第15話 雪1

 今日も除雪作業だ。それと、各家を周って水を配る。これは、毎日行わなければならない。本来はかなりの重労働なんだ。

 また、昼頃に、村長宅に集まることになっていた。安否確認だ。

 家族単位で生活している者は、誰か一人でいいけど、一人用の家を貰っている者は毎日顔を出す必要がある。

 俺は、当然後者だ。毎日顔を出しに行く。

 病気の心配もあるので、面倒でもこれは欠かすことはできない。

 そういえば、先日、薬師の人を紹介された。顔を隠しており、一言も発しなかったけど、女性ということだけは分かった。

 それと俺には、「魔力欠乏症」に注意するようにと書かれた手紙と、何かしらの薬が処方された。

 薬を飲んでみたら、魔力が若干戻った感じがしたな。今度、薬草の種類とか聞いてみよう。海への道も途中までは作ってあるんだ。春になったら山菜採りもできるはずだ。薬草を教えてくれれば、採集もいいだろう。

 彼女は、村民一人一人に薬を配っていた。村民全てを診てくれているみたいだ。


 俺は顔を上げて、開拓村を一瞥する。


「昼までには、開拓村内の除雪は終わらせたいな。夕暮れ前に、もう一度除雪しなければならないし」


 村民が作った雪の山を順次"収納"して行く。

 ここで、収納の状態を確認してみる。


『川の水:50リットル、雪:1000リットル』


 雪の収納の上限が分からないな。水と雪による違いも分からない。

 今の積雪量であれば、一回で開拓村内の全ての雪を除雪できるけど、冬本番になった時のために、事前に調べておいた方がいいな。

 それと、雪から水に変更できれば、また違った使い道もあると思う……。

 考えながら作業をしていると、村民が目に映った。村長宅に向かっている。


「さて、時間かな。俺もヴォイド様に顔を出しに行かないとな」





 村長宅で全員揃うのを待つけど、一人来なかった。ヴォイド様と薬師が安否確認のためその者の家に向かう。

 一人以外の安否確認は終わったので、俺達は、セリカさんから配給を受け取り解散となった。


「……することがないな」


 とりあえず俺は、川に水汲みに行き、そこで収納した雪を"開放"してみた。


「……雪は、壊せないんだな」


 収納した状態を保って出て来た。固体として最小単位と言う事だろう。

 俺の魔法ではこれ以上『壊せない』のかもしれない……。


「始めてかもしれないな、形を壊さずに"開放"できた物は……」


 川の水を開放する時は、純粋なH2Oだ。超純水と言っていいと思う。まあ、桶などの入れ物に触れると、不純物が混じり超純水でもなくなるのだけどね。

 ヴォイド様に説明して、煮沸の必要すらない事を話した。まあ、慣れない人はお腹を下してしまったけど、今は煮沸するかどうかは、個人の判断に任せている。

 "開放"されて行く雪を見て、考える。


「収納状態で温度を与える方法はないかな……」


 俺の収納魔法には、時間停止機能があると思う。もしくは、状態保存だな。

 普通であれば、有用な機能なのだけど、それを崩したい。


 ──ヒュー……


「へくしょん!」


 木枯らしが吹いた。

 少し考えて、焚火を起こすことにした。

 単純に寒かったので……。





 ──パチパチ


 火の爆ぜる音が、心地良いサウンドとなっている。

 両手で火に当たる。今は雪は止んでいた。


「…………」


 ……無意識だった。考えていたわけではなかった。

 左手の魔法陣を展開してしまった……。


「……え?」


 収納の状態を確認してみる。


『川の水:200リットル、雪:900リットル、熱量:100キロジュール』


「熱量……?」


 俺の左手の魔法陣は、今『なにを』収納したんだ?



 しばらく固まっていた。

 考えが纏まらなかったからだ。


『川の水:200リットル、雪:900リットル、熱量:200キロジュール』


 増えている……。間違いない。だけど……、どういうことだ?

 ここで、背後より声をかけられた。


「……なにをしているのですか?」


 驚いて振り向く。


「え……あ……、エレナさん? 帰って来たのですか?」


「……隠し事をしていて、見つかった反応ですよね?」


 鋭いな、エレナさん。

 大きく息を吐き、焚火に雪を被せた。


「火に当たっていただけですよ? 寝てはいなかったのですけど、気を抜いていました」


「ふ~ん? まあ、害獣となる魔物もまだ出るかもしれないので、注意してくださいね。それで、ここでなにしていたのですか?」


 そう言えば、そうだ。なんと答えようか。


「……水汲みに来たのですが、寒くなったので火に当たっていました」


「ここで? 開拓村に戻れば、家があるのに?」


 う……。鋭い。エレナさんには、嘘や隠し事はできそうにないな。


「……少し魔法の実験もしていました。雪をどうしようかなって。有効な使い道があれば、雪も資源になるはずだし」


「まあ、戻りましょうか。戻りながら話を聞きますよ」


「寒いですしね。エレナさんの王都での報告も聞きたいです」


 互いに笑い合った。

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