第16話 オークの襲撃1

 とりあえず、開拓村に帰ることにした。


「エレナさんは、どうして川に?」


「トールさんを迎えに来た以外に、なにかあると思いますか?」


「……王都でなにかありました?」


「鋭いですね……。トールさんに依頼が来ました」


 なんだろう? でもヴォイド様も言っていたな。

 尋ねても、教えてはくれなかった。ヴォイド様から直接聞いた方がいいらしい。

 ……もしくは、からかわれているのかな。まあ、いいけど。

 その時だった。


 ──カンカン


 開拓村の鐘が鳴った……。


「あれ……、なんでしたっけ?」


 この村に来た時に説明を受けた。その時以来、聞いていない。


「重大な事態が起きた時に鳴る鐘ですよ! 火事とか、魔物の出没、盗賊の出現とか……」


「急ぎましょう!」


 俺達は、走った。



 村人が、村長宅に集まっている。

 俺達もその場に向かった。


「なにがあったのですか?」


「オークだ……、魔人が現れた……」


 ダメだ、俺には分からない。エレナさんを見ると、真っ青だ。


「トール! こちらに来てくれ!」


 呼ばれた方向を見る。ザレドさんだった。

 俺は、盛り土を急いで登る。

 指で示された方向を観察した。そこには、人型の何かがいた……。

 体長は2メートルを遥かに超えている。3メートル近いと思う。そして、筋骨隆々の体。体重は200キログラム以上ありそうだ。

 プロレスラーが、子供に見える。そんななにかが、そこにはいた。


「……なんですかあれ? あれが、オーク?」


「ああ、オークだ。約百年前に戦争してな、人族は惨敗した。だが、なんでこんな辺鄙なところに出るんだよ……」


 ザレドさんは、震えている。


「……襲って来ますか? 戦闘の回避は不可能ですか?」


「無理だな。言葉が通じない。それと、〈ハグレ〉だと思う。一匹だと思うが、二匹目がいたら俺達は全滅だな……」


 まずいな、何の準備もしていない。

 この数十日で、戦闘になることはなかった。害獣の駆除くらいだ。それも、ザレドさん達、護衛に相手して貰っていたし。

 まず、俺に武器と言うか、攻撃手段がない。


 オークは、少しずつ近づいて来る。

 ここで、残りの護衛が来た。ザレドさん配下の、トマスさんとケビンさん。執事の、アンソニーさんとハリソンさん。

 武装は完了している。

 今戦えそうなのは、この5人か……。俺は戦力外としか言いようがない。呼ばれて来ただけだ……。


「エレナさんとセリカさんは?」


「村民の避難に当たらせました。ここは、6人で当たるしかありませんな」


 俺も頭数に入っている!? アンソニーさんは、なにを言っているの?

 少し雪が降る天気だけど、冷や汗が出て来た。

 ダメだな、考えなければ。俺は、頭でしか役に立たない。それは、前の世界の知識でもいいはずだ。

 オークを見る。少しずつ開拓村に近づいて来た。


「……オークはなにを狙っていますか? 殺戮が目的ですか?」


「……食糧だろうな。森を彷徨って帰れなくなっちまったのさ。それで、ここまで来たと考えるのが妥当だろう」


「食料には、余裕があります。分け与えれば、戦闘の回避になりませんか?」


「……食料があると判断されれば、冬の間はここに居座られるさ。俺達を全員踏み潰してな……」


 そこまで話が通じないのか。

 相手は、二足歩行だけど、虎やライオン程度の知能だと考えよう。

 初手から、全力がいいと思う。


「……何か思いついたか?」


「……オークが、盛り土に辿り着いたら、放水します。隙を見せると思うので、5人で攻撃してください」


「あ~……、そりゃ無理だ。俺達の武器じゃ、オークの皮膚を裂くのが精一杯でな。致命傷は負わせられない」


 ト、トマスさん? なに言っているの?


「攻撃手段がないと?」


「トールが持っていそうだと思ったのだけどね……」


 ハリソンさんの言葉に、5人が頷いた。

 おいおい、絶体絶命じゃないか!

 後ろを振り返る。

 村民は東側の川への道に誘導されている。ヴォイド様が先頭で、殿がエレナさんとセリカさんか。多少の物資も馬車に積んで運び出そうとしているので、数日くらいなら持つと思う。

 いや、こうなると、川付近にもキャンプ場を設営した方が良かったな。

 まあ、結果論か。

 無駄なことを考えていても仕方がない。


「オークに傷を付ける方法は、なにかありませんか? 魔法でもかまいません」


「「「……」」」


 全員が黙ってしまった。ないのか……。

 これ、防衛は無理じゃね?


 今までのことが、走馬灯のように蘇る。

 この世界に来て、奴隷落ちしたけど待遇は良かった。仕事を任せられて、自己肯定もできた。

 それなりに充実感はあったけど、ここで終わりかもしれないな……。


「撤退しましょう……。開拓村を一時的に放棄します」



 全員が苦虫を噛み潰す表情を浮かべたけど、盛り土を降りて、エレナさん達と合流してくれた。

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