第10話 海への道1

「流石に開拓村まで遠くなってきましたね」


 もう半分の距離を稼いでいる。

 樹頭10メートルの木材を運ぶのにも限界があり、今は馬で運んで貰っている。

 護衛隊長のザレドさんが答えた。


「もう十分すぎるほどの木材を調達しているのだけどね。

 開拓村にも収まり切らず、外に積み上げている状況だ。

 トールとしては、もっと進めたいのだろうけど、歩調を合わせて欲しい」


「俺の収納魔法が、普通に使えればもっと効率が上がったのですけどね……。

 粉々にしてしまう特性がなければ、一人でも作業できたのですけど……」


「トールは、十分に優秀だよ。

 魔法を使える者もいるが、トールの魔法は特殊すぎるだけだよ。

 だが、十分すぎるほどに、開拓村に貢献して貰っていると言える」


 正面切って、賞賛を受けると少し気恥ずかしいな……。


「あはは。ありがとうございます」


「隊長! 木材10本に車輪の取り付けが終わりました。出発できます」


「もうすぐ、エレナ嬢が来るはずだ。昼食を皆で食べてから、移動しようか」


 村民の歓声が上がった。

 ここ最近は、食糧の供給が追い付いて来た。

 畑も実り始め、また開拓村の西側には害獣が多く、ザレドさん達が狩ってくれていた。

 冬を越せる食糧の備蓄も、数ヵ月でできてしまったほどだ。

 畑の大きさと、人数が合っていない。それほど開拓が進んでしまった。

 それで次は、綿花みたいな布になる植物を育て始めたほどだ。


 食糧が十分にあるので、俺はヴォイド様に進言してみた。

 重労働を担う者には、一日三食与えてみて欲しい……と。

 ヴォイド様が了承してくれると、俺の道作りもはかどる様になる。

 痩せていた村民も、今やホソマッチョが多い。


 ここでエレナさんが来た。


「今日は、甘辛ソースのサンドイッチです。飲み物は、果汁を絞って来ました」


 調味料も充実して来た。王都までは行かなくても、途中に都市がある。

 そこで、種や苗を購入して栽培まで始めてしまった。

 この辺は俺には分からない事だな……。

 ヴォイド様や、エレナさんとセリカさんの発案らしい。木材を運搬して売っているのかな? どうやって運んでいるかは、後で聞いてみるか。


 全員が嬉しそうに並び、食事を受け取っている。

 贅沢を教えてしまったのかもしれないな……。

 今の生活が崩れた時が怖い。


 ここで、エレナさんが俺の隣に座った。


「はい、どうぞ」


「ありがとうございます」


 これから、30分程度の雑談だ。

 これが、習慣化してしまった。

 俺としては、綺麗な女性と会話できるので、そこそこ嬉しいとは思う。

 しかし、ヴォイド様の侍女に手を出す気はない。それと、誰もなにも言って来なかった。

 この辺は、少し違和感を感じるな……。


 話を聞くと、エレナさんは、貴族の三人兄妹の末っ子との事。兄が二人いるのだとか。

 メイドとしてザレド様に着いて来ているらしい。

 開拓村が成功した場合は、男爵位を貰える契約をしているみたいだ。


「開拓村の状況は、どうですか?」


 ここ最近俺は、朝水汲みをして、夜寝る時以外に開拓村にはいない。

 毎日の生産量や村民の不満を、エレナさんから聞いていた。


「女性たちが織物を始めました。また、獣の皮をなめしているのですが、そうなると畑が放置されてしまいます。

 かなり人手不足になって来ましたね。朝から晩まで皆で働いてます」


 ここで、果汁を飲んで、サンドイッチを食べる。

 食べながら考える……。マンパワーが足りてないか?


「一度、俺も開拓村に戻った方がいいかもしれませんね。

 ちょっと、急拡大させ過ぎたかもしれません」


「海への道作りを中断すると言うことですか?」


「元々、年単位を予定していたはずです。ここで、数ヵ月中断しても問題ないでしょう?」


 エレナさんが考え出してしまった。


「……いえ、トールさんはこのまま作業を続行してください。

 伐採だけでも済ませておいて、後から木材を回収でもいいです」


 それだと道の整備ができないのだけど……。 まあ、指示には従おう。


「分かりました。でも、急ぎではないですよね?」


「可能であれば、雪が降る前に道を作って欲しいと言うのが希望になります。かなり無理を言っているのは、自覚しているのですけど……」


 今は、多分秋になると思う。

 森も実りが多いし。


「そうなると、残り一ヶ月程度ですかね……。分かりました。少しペースを上げます」


 エレナさんは嬉しそうに微笑んでくれた。



「さて、休憩を終わりにするぞ」


 ザレドさんの指示で全員が立ち上がる。


「それでは、エレナさん。夕食時に今後の予定を話しましょう」


 エレナさんは、少し照れたような表情で頷いてくれた。

 そして、馬に乗り開拓村へ帰って行く。木材を運ぶ人達も移動し始めた。


「さて……。ペースを上げるか」

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