第8話 検証3
『土砂:100キログラム 上限に達しました』
久々に、頭にあの声が響いた。
どうやら"収納"の上限に達したらしい。
今俺は、開拓村の周囲の土地を削っていた。空堀とか塹壕になると思う。
今度は、土砂を"解放"して行く。
城壁とまではいかないけど、"盛り土"と言った感じだ。
「ちょっと! なにしているんですか?」
エレナさんが来た。
「今日の分の、水汲みと薪集めは終わりましたよ?」
「そうじゃなくて、この土の壁は……」
「害獣対策ですよ。開拓村になる予定の土地を囲みたいと思います」
「……ヴォイド様に、相談はしましたか?」
「あ……。忘れていました」
「はぁ~。私の方から説明しておきます。
でも、有用な物になりそうですね。完成までにはどれくらいかかりそうですか?」
「十日前後を予定しています」
「分かりました。よろしくお願いします」
そう言うと、エレナさんは村長宅へ戻って行った。
ここで、村民達の視線が気になった。
皆、苦笑いだ。
魔法がなければ、年単位の時間がかかる大規模工事になると思う。
まあ、俺は怖いだろうな。
考えていても、時間の無駄だ。
俺は再度、開拓村周辺の土地を"収納"し始めた。
◇
日が暮れたので、今日の作業は終了だ。
食事は、朝と夜の二回だ。中世の日本が、そのような習慣だったと聞いたことがある。中世の外国の話でも、日に二回の食事は聞いたことがあるな。なんだっただろうか? 戦争の話だったかな?
食事は、毎回同じだ。芋と肉野菜の鍋料理……。
食事も改善したいな。やりたいことが多すぎるけど、とりあえず盛り土から終わらせよう。
「ごちそう様でした」
今日も桶に水を汲むのだけど、村民が不思議そうに俺を見て来た。
なんだろう?
「……今日も体を拭くのか? 水は大量に持って来てくれるのでありがたいのだけど……」
彼等には、体を綺麗にする習慣がないんだな。
う~ん。井戸が欲しくなって来た。沼地の土地だし、穴掘って崩れないようにすれば、水は貯まると思う。
まあ、井戸は後回しだけど。
「病気の予防対策と思ってください。ここは湿地帯なので、病原菌の温床の地になります。
『石鹸』と言っても伝わらないでしょうが、体表を毎日綺麗にするだけで、生活がかなり改善されますよ」
皆、理解していないな。
だけど、行水には従ってくれている。
それと、衣類の洗濯も頻繁に行うようになった。
これで、開拓村独特の匂いが消えて行くと思う。
それにしても、新参者の俺の言うことを聞いてくれるんだな……。
◇
盛り土が完成した。高さは5メートルと言ったところかな。
雨も降ったので、登る程度の硬さもある。まあ、崩れやすいので登ることは勧めないけど。
開拓村には、物見台がある。10メートルくらいかな? 周囲を見渡すだけであれば、盛り土に登る必要はない。
堀もあるので、鹿ですら乗り越えられない高さになったと思う。まあ、まだこの世界の動物や魔物には詳しくないんだけど、今はこれで野菜を育ててみたいと思っている。
この状態でも害獣が入って来るのであれば、捕まえて食糧に変わって貰う予定だ。
それと 東西南北の四ヵ所に門を設けて通れる様にした。
ちょっとした『要塞』と言った感じだ。人が攻め込んでくるのであれば、簡単に攻略されてしまうかもしれないけど、害獣対策には十分だと思う。
後は、もう少し踏み固めれば、誰でも盛り土に登れるようにはなると思う。
また雨が降ったら、もっと固まるだろうし。
それと、開拓村に変化があった。
堀の部分に水が溜まり始めたのだ。そうなると、湿地帯だった開拓村が乾いて来た。
地表だけでも、水が抜けるのであれば、使える土地も増えると思う。
堀の排水を行える構造にすれば、湿地帯に戻ることもなくなるし。
ヴォイド様に、畑を拡大して野菜を作るように進言した。
了承して頂けると、皆大喜びだ。
さっそく畑の拡張から始めている。
邪魔な木は、俺が"収納"して土地を増やした。
もう、生木であろうと"収納"できるんだ。伐採の必要もない。
こうして、畑が急速に増えて行った。
◇
「塩……ですか?」
「うむ。トールの魔法であれば、作れるのではないか?」
ヴォイド様に呼び出されたと思ったら、次の依頼が来た。
確かに俺向きの話ではある。
それに海に行けるのであれば、かなりの利点がある。
貝を拾ってもいいし、海藻や魚介類も期待できる。
それに俺ならば、岩盤を"収納"すれば簡易的な港など、一日で作れると思う。
そうなると、港で漁をするのもいいな。でも、網がないか。銛突き漁……かな~。
いや、その前に泳げる人がいなさそうだ。
「トール? どうかしたのか?」
考えすぎてしまった。今は会話中なんだ。
「……明日からは、海への道の舗装に入りますね。開拓村の西側を整備します。
朝の水汲みは続けるとして……、今のところ薪は十分なので、薪拾いの時間を道の舗装に当てたいと思います」
10メートルを超える生木を、薪にできるんだ。しかも、"解放"する時に〈条件〉として水分を分離する付与も覚えた。
このことは誰にも話していない。
俺の魔法は、この世界の体系からは外れていると思われるので、隠す部分は隠す。
「うむ。距離は10キロメートルといったところだ。大分遠いが、よろしく頼む」
「馬車で通れる道にした方が良さそうですね。上手く開通すれば、運搬の必要も出てきそうだし……。
分かりました。長期間かかるかもしれませんが、微力を尽くします」
こうして、次の方針が決まった。
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