくらい深い森の中にある」


「オークの里は知っていますか?」


「オーク族は、定住しない。簡易的な集落を作っては、移動を繰り返している」


 ふむ……。オークの方が面倒だな。

 それにしても、口が軽そうなので、もう少し情報を引き出そう。


「他の種族は、この辺に住んでいますか?」


「来るとすれば、魚人族だろうな。だが、海でよほどの乱獲を行わなければ、衝突することはないと思う」


 凄い情報を持っているな、このエルフ。

 助かりたい一心なのは分かるけど、口が軽すぎる気もする。

 この話を信用しても良いのか分からない……。


「……皆、殺してしまったのか?」


 逆に質問された。

 主導権は、俺にあると思うのだけど……。


「あなた以外は、全員絶命していますね。助かる見込みもないです」


 諦めたのか、エルフの力が抜けた。

 ここで、ザレドさん達が来た。

 無言でエルフを縛り上げて行く。


「トール……。 氷を溶かして貰えないだろうか? エルフの武器防具を回収したい」


 戦利品になるみたいだ。断る理由もない。

 俺は、〈熱量〉を"開放"してエルフを溶かした。

 そうすると、馬が一頭だけ生きていた。

 人類領では手に入らない、貴重な品種みたいだ。

 先ほど一頭逃がしたのは、痛かったかもしれない。馬は〈凍傷〉を"収納"したら、元気になった。

 ここで、エレナさんが村民を連れて来てくれた。様子を見ていてくれたみたいだ。

 エルフの持って来た物資を、開拓村へ運ぶのは任せよう。

 俺は、縛られたエルフの後を追うことにした。





 開拓村で尋問の始まりだ。

 正直立ち会いたくないけど、暴れられたら困る。

 見ていて気持ちのいいものでもないけど、俺は同席しなければならない。

 まず、奴隷紋を刻むことから始まった。

 エルフ的には屈辱なんだろうな。表情がそれを物語っている。プライドが高そうだ。

 だけど、黙って受けてしまった。

 これで、ヴォイド様には逆らえなくなるはずだ……。

 そういえば、奴隷紋を刻まれて、反抗するとどうなるのかな?


 その後は、ペラペラと話してくれた。

 最重要機密となる、エルフの里の場所まで吐いてくれた。

 開拓村から馬で二日といったところなのだそうだ。

 まあ、未整備の大森林の中を進むので、正確な日数は不明みたいだけど。

 食糧不足とはいえ、そんな険しい道を進むより、魔物でも狩っていた方が楽だろうに。理解できない。


「そんなに、この開拓村が目障りなのですか?」


「……ここにまた魔法陣を敷かれると、森を破壊し出すのだろう? 沼地であり、森の端とはいえ、看過はできなかった」


 魔法陣? 森の破壊? 召喚魔法のことかな?

 昔なにかあったのだと思う。まあ、俺は知らなくてもいい話だ。

 大体聞きたいことは聞けたので、エルフには牢屋に入って貰うことにした。

 魔法を阻害する手錠と、足枷を付けて柵で作った牢屋に放り込む。

 まあ、奴隷紋があるので逃げられないだろうけど、一応の保険だ。



 ここからは相談だ。主要メンバーで村長宅に移動する。


「あのエルフを開放しますか? 一応、和平交渉の使者にはなりそうですが……」


「無理があると思います。

 エルフ族は、傲慢で有名です。死者が出ている以上、また来るでしょうし。

 それに食糧が尽きたとも言っていたので……、近日中にまた来そうですね。

 斥候がいた場合……、いえ、斥候がいて情報が伝わっていると考えましょう」


 そういうものか……。セリカさんは、参謀として申し分ない視野の広さを持っているな。現状と先を見通している。

 しかし食糧を奪い合うのは、避けたい……。

 ヴォイド様を見ると考えている。

 決定権は、ヴォイド様が持っているので主導して欲しいのだけど。

 その後、色々な意見が出たけど、なにも決まらなかった。





 夜が明けた。

 朝の水を配って行く。

 ここで、牢屋に繋がれたエルフが目に入った。

 雪に埋もれているけど、生きている。寒さに強い種族の様だ。

 俺の知識で、アイスエルフ? スノーエルフ? ……種族名なんか付けても無駄かな。

 それと、一応聞いてみるか。


「お湯で良ければ出せますが、飲みますか?」


「……頼む」


 俺は、コップに水を"解放"して〈熱量〉を加えた。

 沸騰しない程度の飲みやすい温度……、70℃くらいかな?

 温いかもしれないが、これくらいでいいと思う。

 二杯目の依頼が来たら、温度を聞いてみようかな。


 コップを差し出すと、エルフは勢い良く飲み出した。

 冬空に柵の牢屋は、拷問みたいで嫌だな。何も食べさせてないし。

 ヴォイド様に、少し進言してみるか。

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