第11話 海への道2
「しばらく海側に行って来てもいいですか?」
「え?」
今は、エレナさんと夕食を摂っている。
開拓村から海まで全行程10キロメートルとはいえ、森林の中を進むとなると、決して短くない距離だ。
それに、直線距離で10キロメートルなんだ。
俺は、山の稜線に沿う形で道を作っている。
実際の距離は、大分長くなっていると思う。測量してないので、分からいけどね。
「う~ん。海に行ってなにをするのですか?」
「まず、洞穴でも作って来ます。雨風を凌げるキャンプ場ですかね。
地質は、山に近づくにつれて岩が多くなっているので、硬そうな大岩に数人くらい入れる穴でも空ければ、野営はできると思います」
「魔物の対策は?」
「……襲って来ますか?」
「もちろん襲われますよ。トールさんに分かるように言うのであれば、ゴブリンやオーク、オーガなどがいるかもしれません」
「狼や熊は見かけたのですが……。人族以外の知的生命体もいるのですか?」
「いますよ? エルフや亜人もいます」
「へぇ~。見てみたいですね……」
ここで、エレナさんの表情が曇る。少し怒らせたのかな?
ただし、俺の言葉のなにに反応したのかは分からない。
「この世界では、人族以外の種族も領土を持っています。
ただし、境界が引かれているので出会うことは、まずないとは思いますけどね」
プイッと、視線を逸らして、エレナさんが教えてくれた。
「その言い方だと、開拓村は国境に近い?」
「まあ、そうなります。言ってみれば、空白地帯に先に入植したと言ったところでしょう」
前に、『100年先を見据えれば』と、ヴォイド様が言っていた。
そういうことか。
「近くにいる種族は分かりますか?」
「う~ん。オーク族かエルフ族でしょうね……。
それと注意です! 見つかったら、襲われますからね!!」
エレナさんが、顔を近づけて来た。真剣な眼差しだ。
少し後ずさる。
そんな話をして、夕食を済ませた。
◇
自分の家に入る。俺専用のあばら家で体を横にする。個室を貰えると言うのは安心するな……。
今は、藁のベットに布が敷かれている。生活も大分改善されて来た。
スプリング式のベットが欲しいけど……、まあ寝る分には問題ない。
背中も痛いくないしな。
眠る前に少し考える。
「もうすぐ冬なんだよな……」
聞いた話によると、開拓村付近は豪雪地帯になるらしい。
俺は、落葉広葉樹林を切り拓いているのだと思う。もうすぐ、葉が散る季節になると思う。
冬支度は万全と言っていい。衣食住の全てが揃っている。
各家には、壁を土で補強したり、柱を立てて、囲炉裏も作った。
去年の冬の時期は、開拓村を空にして、隣街まで疎開していたらしいので、今年は過ごすだけならば十分だと思う。
「本当であれば、レンガとか作りたかったんだよな……」
開拓村の近くに粘土質の土地も見つけてある。村長宅を作った時の話を聞いたので探しておいた。
天日干ししたり、素焼きを行い、少量のレンガを作ることはした。
だけど、余りにも人手が不足していて、数は揃わなかった。実験程度で終わってしまった。
食糧事情が改善されたら、村民は衣類の増産を行ってしまった。
住居にはそれほど関心を示さなかったのだ。
「まあ、柱は大量にあるし、土や茅葺きなどで補強もした。雪にも耐えられると思う。倒壊したら……、この程度の家ならばすぐ作れるし……、都度対応でいいかな」
それよりも、海へ続く道作りだ。
距離が長くなるにつれて、木材の運搬が困難になって来ている。
なにより、馬が動かなくなって来た。酷使し過ぎたみたいで、最近は休ませている。
サラブレットのような馬なんだ。馬車を牽くのは向いていそうだけど、木材の運搬には適さないと思う。
今は、俺だけ先行して、伐採を行っているのが現状だ。
木材が邪魔で地面の舗装はできていない。
それと、護衛は付けて貰っていた。一人で作業は行わない。
たまにだけど、魔物が出て来るし……。
そして、オークやエルフと言った亜人が出た場合……。
「伐採だけでも済ませておく……か」
雪が降る前に、道だけでも作ってしまえば、雪解け後に選択肢が増える。
一応、『塩』が目的だったし。
「袋を持って行って、先行して塩作り……、いや、飛躍しすぎだな。伐採を最優先にしようか」
そんなことを考えて、眠りに就いた。
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