第14話 雨1

 朝水汲みをして、朝食を頂く。その後、海へ。

 今日からは、馬を借りることができた。

 乗馬の練習は行っていたので、乗ることはできる。まあ、馬が俺を連れて行ってくれている状況だな。

 これで、西側の森で魔物に出会っても逃げられると思う。

 護衛も付かなくなり、今日からは俺一人だ。季節が変わったので魔物は、出なくなると判断された。

 ただしエレナさんが、昼食を持って来てくれるのは変わらない。

 進捗状況の確認をするためと言われた。

 さぼってると思われているのかな?


 午前中は、隘路を通り海へ行き、塩を作る。

 ノルマは、二袋分だ。

 俺の魔法は、一度に"解放"できないので、塩の製作には時間がかかる。

 まあ、煮沸による製法よりは速いかもしれないけど、せっかくの魔法なのだから瞬時に製作したいとか思ってしまう。


「収納魔法の容量も大分増えてきているし、作業し続けていれば、また変わって来ると思うけど……。考えないとな」


 〈解放の条件〉が、未だに明確になっていない。それと、左手の魔法陣も。

 改善の余地は残されていると思う。


 陽が真上に上がる頃に、エレナさんが来た。

 一緒に昼食を頂き、塩を持ち帰って貰う。

 それと海産物を取っておいた。海藻や貝類、それと罠を仕掛けておいたので、小さいけど海魚などが手に入った。

 夕食時に火を通して村民に振舞う予定だ。


 午後は、道作りだ。隘路を迂回して、山間の谷間に向かうように道を作る。

 午前中で魔力をほとんど消費していしまったため、作業効率は悪い。

 一日に1キロメートル進めればいい方かな。

 まあ、もう急ぐことでもないし。


 そう思った時に、落とし穴があった。





「今日も雨か……」


 もう十日ほど、雨が降り続けていた。

 開拓村は、雨が降ると休みになる。

 俺は森の西側に行ってもいいのだけど、エレナさんに止められた。

 こっそり抜け出したら、投げられた。一本背負い投げ……。


「次は、懲罰房に入って貰いますからね!」


「はひ……」


 エレナさんは、武術の達人でもあるようだ。

 でも、殺気の篭った目で睨むのは止めて欲しい……。

 雨の日は、おとなしく寝ていよう。


 開拓村の畑は、かさ上げした地面に作られているので、排水は以前沼地だった部分に流れて行く。

 地面に吸収された水は、俺が作った堀へ。

 堀の水は、更に低地方向へと流れて行く。

 開拓村は、まだ全体の1/3程度しか使えないけど、治水対策も必要だな。豪雨になった時に、浸水する可能性がある。

 用水路も考えるか……。



 俺はすることがないので、あばら家から外を眺めていた。

 海への道は、残り5キロメートルといったところだ。

 かなり遠回りすることになるけど、安全な道を作りたいので妥協はしない。

 それと、整地だ。今は伐採のみなので、道は所々穴が空いている。

 やりたいことは多いけど、作業が止まってしまっている。


「もどかしいな……」


 前の世界では、俺は無気力に生きていた。

 だけど、異世界転移してからは、強制労働とはいえ充実感を得ている。

 他人とも良く会話するようにもなったと思う。


 俺の〈ハズレ〉認定された収納魔法……。

 これだけではないけど、魔法は俺に自己満足な肯定感を与えてくれた。

 他の人にはできない大規模工事が、俺一人でできるんだ。

 そして、ヴォイド様やエレナさんが、賞賛してくれている。


 そんなことを考えている時だった。

 雨音が消えた……。

 開拓村の全ての音をかき消していた大轟音が突然消え、乾いた風の音が聞こえた。

 俺は、頬杖をついて、ため息を吐いた。


「雪に変わったか……」





 ヴォイド様の屋敷へ行く。今後の予定を聞くためだ。

 セリカさんが、屋敷の外に出ていたので、お目通りを聞いてみる。


「……事務作業中ですが、多分大丈夫です。付いて来てください」


 セリカさんとは、あまり話したことがないのだけど、凄い無表情だ。

 昔の、エレナさんもあんな感じだったけど。

 表情が読めなくて、ちょっと怖いかな。


 ヴォイド様はすぐに会ってくれた。


「今後どうしましょう? 雪が降ったら森に入らない方がいいのですよね?」


「うむ。魔物も冬眠に入るが、万が一出会ったら凶暴化した状態となるであろう。森には入らないでくれ。

 それと、今エレナに王都に報告に行って貰っている。5日前に出発したから帰って来るのは当分先だ。

 多分だが、王命が来ると思う。それまでは、開拓村で休んでいて欲しい」


「……王命ですか? 俺に?」


「うむ。稀有な人材を見つけて、海までの道が切り拓けたと報告した。

 土木関係の仕事になると思うが、冬場は他の領地に行って貰うことになるだろう」


 ため息しか出ない。


「まあ、そう嫌な顔をするな。褒美は出ると思うぞ?」


「……まあ、従いますけど、転勤は嫌ですね。場合により、開拓村に戻れないかもしれないし」


「功績を積んで、好きな所に住めばいいじゃないか?」


「まあ、知見を広げて来ます」


「よろしく頼むよ」


 笑顔のヴォイド様と、ヴォイド様の背後を守る無表情のセリカさん。

 今俺は、どんな表情をしているのかな……。


 それとこれからのことは、エレナさんが帰って来てからか……。

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