第13話 報酬1

 ヴォイド様に呼び出された。

 今は、村長宅で二人きりだ。


「海への道の整備……、ご苦労だった。そして、『塩』は助かった。これで、王都に報告も行える」


「……ありがとうございます。まだ中途半端ですけど、塩も少量ですが可能だと言うことは分かりました」


 どうやら、今日は労いみたいだな。


「それでなのだが、褒美を与えたい。何か欲しい物はあるかな?」


 予想外の質問が来た。

 今の俺は、奴隷の身分のはずだ。

 功績があると言っても、褒美を貰える立場ではないはずだ。

 罠……、少し警戒してしまう。


「……奴隷の身分から解放される方法を、教えて貰えないでしょうか?」


「う~ん。そうか、教えていなかったね。

 この国では、主人が奴隷契約の魔法を解除すると、平民とみなされる。

 その際に、主人が戸籍を作るのが義務になるのだがね。

 私の場合は、開拓村から一定の税収が取れるようになれば、奴隷全員を解放する予定でいるよ」


「……甘くないですか? 一生飼われると思ったのですけど」


「この国の歴史を知らないみたいだね。

 そうだね……。ではなぜトールは、召喚魔法で異世界転移させられて、呼ばれたと思う?」


 分かるわけもないだろうに……。

 起きたら、いきなり手錠をかけられてオークションだぞ?

 だけど、試されていると思う。

 何かしら回答した方がいいんだろうな。

 思考を巡らせる……。


「……人口が足りていない」


「うむ。それも正解の一つだね。

 100年以上前になるが、人族以外の種族との接触があってね。……戦争になったんだよ。

 それで人口の半分と多くの領土を失った。

 その時に私の祖先が、衣食住を提供して、多くの命を救い、王に推挙されたんだよ」


 この国の歴史なんか、知らないんだけど……。

 いや、興味がなかっただけか。

 100年前は文明として未成熟であり、指導者もしくはカリスマが欲しかったのだと考える。

 だけど、俺が異世界転移されたこととは繋がらない。

 オークションの時は、技術を欲してるとは思えなかったからだ。


 求められたのは、魔法だけであり、それと奴隷がどう繋がるというのか……。


「分からないですね」


「……魔法は便利でね。労役をかけないと定住しない者が多くいた」


 予想外の回答だな。

 そうか、この世界で人族は個の力が強いのか。群れなくても生活できてしまう。

 確かに、仮に虎や熊を一人で倒せるのであれば、高度な文明など必要ないかもしれない。

 銃などの武器が発明されなかった世界……。

 そうなると……。


「ヴォイド様のご先祖様は、異世界転移者であり、追いつめられた人類を救った……。

 その後、異世界人を呼んで、一定の労役を科して、この世界に慣れさせてから、解放している……」


「まあ、そんなところだ。いきなり森の真ん中で虎と対峙とかは嫌だろう?

 生き残れるものは生き残れるらしいが、できる限り命を大切に扱いたい。

 それと、私の祖先は転生者であった。前世の記憶を持った人だったと記録されているよ」


 疑問もあるけど、分からなくはない。

 それと、今の会話だけで、俺が想像していた『奴隷』とは言葉の意味が異なることが分かった。この世界は、『人権』が出来つつある世界なんだと思う。変革の時代なんだろうな。

 そうなると……。


「俺が召喚された理由はありますか? それと、俺だけなのでしょうか?」


「そこは神の気まぐれだね。だが、一定水準以上の魔力を持つ者が呼ばれる。

 それと、集団転移も行われたことはあるね。ただし、そこは王家の秘儀として秘匿されている。

 私でも調べることはできない内容だね……」


 異世界転移時のことを調べたいけど、無理そうだな。


「そうなると、開拓村完了後に世界を周ってみたいですね。"人族以外の種族"を見てみたいです」


「……お勧めはできないな。まあ、国境線となる防衛地点まで行けば見れなくもない。だが、好奇心で戦端を開いたら、重罪となるよ?」


「予備知識なしで飛び込むことはしませんよ」


 ヴォイド様が笑った。


「それで、褒美なのだが……」


「今は思いつきませんね。奴隷解放時までには考えておきます」


「……この開拓村を認めさせる自信があると?」


「税を納められる土地にするだけでいいのであれば、可能だと思います。

 この数ヵ月で随分と発展しましたからね。

 まあ、これから冬ですので、足踏みとなりますが、数年後には税は取れるのではないでしょうか?」


「頼もしい言葉だね」


 含みのある言い方だな。目標を明確な数字で表して欲しい。


「私としては、褒美にエレナを伴侶に選んで欲しかったのだが………」


 そう来るか。それで、先ほどから『褒美』と言っているのか……。


「彼女とは、なにもないですよ? 触れてもいません」


「……報告は受けている。まあ、エレナ本人に聞いているのだがね。その……なんだ。あんなに嬉しそうに話すエレナも見たことがなかった。まあ、下世話かもしれないが考えてみてくれ」


 ……人を褒美には選べないよ。こればかりは、文化の違いだな。

 それに貴族位を買う予定の人だ。先を見据えると、行動は共にできない。


「奴隷解放時にお別れとなるでしょう。それと、俺にその気はありません」


 エレナさんを使って、俺をスミス家に縛ろうとする考えが、見え隠れする。

 甘言には、惑わされない。

 家に縛られるのは、もう御免だ。俺は自由に生きたい。

 いや……、孤独にか。


「そうか。残念だよ」



 その後、少し雑談をして村長宅を後にした。

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