第30話 騎馬隊の襲撃
土地開発の中止となるのなら、ここに留まる理由もない。
セリーヌ様の侍女の指示で、撤収の指示が出た。
農器具や、生活用品を纏め始めたのだ。
「馬車は2台しかないと、かなりの回数を往復しないといけないよな……」
50人も住んでいたんだ。かなりの物資が山積みになっていた。
それも、越冬の準備も万全な状態でだ。
スミス家は、人の使い方が上手いと思う。
ヴォイド様もそうだけど、とにかく死者を出さない政策を取っている。
俺は、一応奴隷という身分だけど、待遇はとても良かったと思うし。
ただ逃げられないだけ……、そんな感じだ。
「いつでも抜け出せる牢屋と、抜け出せない城だったかな……」
この世界は、どうやら労働力不足みたいなので、人命を優先しているのかもしれない。
王様やっている人が、そんな政策を出していると思う。
「……まあ、悪い世界ではないよな」
極少数が富を独占する世界でなくて良かったと思える。
身分制度はあるけど、それほど嫌悪感もない。
少なくとも、食に困ったことはない。
スミス家というか、貴族が衣食住の保証をしているのかもしれないな。
この話も聞いた事がある……。
「飢饉の時に領主がパンを放出する義務がある……、だったかな? 飢饉時ではないのかもしれないけど、配下を大事にしてくれる家は栄えて欲しいな。スミス家も苦しい台所事情なのかもしれないけど、責任を全うしているみたいだ。協力したいと思わせてくれる」
そんなことを考えている時だった。
音を拾った。
……馬の足音かな。馬蹄?
その方向を見る。川の下流側の……、まだ堤防の出来上がっていない場所から入って来たみたいだ。馬を泳がせたのかな?
だけど、違和感があるな。
「フルプレートアーマーに、槍を持っている? 戦争にも行けそうな装備だな……」
その騎兵が十騎ほど近づいて来た。皆避けている。
誰かを探しているように、作業者を見定めながら移動している。本当に何だろう……。
騎兵が俺の前を通り過ぎて、セリーヌ様の家の前に着いた。だけど、馬から降りようともしない。
そして騎兵が、侍女の一人に話しかけた。
「空間収納の使い手は、どいつだ?」
……俺に会いに来たのか?
いや、挨拶くらいしようよ。
ここで袖を掴まれる。隣を見ると、エレナさんが不安そうな顔をしていた。
「大丈夫です。話して来ます」
もちろん、やせ我慢だ。
荒事になる未来しか見えない。さて、どうやって帰って貰おうかな。
「俺が、"空間収納の使い手"になると思います」
騎兵に近づき、背後より声をかける。
すると、騎兵が俺を取り囲んで来た。
ため息しか出ないよ。
「一緒に来て貰おうか」
「俺は、スミス家保護下の奴隷になっています。許可は貰っていますか? もしくはセリーヌ様が戻られるまで待ってください」
俺がそう言うと、槍の穂先を付きつけられた。
「もう一度だけ言う。一緒に来い!」
俺がため息を吐くと、槍の柄で殴って来た。
まあ、避けなかったので、口の中で血の味がする……。
作業者全員が殺気立つ。
それでも、俺の周囲を槍の穂先で埋めて来た。
俺は、左右の魔法陣を展開した。
◇
「……こいつら、どこの家の者か分かりますか?」
「武器も防具も、王都の守備隊の物ですね。特定されないようにしています」
目の前には、十人の兵士が縛られている。
相手見てからケンカ売れと言いたい。俺の事は知っているはずだ。これでも、オークを撃退したんだぞ?
下級兵士程度に俺を拘束できるわけもないだろうに。しかも、魔法使いが一人もいなかった。
俺は、騎兵の武器を"収納"して破壊した後、彼らの〈カロリー〉を"収納"した。物質的には、糖分になると思う。糖分を分解して疲労物質に変える。
全員飢餓状態だ。意識も朦朧としており痙攣している。
そのうち、タンパク質や脂肪が糖質に変換されて動けるようになると思うけど、しばらくは動けないはずだ。たしか20分くらいかな?
まあ、動けるようになっても縛っているし、暴れられることはないと思う。暴れたら……、俺も本気を出そうかな。
セリーヌ様配下の作業者達も結構怒っているので、皆で袋叩きでもいいな。
侍女の一人にスミス家と連絡を取って貰い、王都守備隊とか言う人に引き取って貰う事で話が進んだ。
王都守備隊と監獄車を見送って、この件は終わりだ。
気が付くと、もう夕方だ。本当に無駄な時間をとってしまった。
「……指示を出した黒幕は分かりそうにありませんね」
隣のエレナさんを見る。
それと周囲の侍女達は、苦虫を噛み潰したよう様な表情だ。
「無罪放免になりますか?」
「いえ……。下級兵士の勝手な暴走で終わりにされるでしょうね。目的は、適当に口裏を合わせられるでしょうし」
思慮が足らなかったか。
「わざと捕まって、敵の懐に飛び込んでから制圧した方が良かったかな? また来そうだし」
「……そこまですると、スミス家との全面戦争ですね。王家は日和見でしょうし」
「……次来たら、その家ごと制圧してみせますよ。屋敷を更地にするのがいいかな」
エレナさんが、ため息を吐いた。
「とりあえず、撤収作業を続けましょう。それと、夕食の用意ですね。私は手伝いに行きますけど、変なことは考えないでくださいね」
一応、頷く。
まあ、俺から何かをする気はない。だけど、また来たらどうしようかな……。
最悪、殺害してしまうこともあるだろう。
そんなことを考えていると、作業者達が俺を見ているのに気が付いた。
「……なにか?」
「兄さんは、戦える人なんだな……。それも、とても強い。こんな場所で働かなくても、いい職に就けるだろうに。王都の連中は悔しがっているだろうな。それにしても、スミス家は凄い人を雇ったもんだ。怖いくらいだよ」
俺は、苦笑いだ。そうか、俺は怖がられているのか……。
自重しないとな。
それとオークションで、誰も気が付かなっただけなんだけどね。
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