第17話 オークの襲撃2
6人でエレナさんとセリカさんの元に向かう。
「どうなりました?」
「あれは、無理ですね。開拓村を放棄しましょう」
エレナさんと、セリカさんの表情が曇る。
「多少壊されるかもしれませんが、あの体ではこの開拓村には住めません。
なにも準備しない状態で、無暗に突撃しても死体が増えるだけです」
言いたくないけど、正論をぶつける。
他に選択肢などない……。
その時だった。
──ドン
右手方向で大きな音が鳴った。その方向を見ると、門が吹き飛んでいる……。転がって行く門を見て思考が停止してしまった。
オークは、開拓村の西側に現れたはずだ。それも、まだ距離があった。
だけど、開拓村の南側の門が吹き飛んだ……。風が吹いて煙が晴れる。
「……二匹目のオークですか」
最悪の最悪だ。
だけど、悪いことは重なる。エレナさんが飛び出してしまった。
指示を聞いてよ……。
「エレナさんは俺が止めます。みんな逃げてください。追ってはこないはずです!」
「……エレナを連れて来てください。そうしたら、8人で下がりましょう。私達は、最初に見つけたオークの方に当たります!」
セリカさんの言葉に、誰も反論しなかった。
西側のオークが到着するまで、1~2分はかかるはずだ。
攻撃手段がないのなら、二匹のオークが揃った時点で全滅だろうな。
「なんで、命のやり取りをしなければならないのかな……」
独り言を呟き、南の門があった場所に向かった。
オークは、斧を振るっている。粗末な石斧だ。だけど、斧だけでも、俺よりも重そうな石の塊に、棒を縛り付けている。
その周りを、エレナさんが飛び回っている。
掠っただけで、致命傷になりそうな攻撃を避け続けている。ナイフでたまに反撃しているけど、切れていない。
今は時間稼ぎする意味もない。
「エレナさん下がって!!」
俺が大声で言うと、オークが俺に向かって来た。
俺は、右手で地面に触れた。
考える時間はない。
俺は、地面を"収納"した。
俺の目の前の地面が、直径5メートル程度の大きさでいきなり消し飛んだ。その〈落とし穴〉にオークが嵌る。
深さも5メートルはあるはずだ。
落とし穴……。定番であるのだからこそ、簡単には抜け出せないはずだ。まあ、斧を振り上げられると、俺まで届きそうだけど……。
「……埋めてやる」
俺は、地面を"開放"した。
だけど、オークが斧を振るうと、土砂が舞う。視界を遮られてしまったので、"開放"を中断した。
「うわ……っぷ。細かい土じゃ弾かれて終わりか。硬くて大きい岩なら、一撃だったのだけど、俺の収納魔法じゃできないな」
俺の収納魔法の欠点が、最も危険な時に露わになってしまった。奥歯を噛み締める。思考を巡らせるけど……、決定打が思い浮かばなかった。
ここで、エレナさんが来た。
無言で怒っている。
そして、エレナさんが魔法を使った。
「布の生成ですか?」
エレナさんが、袖から布を飛ばしたと思ったら、その布がオークの顔を覆って行った。
布槍術かと思ったけど、ありえない軌道を取ったので、魔法だと思う。
「……魔力の物質化が私の魔法になります。この布は私の魔力が尽きない限り破れません。その前に窒息させます!」
可能なのか? オークは暴れている。
エレナさんの布を引っ張って引きちぎろうとしているけど、延びるようで壊せていない。
どうする? "収納"した地面を"開放"して、また埋めてみるか? 援護になるかもしれないが、邪魔になりかねないな。
エレナさんとオークの一進一退の攻防……。
俺はそれを見ている事しかできなかったのだけど、その均衡もすぐに崩れた。
二匹目のオークが、盛り土を登りきって開拓村内に侵入して来たからだ。
セリカさん達が、牽制し始める。
「エレナさん。もう無理です。逃げてください!」
「……あと少し。あと少しなのに」
エレナさんは、拘束したオークを解く気はなさそうだ。
そうなると、俺が盾にならなければならない……。
今更だけど、戦闘系のスキルが欲しかったよ。
そう思っていたのだけど、事態はまたもや俺の予想外の方向に進む。
セリカさん達6人が、戦闘を始めてしまったからだ。
『話の聞かない人達だ。これ全滅コースじゃないか……』
理由は分かる。この開拓村をそれほど大切にしている人達なんだ。
一匹でも倒せたら、放棄以外の選択肢も見いだせると思っているのかもしれないけど。
それをエレナさんが、実現させようとしている……。
無謀だ。無謀としか言いようがない。
無為、無策、頭悪い……。勇気でもない。確率極小の可能性。罵る言葉しか出て来ない。だけど、俺だけ逃げる気にはならなかった。
『どうする? 村長宅に保存してある食料を投げつけるか?』
俺は思考を加速させる。俺には、それしかないのだから。
慌てて馬車に積み込んだらしく、食料は多少だが地面に散乱している。
俺が視線を外している時だった。
背後にいた、エレナさんにオークの斧が当たった……。視界の端でエレナさんが、吹き飛んで行く。
慌てて振り返る。
魔力で作った布は、消えてしまった。
オークは、とても息が荒い。あれであれば、すぐには落とし穴から抜け出せないと思う。
俺は、即座にエレナさんの元に向かった。
「……体の半分が、砕けている」
見るからに重症だ。
薬でどうこうなるレベルの傷じゃない。
開拓村に医療施設なんかないけど……、早急に外科手術が必要だ。
「……なんでこんな無茶を」
「……逃げて」
会話にならない会話をする。
すると、落とし穴からオークが出て来た。
開拓村の西側では、ザレドさん達が応戦している。いや、牽制程度……、か。
「……俺だけ逃げられるかよ」
俺は、両手の魔法陣を展開した。
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