第8話 検証3

『土砂:100キログラム 上限に達しました』


 久々に、頭にあの声が響いた。

 どうやら"収納"の上限に達したらしい。

 今俺は、開拓村の周囲の土地を削っていた。空堀とか塹壕になると思う。

 今度は、土砂を"解放"して行く。

 城壁とまではいかないけど、"盛り土"と言った感じだ。


「ちょっと! なにしているんですか?」


 エレナさんが来た。


「今日の分の、水汲みと薪集めは終わりましたよ?」


「そうじゃなくて、この土の壁は……」


「害獣対策ですよ。開拓村になる予定の土地を囲みたいと思います」


「……ヴォイド様に、相談はしましたか?」


「あ……。忘れていました」


「はぁ~。私の方から説明しておきます。

 でも、有用な物になりそうですね。完成までにはどれくらいかかりそうですか?」


「十日前後を予定しています」


「分かりました。よろしくお願いします」


 そう言うと、エレナさんは村長宅へ戻って行った。

 ここで、村民達の視線が気になった。

 皆、苦笑いだ。


 魔法がなければ、年単位の時間がかかる大規模工事になると思う。

 まあ、俺は怖いだろうな。


 考えていても、時間の無駄だ。

 俺は再度、開拓村周辺の土地を"収納"し始めた。





 日が暮れたので、今日の作業は終了だ。

 食事は、朝と夜の二回だ。中世の日本が、そのような習慣だったと聞いたことがある。中世の外国の話でも、日に二回の食事は聞いたことがあるな。なんだっただろうか? 戦争の話だったかな?


 食事は、毎回同じだ。芋と肉野菜の鍋料理……。

 食事も改善したいな。やりたいことが多すぎるけど、とりあえず盛り土から終わらせよう。


「ごちそう様でした」


 今日も桶に水を汲むのだけど、村民が不思議そうに俺を見て来た。

 なんだろう?


「……今日も体を拭くのか? 水は大量に持って来てくれるのでありがたいのだけど……」


 彼等には、体を綺麗にする習慣がないんだな。

 う~ん。井戸が欲しくなって来た。沼地の土地だし、穴掘って崩れないようにすれば、水は貯まると思う。

 まあ、井戸は後回しだけど。


「病気の予防対策と思ってください。ここは湿地帯なので、病原菌の温床の地になります。

 『石鹸』と言っても伝わらないでしょうが、体表を毎日綺麗にするだけで、生活がかなり改善されますよ」


 皆、理解していないな。

 だけど、行水には従ってくれている。

 それと、衣類の洗濯も頻繁に行うようになった。

 これで、開拓村独特の匂いが消えて行くと思う。


 それにしても、新参者の俺の言うことを聞いてくれるんだな……。





 盛り土が完成した。高さは5メートルと言ったところかな。

 雨も降ったので、登る程度の硬さもある。まあ、崩れやすいので登ることは勧めないけど。

 開拓村には、物見台がある。10メートルくらいかな? 周囲を見渡すだけであれば、盛り土に登る必要はない。

 堀もあるので、鹿ですら乗り越えられない高さになったと思う。まあ、まだこの世界の動物や魔物には詳しくないんだけど、今はこれで野菜を育ててみたいと思っている。

 この状態でも害獣が入って来るのであれば、捕まえて食糧に変わって貰う予定だ。

 それと 東西南北の四ヵ所に門を設けて通れる様にした。

 ちょっとした『要塞』と言った感じだ。人が攻め込んでくるのであれば、簡単に攻略されてしまうかもしれないけど、害獣対策には十分だと思う。


 後は、もう少し踏み固めれば、誰でも盛り土に登れるようにはなると思う。

 また雨が降ったら、もっと固まるだろうし。

 それと、開拓村に変化があった。

 堀の部分に水が溜まり始めたのだ。そうなると、湿地帯だった開拓村が乾いて来た。

 地表だけでも、水が抜けるのであれば、使える土地も増えると思う。

 堀の排水を行える構造にすれば、湿地帯に戻ることもなくなるし。


 ヴォイド様に、畑を拡大して野菜を作るように進言した。

 了承して頂けると、皆大喜びだ。

 さっそく畑の拡張から始めている。


 邪魔な木は、俺が"収納"して土地を増やした。

 もう、生木であろうと"収納"できるんだ。伐採の必要もない。

 こうして、畑が急速に増えて行った。





「塩……ですか?」


「うむ。トールの魔法であれば、作れるのではないか?」


 ヴォイド様に呼び出されたと思ったら、次の依頼が来た。


 確かに俺向きの話ではある。

 それに海に行けるのであれば、かなりの利点がある。

 貝を拾ってもいいし、海藻や魚介類も期待できる。

 それに俺ならば、岩盤を"収納"すれば簡易的な港など、一日で作れると思う。

 そうなると、港で漁をするのもいいな。でも、網がないか。銛突き漁……かな~。

 いや、その前に泳げる人がいなさそうだ。


「トール? どうかしたのか?」


 考えすぎてしまった。今は会話中なんだ。


「……明日からは、海への道の舗装に入りますね。開拓村の西側を整備します。

 朝の水汲みは続けるとして……、今のところ薪は十分なので、薪拾いの時間を道の舗装に当てたいと思います」


 10メートルを超える生木を、薪にできるんだ。しかも、"解放"する時に〈条件〉として水分を分離する付与も覚えた。

 このことは誰にも話していない。


 俺の魔法は、この世界の体系からは外れていると思われるので、隠す部分は隠す。


「うむ。距離は10キロメートルといったところだ。大分遠いが、よろしく頼む」


「馬車で通れる道にした方が良さそうですね。上手く開通すれば、運搬の必要も出てきそうだし……。

 分かりました。長期間かかるかもしれませんが、微力を尽くします」


 こうして、次の方針が決まった。

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