第51話 エルフの襲撃2
「全部で騎兵が8騎か……」
矢を防いだ俺に、2騎の騎兵が突撃して来た。
なるほど、左右から攻撃されると対応に困るんだな……。
観察しながら俺は、左右の手に魔法陣を展開した。
右手側はいい。馬や槍ごと"収納"してやった。
だけど、左手側のエルフの槍は、俺の胸を貫いていた。槍の穂先は俺の胸を貫通している。一度持ち上げられて、勢い良く地面に叩きつけられた……。
『すげぇ、痛いんだが……』
「*****!」
「***!」
何か言っている。理解できない言語だな。
エルフが一人消えたので、エルフの一団は困惑気味のようだ。
少し騒いだみたいだけど、止めとばかりに俺の顔をめがけて、再度槍が降って来る。
受けてやる理由もない。
俺は、槍を躱して、柄を右手で掴んだ。
そして、エルフの足を左手で掴む。
エルフの足は、
そこを狙ったのだ。
「……これ、返すわ」
決め台詞とか欲しいとこだよな。俺のやる気のない性格が言葉に現れている。今度考えておこう。
俺は、先ほど槍で貫かれた傷を"収納"していた。
即死はしなかったけど、致命傷ではあったと思う。
それを、エルフに"解放"したのだ。
エルフの鎧のすき間から、鮮血が飛び散る。
吐血しながら、なにかを喚いているけど、俺の知らない言語だから理解はできない。
まあ、断末魔など聞くに堪えないのだけどね。
槍を奪い取り、エルフをそのまま落馬させた。
馬は、驚いたのかそのまま走って行ってしまった。帰巣本能でもあるのかな?
「さて……、残り6人」
俺は、槍を捨てて両手をエルフに向けた。
槍で刺される時、心臓は避けたけど、やはり結構出血してしまったかもしれない。
少し貧血の症状が出始めている。
初手で、大怪我を負うのは悪手だったかもしれないな。
傷を負った直後に、瞬時に"収納"したので、失血も少なかったはずなんだけどな……。部品の複製や増量といったことができないのが、俺の収納魔法の欠点だ。これは考えておこう。
経験として覚えておけば、応用も思いつくはずだ。
考えていると、弓矢が飛んで来た。
俺は、右手の魔法陣を範囲指定として体の正面に展開し、矢を次々に"収納"して行く。
絶対防御の盾と言えると思う。
エルフの矢が止まる。無駄な消費を悟ったようだ。
「……少し、演出するか」
俺はエルフから奪った、武器防具を"開放"した。……金属片としてだけど。
エルフ達の表情が、凍ったのを感じた。
槍や鎧、矢の原型は残っている。なにが起きているか分からないだろうな。奪われた武器防具が、壊れて山積みにされてるのだし。
それでもエルフ達は退かなかった。脅しが足りなかったみたいだな。
そしてエルフが、手から火を作り出した。
「あ~。魔法……、火魔法か」
この世界に来て、初めて攻撃用の魔法を見た。
なるほどな、あんな感じで奇跡を生み出すのか。
その火が、矢と変わらないスピードで俺を襲って来る。
俺は、右手の魔法陣で、川の水を"解放"した。〈条件〉として〈圧力〉を付与付きで……。
最近はレベルが上がったからか、短時間で大量に"収納"したり"開放"したりできる。
消防車の放水くらいの勢いで、川の水をエルフに向かって勢い良く"開放"したのだ。
エルフの放った魔法は、水の川に飲まれ、俺には届かない。消えてしまったのだ。
そして、川の水を浴びた馬が、耳障りな悲鳴を上げ始めた。だって、冷たいものね。
馬が暴れるのを、エルフ達が必死に抑えている。もう、この時点で、隙だらけだよ?
「見逃す理由もないよな……。脅しも効かなかったし」
静かに殺気を放つ。
まず、泥を大量に"開放"して、エルフ達に浴びせた。この時点で馬は、脚を取られて動けなくなっている。転倒している馬もいる。
俺は、追加で左手の魔法陣を使い、地面の〈温度〉を"収納"し始めた。
俺の左手を中心に濡れた地面が凍って行く。
その氷は、エルフの騎乗している馬を襲い、そしてエルフ自身も凍らせた。
遊ぶ気はない。
初手から本気で殺す気でかかっている。手を抜く理由もなかったし。
エルフは5騎が凍った。耐性があるのかは分からないけど、生物であれば凍死すると思う。
視線を上げると、最後尾にいた一人のエルフのみ、落ちるように下馬して氷の浸食を免れていた。
俺は立ち上がり、歩を進める。
逃がす気はない。
言葉もなく、矢を射かけられたんだ。
人並みに知性はありそうだけど、俺からすれば野生動物と変わらない。
それに背後には開拓村があるんだ。
誰も殺させはしない。
そのためなら、喜んで手を汚そう……。
俺は、歩きながらすれ違いざまに、右手の魔法陣を"射出"した。〈条件〉は、〈エルフの心臓〉の"収納"……だ。
生きていたかもしれないけど……、これで死亡が確定したと思う。
そのまま歩を進め、最後の一人のエルフの前に立つ。
目の前のエルフは、剣を抜いて対峙して来た。でも、ガタガタと震えている。
心を静める。 今の俺であれば、どうあっても負けはない。
後の先の対応で十分だよな。
俺は、両手を向けた。
ここで、思いがけない事態となった……。
「ま、待ってくれ……。降参だ」
「おや……?」
エルフが、俺に分かる言語を発した。
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