第21話 検証5

 ……寝ていたみたいだ。数日は、貧血状態が続きそうだな。

 上体を起こした。

 そして、気が付く。


「……なにしているんですか?」


 セリカさんが、俺の横に座っていた。

 この人、気配がないよ。怖いな……。


「……監視です。エレナの代わりで来ました」


「逃げませんよ? それと、エレナさんは、俺のあばら家には入って来ませんでしたよ?」


「あら? そうなの……。チッ、ヘタレ(ぼそ)」


 ……ここで怒ってはいけない。落ち着こう。


「監視と言われても、逃げることもできませんよ。収納魔法に関しては、まず考えてからだし。今はとりあえず、食事の量を増やして貰う事からですかね」


 ここで、セリカさんがため息を吐いた。


「……オークの調査に行くかもしれないので、私が見張ることになったのです!」


 怒気を含んで、語尾が強くなっている。かなり怒っているな……。


「行く気はないんですけどね……」


「力を得た人というのは、時として無謀なことを行うものですよ」


 過去の失敗があると言っているのか?

 いや……。オークを収納する時の俺の態度から、判断されたのかもしれない。

 あの時の俺は、確かに異常な状態だった。


「さて、起きたのだし、食べましょうか。食事を村長宅より運んで来ます。逃げないでくださいね」


 そう言って、セリカさんが出て行った。

 ここで、ため息が出た。


「セリカさんは苦手だな……。なんか、ヘイト高い気がする」


 これから数日間は、セリカさんの監視か……。

 その後、温かい料理を受け取って食べた。

 それと、ヴォイド様から、体調が戻るまでは、静養を言いつけられた。収納魔法の実験も禁止だそうだ。


 食事が終わると、セリカさんが帰って行く。泊まるとか言わなくて本当に良かった。

 横になって考える。


「水は、雪を溶かせば得られるよな……。薪も十分にあるし、数日くらいなら困らないと思う」


 数日の静養……、前の世界では孤独な時間が多かった。だけど、開拓村だともどかしい。

 働きたくて仕方がないとは言わないけど、一日なにもせずにいると、落ち着かない。

 漫画でもあれば、また違ったんだけど……。


「寝るか……」


 お腹も満たされたし、眠気が襲って来た。

 今はとりあえず休む。

 体調が戻れば、収納魔法の検証もできるはずだ。

 やらなければならないことは多い。

 思考を巡らせていると、いつの間にか眠っていた。





 とりあえず、3日ほどで動けるようになった。

 それと同時に、俺の監視役もエレナさんに交代となる。セリカさんは、少し怖かった。

 エレナさんだと安心してしまう、俺がいる……。


「収納魔法の検証ですか?」


 今は、開拓村の外にいる。今日は晴れていて、風も吹いていない。


「はい……。特に左手の魔法陣ですね。入る物と入らない物を事前に知っておきたいのです。それと、"射出"と"合成"ですね」


「射出? 合成?」


 見せた方が早いな。

 俺は右手の魔法陣を展開して、"前進する"という〈条件〉をに付与した。

 速度はまだ出ないけど、魔法陣が俺から離れて進んで行く。

 そして、盛り土に当たり魔方陣が消える。

 収納魔法から、1リットルの水が"開放"され、盛り土を濡らした。

 エレナさんを見ると絶句しているよ。


「魔法陣を離れた場所まで飛ばすことが可能となりました。今は、〈1リットルの水〉を"開放"するという〈条件〉だったのですけど、"収納"も可能です。それと、"この場に留める"という〈条件〉でもいいですね」


 エレナさんが、ゴクリと唾をのんだ。意味を理解したみたいだ……。

 正直これは、俺からしてもチートだと思う。速度がないので、戦闘とかには向かないけど、応用の幅がかなり広がった。俺の思考の反発力次第では……、いや止めよう。

 オークの時の様なことは、もう二度とごめんだ。

 頭を切り替えて、説明を続けよう。


「次は"合成"です」


 俺は、右手の魔法陣から『雪』を取り出した。


 ──チョロチョロ


「これは、雪を溶かした水になります」


 エレナさんは、理解できないようだ。


「俺の収納魔法は、収納中は形を保ちます。時間停止機能もあると考えてください。その雪を溶かした状態で取り出せました」


「……熱を加えた?」


「当たりです。収納中に『雪』と『熱量』を合成してみました。それで"開放"する時に、『水』になります」


「ふむ……。負傷は?」


「『川の水』と『軽度の負傷』は"合成"できませんでした。ただし、オークとなら可能ですね」


 この3日間、暇だったので検証した結果を披露する。これは、『収納魔法の実験ではない』と言い張る! 収納魔法の中でのなのだ。"開放"はしていない。……暇だったので、頭の中で考えただけです!

 実験はしていない!

 セリカさんには、怖くて言えないけど……。


 この"合成"は、かなり有用だ。検証が進めば、俺の収納魔法は異次元の強さとなると思う。

 それが確信できるほど、自信がある。


「考え方次第では、有用ですね……」


 エレナさんも理解してくれたみたいだ。


「それと、古傷とかありますか? もしくは、痛みがある故障個所とか」


 エレナさんが驚く。


「治療できるというのですか?」


「俺の、『突き指』と『足首の捻挫』は収納できました。"収納"の状態として、〈痛み〉と表現されています。

 〈概念〉として"収納"したのですが、延びた靭帯もしくは、切れかかった靭帯が修復されていました。

 それと外傷ですが、『その部分だけ皮膚を削り取る』事ができました。こちらは右手の魔法陣になります。

 削られた皮膚は"閉じる"という〈条件〉を付与しました。ただし、凄い痛いです。まあ、その〈痛み〉も左手の魔法陣で"収納"すれば消せますけどね」


 左腕を見せる。幼い頃に負った手術痕があったのだけど、消えていることを説明した。

 ちなみに、この古傷の検証は、ついさっき行いました。

 朝食時に、監視役がエレナさんに交代すると聞いてから行ったのです。

 なので、セーフなはず……。言い訳が多いかもしれないけど、セリカさんは怖かったのです。


「外傷を、皮膚や筋肉ごと削り取って、後から痛みを取り除く……。傷跡がないのを見ると、削った皮膚が閉じている? それが条件?」


 頷く。


「左右の魔法陣を同時展開すれば、外傷も消せるでしょう。まあ、広い意味での"収納する"になります。それを、"開放"することも考えて、なにかしらに活用したいと思います」


 エレナさんはとても驚いている。

 先ほどから驚かせてばかりだな。

 だけど、死線を潜り抜けた俺の収納魔法は、かなりの成長を遂げている。

 もはや、オークの襲撃前とは別物と言ってもいい。

 中二病的に、『進化』と言っても、誰も笑わないだろう。後は、俺の発想力次第だ。いや、まだ『進化』する可能性……。

 自分で口角が上がったのを自覚する。


「……収納魔法で治療も可能だと? 外科手術になるのかな? 破格の性能ですね」



「…………。壊れているだけですよ」

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