第20話 事後処理1
「概念の収納とはなんなのだ?」
今俺は、ヴォイド様の前で説明を要求されている。
俺の周りには、オークに当たった6人が取り囲んでもいる。
それと、エレナさんは、まだ立てないので、座っている状況だ。
さて……、なんと説明したもんかな……。
俺は、両手に魔法陣を展開した。
「俺の右手は、〈物質〉を"収納"すること専用みたいです。
ですけど、左手は、〈物質以外〉を"収納"すると考えてください。重要なのは、"収納"と"開放"時に物質に作用する点です。
今は、〈熱量〉と〈負傷〉だけですけど、検証すれば数は膨大になると思います。
今の言葉で分かると思うのですけど、俺自身も良く分っていません。
ただし、検証次第では、現行の魔法・スキル体系に革命を起こせるほどの性能に進化するかもしれません。まあ、まだ可能性の段階ですけど……」
全員が驚いている。
「エレナが全快していない理由は?」
「失血ですね。体から流れ出てしまった血は、"収納"できませんでした。
そうですね……、『時間回帰』とも思ったのですけど、違うみたいです。なんと言うか、今は表現できません。
"開放"時に物質に作用すると簡単に纏めているのですけど、どの様に作用するのかは俺も分かっていません」
「……検証には、どれくらい時間が欲しい?」
「年単位必要だと思います。"物質以外の収納"と簡単に纏めていますが、ありえない概念を"収納"できた時に、真価を発揮すると思います」
全員が絶句している。言葉もないみたいだ。
「……規格外すぎるね」
「壊れているだけですよ。既存の体系とは大きく異なるのでしょう。
そういえば、エレナさんが魔力を布状に変換していましたね。あれはなんなのでしょうか?」
「エレナの魔法か……。エレナも〈ハズレ〉認定されて私が雇った。この世界の魔法というのは、火・風・水・土と光・闇に属するものがほとんどだ。収納魔法は、大きく分けると闇属性となる。
だが、エレナの"魔力を布状に変化させる"という魔法は、どの属性にも属さないと判断されたのだ」
疑問に思ってしまう。
「属性魔法は分かるとして、既存の体系に属さない魔法は〈ハズレ〉になるのですか?」
「基本的にそうなるね。師匠がいないと基本的に大成しない。まれにだが、王家が認める者も出て来るが、十年に一人くらいだ。
多分だが、トールがそうなると思う」
ザワザワし出した。期待されてもな……。
ここでエレナさんを見る。
「エレナさんの魔法の説明をして貰ってもいいですか?」
「……今は置いておきましょう。時間ができたらお話します。それよりも、今後のことを話し合いましょう」
「開拓村に被害はなかったのですよね? 負傷者が少しだけと聞きましたけど」
「トールの空けた大穴をどうするかくらいだね。それと食料が少しダメになったが、微々たるものだ」
「……穴は埋めておきます。でも、オークが現れた理由は調べておいた方が良くないですか?」
「原因が分かってもね、対策のしようがない。周囲の警戒以外に対処方法がないのだよ」
そんな土地の開拓とか……、なにを考えているのかな。
「確認なのですが、オークが出たのは初めてなのですよね?」
「うむ。この3年で初めてだ。王都に報告する必要があるね」
それはそのまま、俺のことを報告することになる。面倒ごとが増えそうだな。
後は、軽く雑談して終わりとした。
一応、セリカさんの負傷だけ"収納"して、実演してみせた。
女性なのだ、体に傷を残して欲しくはない。
顔の傷が消えると、皆驚いている。傷痕が残らなくて良かった。
そして気になることがあった。
『古傷は、"収納"できないのか……』
セリカさんの両手の傷を見て気が付いた。
セリカさんの両手は、切り傷と火傷の痕があった。苦労して来た人の手だ。働いて来た人の手なんだろう。
俺とは真逆の生活を送って来た人なんだろうな。
「私の手になにかあるの?」
見とれてしまっていたか。
「……いえ。検証したいことが少し増えただけです。今は置いておきます。それよりも外の穴を埋めて来ますね」
それだけ言って、村長宅を後にした。
◇
「村民は、大丈夫そうだな」
村民は、何事もなかったように除雪していた。
怪我や病気の回復ができるのなら、それを最優先で覚えたいな。開拓村には医者がいないからだ。
そういえば、精神を壊してしまった異世界人は、亡くなったと聞いた。仮にだけど、〈精神の不安定〉を"収納"できた場合どうなるのかな……。
「俺の壊れ性能の収納魔法……。調べることが多いな。概念の収納……。それと、右手の魔法陣もまだなにかあるような気がするんだよな」
その後俺は、自分で空けた穴を埋めて、自分のあばら家に戻った。
今日の水汲みは、……サボろう。貧血でクラクラするので。
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