第9話 検証4
「……迂回した方が良さそうだな」
今俺は、樹頭に登って、開拓村の西側を見ていた。
開拓村の西側は山となっている。その先が目的地の海だ。
山は高くはないけど、稜線に沿って進んだ方がいいと思う。
トンネルを掘ってもいいけど、崩落の危険がある。長期間使用するのには、監視と補強が必要になると思う。そんなの面倒だ。
俺は、地面に降りた。
目の前は、一面の森だ。
今度は獣道すらなかった。
「測量の技術があれば、また違うんだけどな……」
愚痴を言ってもなにも始まらない。
俺は目の前の木を"収納"し始めた。
『生木:1000本 上限に達しました』
頭に声が響いた。
どうやらまた、"収納"の上限に達したらしい。
しかし、土砂や水、木により上限が異なるのか。
〈日本語を話せる女性〉を思い出す。あの時は、『量に依存するタイプ』と言われた。
だけど、生木だと本数となる。
「なにかがズレているよな。
俺の収納魔法……、その本質が見えてこない。
それと、"解放"の条件だ。木材に使用できるのであれば、この1000本も使い道があるのだけど……」
その場にあった、倒木に座る。
とりあえず、1本を"解放"する。
細かく砕かれた木材が出て来た。
うん、いつも通りだ。
最も細かく"開放"してみたので、ウッドチップと言ってもいいと思う。
「"条件"とはなにか……。先送りできない状況まで来ているな~」
考えてはいたのだけど、生木の中の水分の分離くらいしか思い浮かばなかった。
〈加工〉や〈一部〉などの条件を考えたのだけど……、結論から言うとできなかった。
熟練度が上がれば、できるのかもしれないけど、今は置いておく。
周囲を見渡す。
「森の中に、大量のウッドチップを捨てて行くのは問題だよな……」
最悪、森林火災を引き起こしかねない。そういえば、雑草対策になると聞いたことがあった。
下草が生えないのであれば、動植物に影響が出るだろうし……。
かといって、持ち帰っても置場がない。もう十分すぎるほどの薪を集めているし。
ため息が出た。
「有用ではあるのだけど、やっぱり、〈ハズレスキル〉なのかもしれないな……」
その後、実験を繰り返したのだけど、成果が出ずに日暮れとなる。
俺は、開拓村へ帰ることにした。
◇
次の日は、朝から盛り土の上で考えることにした。
一応、俺が昨日作った道は、方向に間違いはなく、整地すればいいだけとなっている。
だけど、"収納"した木材の"解放"の仕方が決まらなかった。
ここから先が進められない。
「どうする……。森に捨てて行くか? だけど、一応資源なんだよな」
「何を捨てるのですか?」
俺の独り言に、誰かが反応した。
背後を見る。エレナさんだった。
「……ちょっと困ったことが起きていまして。考え中です。さぼっているわけではないですよ」
「ふ~ん。聞いてもいいですか?」
エレナさんが、俺の横に座った。
まあ、話しても問題ないかな。
「"解放"時に、粉々にしてしまうのが問題だと。それと収納限界が不明であり、最後に条件ですか……。
聞いたことがないですね」
なんというか、話しやすく、隠していた"条件"も話してしまった。
まあ、今のところ知られても問題はないかな。
「俺の魔法は、既存の体系に属さない可能性があります。
異世界転移した時と、オークションの時の、周囲の反応からの想像なんですけど。
生木の"収納"と水分を分離した状態での"解放"はできたのです。
思いつけば、1000本の生木も資材になるとは思うのですけど……」
「……考えすぎじゃないですか? 木材でなくても使い道はありますよね?」
「例えば?」
「柱にする。燃料以外にするのでよね?
地面に敷き詰めて肥料にしたり、桶なんかの加工品とか……」
それはそうなのだけど……。
そこから議論が始まった。
エレナさんも仕事は持っているらしいけど、ヴォイド様から俺の補佐を最優先にするようにも言われているらしい。
……期待されているみたいだ。
「樹液……ですか?」
最終的な俺の結論に、エレナさんが首を傾げた。
樹液のみを"開放"……絞ってみたのだけど、時間経過と共に固まった。
漆ではないみたいだけど、乾かすと十分な強度が得られた。
これにウッドチップを混ぜると、板の完成だ。これを〈壁〉や、〈屋根〉とすることを提案した。
ヴォイド様の指示で、村民総出で板の製作に入ることになる。
十日ほどで、村民の家が完成した。かなり簡素だけど、雨風は凌げる。テントよりはいいと思う。
俺も個人用のあばら家を貰うことになった。これは嬉しい。
それと、伐採方法についても話し合いが持たれた。
結論として、俺が範囲指定の"収納"を行い、木の根元を削ることになった。"木の根"のみの収納だ。
倒れた木は、木材として開拓村へ運ばれる。加工は任せよう。
村民の体力の関係もあるので、一日100本までとした。
これから距離が長くなれば、それだけ開拓村に運ぶのも時間がかかるようになる。
この辺は、作業状況を見ながらだな。
本来であれば、運搬は収納魔法の活躍の場なのだけど……、どうしてこうなったんだ?
日が暮れて、夕食の炊き出しを頂く。
隣には、エレナさんがいる。この数日は、俺の補佐役として指示を出してくれていた。
「助かりました。これで作業が進められます」
エレナさんは、いい笑顔だ。
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