第50話 エルフの襲撃1
──カンカン
鐘の音が開拓村に鳴り響いた。鐘の方向を見る。
オークが見つかった時に聞いた鐘の音……。
緊急事態を知らせる警報音だ。
畑を耕していたのだけど、農機具を放置して、そのまま、物見やぐらに走って向かった。
「なにがあったのですか?」
「エルフ族だ……。エルフの一団がこちらに向かって来ている」
トマスさんとケビンさんは、顔が真っ青だった。
ザレドさんは、もう盛り土の上に移動して、矢の補充を行っている。
ここで、エレナさんとセリカさんも来た。
「エルフ族が来たみたいです。
簡単でいいので、どういう種族か教えて貰えますか?」
エレナさんが答えてくれた。
「……私達からすれば、残忍な性格と取れます。
言葉が通じる個体もいますが、話を聞いてくれるとは思わないでください」
続けて、セリカさんだ。
「馬に乗って来ている時点で、物資を奪いに来たのだと推測します。よりにもよって、こんな時期に……」
セリカさんの表情が曇る。
「おかしくないですか? 最も物資が減る雪解け前に来るなんて。強盗なら、冬前に来るのが常識かと……」
「……オーク族もそうだけど、エルフ族も人族とは互いに不干渉という暗黙の了解があるの。ここは緩衝地帯なので、不意遭遇はあるけど、あの一団は明らかに開拓村を狙って来ている……」
オークが食糧を求めて来たのは、理解できると言っている。
だけど、今回のエルフは不可解らしい。
ここで、ザレドさんが降りて来た。
「エレナ嬢とセリカ嬢は村民の避難を頼む。特にヴォイド様だ。逃げるように説得してくれ。トールは、俺達と防衛戦に参加してくれ」
三人で頷いた。
エレナさんが村民の誘導を、セリカさんが村長宅に向かった。
俺は、盛り土を登る。
遠くにエルフが見えた。海岸へ続く道をゆっくりと進んでいる。馬に乗っており、武装もしていた。騎兵だな。
「……明らかに武装していますね。それと、空のソリまで用意している。襲撃はいいのですけど、なにを欲していると思いますか?」
「仮定として、食糧が尽きたとしたらどうだろうか? 餓死者を出すよりは、人族を襲った方がいいと判断された……、とか」
肯定も否定もできないな。
餓死するくらいなら犯罪を犯すという判断を、俺は否定できない。
まあ襲われたくはないのだけど。
「エルフの食性は分かりますか?」
「……我々とほぼ変わらないはずだが、肉は好まないみたいだ。果物を根こそぎ持って行かれた話も聞いたことがある」
「乾燥野菜や干した果物を盛り土の前に置けば、帰ってくれますかね?」
「無理だろうな。エルフ族からすれば、この開拓村は目障りだと思う。エルフの里の場所は分からないが、近いということは知られている。時々目撃されるからな。だが、この時期に来るのは不可解としか言いようがない」
急速に開拓村を発展させたからなんだろうか。見られていた?
それと、去年の冬は開拓村で越冬を行わなかったと聞いた。
……威力偵察ではないと思う。排除に来たんだろう。
後ろを振り向く。
村民の移動は、まだ時間がかかりそうだ。
それとこの開拓村を破壊された場合は、死者が出ると思う。
もうすぐ春だけど、家なしで暮らせる気温じゃない。
選択肢がない。
嫌だが、やるしかないか。
「俺が交渉して来ます。時間を稼ぎますので、ザレドさん達も避難してください」
開拓村の護衛3人が固まった。
「死に急ぐな。ここで4人で防衛戦を行った方が時間が稼げる。
ヴォイド様だけでも生き延びてくれれば、この開拓村は継続できる。
それに、トールはエレナ嬢を一人にする気か?」
ヴォイド様は、先に馬車で南の門から出て行った。
あの道は、王都へと続いている。別動隊がいなければ、ヴォイド様に被害が及ぶことはないはずだ。
それに開拓村を続けると言っても、今回の襲撃を許せば、今後定期的にエルフ族が来ることになる。
対立するのであれば、今撃退しないと先がない。
話している間にも、エルフ族は開拓村に近づいて来た。
もうすぐ到着してしまう。思考時間はない。
俺は、無言で盛り土を降りて、エルフ族前に立ち塞がった。ザレドさん達には、矢で応戦して貰おう。
俺を視認してか、エルフ族の進行が止まる。
「話せる人はいますか?」
俺の言葉を聞いて、エルフ達が笑い出した。
言葉は通じるのか? それとも、猿の鳴き声と思われているのか?
相手の反応を観察しているけど、矢が飛んで来た。
「これでもう、躊躇う必要もなくなったな……」
俺は、飛んで来た矢を"収納"した。
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