第12話 海への道3
次の日から俺は、生木の木の根を片っ端から"収納"することにした。
歩調は合わせずに、道づくりを優先することにしたのだ。
地面には生木が並んで行く。
できる限り静かに倒す。他の木にぶつからない様に気を付けて伐採を行う。資材はできる限り無駄にしたくない。
木の根は、できる限り細かくして、ウッドチップにしている。踏んでも問題ないと思う。枝打ちは任せている。
"開放"時の条件ではないけど、感覚で細かくすることが可能と言うことが分かって来た。逆に大きくすることもできそうだ。
「トール。急にどうしたのだ?」
ザレドさんが聞いて来た。
「少し急ぐことにしました。資材が無駄になりそうですが、これから数日で海まで道を繋げます」
ザレドさんは、不思議がっていたけど、道作りは俺に権限がある。
そのまま護衛を続けてくれた。
「この岩……。良さそうですね」
道作りの途中で大きな崖を見つけた。隘路になると思う。
崩落の危険もあるので、ここは通らずに迂回するけど、キャンプ場には良さそうだ。
「何がいいのか分からないのだけど?」
実演した方が速いな。
俺は全魔力を使い、目の前の崖を"収納"した。
今回は、範囲指定型だ。
十人くらいは寝れそうな洞窟のでき上がり。形は三角形とした。
日本の坑道を大きくした感じだ。多分だけど、内部崩落の危険もないと思う。
「トールはすごいね……。岩を瞬時に削り取るなんて。いや、くり抜いたと表現した方がいいかな?」
まるで鏡のような切断面を見て、ザレドさんが呟いた。
「俺の魔法は、それしかできませんからね。これで宿営地として使えるでしょう。
それと、魔力が底を尽きました。これから少し休みます。
今日はもう少し作業してから帰りましょう」
「まあ、いいが……」
「それとこの隘路の先が海になると思います。見に行きますか?」
「もうそこまで来たのですか? 今日はなかなか見かけないと思ったら、随分と進んだのですね」
不意に背後から声をかけられた。エレナさんだ。
「今日は少し頑張りました」
エレナさんが、馬から降りて来て、洞窟の壁面を触る。
「崩落の危険はなさそうですね……。いい仕事です」
賛辞になるんだよな? 何処かで聞いたことあるような言葉を送られた。
その後、俺とザレドさん達は昼食を摂り、その間にエレナさんが海を見に行く。
休んでいると、エレナさんが戻って来た。
「どうでした?」
「地図通りの地形でした」
そう言って、地図を広げる。地形的にリアス式海岸だと思う。もしくは、フィヨルド? 見たことないけど。
断崖絶壁が、続いているみたいだ。
まあ、港にするのであれば、都合がいい。
俺の収納魔法で、少し海底を削れば、簡易的な船着き場は完成させられる地形だと思う。
船の建造をどうするのかは、聞いていない。
まだ考えてもいない可能性もある。少し急ぎ過ぎているのもあるしな。
筏でも作ってみるか? 木材は大量にあるのだし。紐を用意してくれれば、作れそうだな。
「塩を……、作りませんか?」
突然、エレナさんから提案があった。
「急ぎですか? 食事に不足しているとも思えないのですが」
「50人分の配給は、間に合っています。それよりも、近くの街に売りに行って物資と交換したいのです。いえ、王家に献上して開拓村の進捗状況を説明するのにも使えますね」
ザレドさんを見ると、頷いた。
俺に反対意見はない。
「道作りは一時中断とします。
ここの隘路は、落石が怖いので迂回しようと思ったのですけど、塩を先に作りに行きますか」
俺の言葉に、エレナさんが喜んでくれた。
三人で隘路を進む。
それと木材の運搬を担当してくれた村民には、ここで帰って貰った。
◇
海水を"収納"してみる。
「まず、真水が出てから、不純物。そして塩の順番ですね……。順番は入れ替えられるので気にしなくてもいいかな……。それと、なにか入れ物はありますか?」
エレナさんとザレドさんが、空にしたバッグを俺の前に差し出した。
まあ、予定外の行動なんだ。都合良く、大きな袋とか持っていたら不自然だよな。
こうしてとりあえず、魔力が尽きるまで、塩作りに励んだ。
「塩作りは、効率が悪いですね……」
大量の海水を"収納"しても、得られる塩は微々たるものだ。重さ換算で、3~4%が精々かな。
とにかく繰り返すしかない。
「ふう~。まず一袋分です」
ザレドさんが受け取った。
「先に開拓村に運んでおく。帰りは、二人で馬に乗ってくれ」
そう言って、ザレドさんが走って行ってしまった。とても、嬉しそうだ。
俺は、エレナさんを見る。
「……魔物が出たらどうしましょう?」
「私が倒せますよ?」
そう言って、エレナさんが腰からナイフを引き抜いた。
無骨なサバイバルナイフだ。
俺の持っている物と同じ形だな。エレナさんから貰ったので当たり前か。
そうか……。エレナさんは戦闘もできるのか。万能型メイドなんだな。
「さて、もう一袋分の塩を作りますので、時間をください」
「頑張ってくださいね」
エレナさんは、楽しそうに俺を見ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます