第5話 さよならバッドエンド
館内の地図を大きく広げながら、ストローで空のカップを吸うときだけに鳴るあの独特な音を
「今日は……こんなもんかな……。」
僕はあのモリオカートで負けた後もいろんな所を引き
「お腹もいっぱいになったし、今日はとっても満足できたわ!」
「もう僕は疲れたよう……。赤坂さん……今度からはもっと危なくない方法で頼むよ……。」
半日で一年を過ごしたような疲労感が心身に溜まっている。
「そうね、色んなこともわかったしもう帰りましょう。」
二人で席を後にして帰ろうとしたときだった。
「あっ、あれなに?」
「あれは確か……プリクラ?だったかな。記念写真を撮れるっていう赤坂さんくらいの若い女の子の間で流行ってるやつじゃないかな。」
「ふーん。」
「……」
「あれ、撮っていきましょう。」
「え?う、うん。」
しまった。女の子同士とかカップル達がよく使うやつだよという補足を入れるタイミングを見失ってしまった。
「写真を撮ります!笑顔になりましょう〜♪さん、にー、いち!」
パシャ
二人とも経験が無かったから「お絵描きブース」には入らずに撮った写真が出てくるのを待っていた。
カシャコン
「これ……。」
出てきた写真を先に取って確認した彼女は楽しくない顔だ。
「私一人しか写ってないじゃない!」
「ああ、ホントだ。今日一日透明化してたから全然気づかなかったよ。プリクラにも認識されないんだね。」
「じゃなくて……!もう……もう一回撮るわよ!」
「え?もう一枚?」
「仕方ないじゃない、あんた写ってないんだもん。透明化はもう解除していいわよ。もう、まったく。」
「え、でも今日は一日透明化……」
「うっさいわね!!私がいいって言ってるんだから早くしなさいよ!」
そうして二枚分の値段を払ってようやく彼女と僕の両方を写した写真を手に入れることができた。
「これ、半分づつあげるわ。私一人の方は別に要らないけどお金はあんたも払ったんだから受け取る権利くらいはあるわね。」
変なところで常識人みたいなことを言われても、僕の中にある彼女へのイメージの
「じゃあ、私こっちの線だから。」
落ちるか落ちないかという夕日と地平線の攻防に重なる彼女の右手は、
「あ、じゃあ、僕もこっちなんで。」
意外にも、記念すべき今日という日の別れはそれだけだった。あんなに目立つ赤髪もこの人混みの中では、すぐに見えなくなってしまう。
それから帰宅するまでの時間は、ほとんどなにも覚えていない。今日の情報量が多すぎて僕の頭という安物のメモリーカード同然の容量ではこれ以上保存できなかったようだ。
家に着いてからは俺ノートをちょっとだけ書いて、そのあとポケットに入れていたプリクラの行き場を考えた後、雑にノートに挟んでから眠りについた。
◆◆◆◆◆
ヂリリリリリ、ヂリリリリリ、ヂリリリリリ。
いけない。僕一人しかいないから寝過ごすわけにはいかないんだった。
珍しく予定時間に起きれなかった僕はいつもの5分遅れで家を出た。信号機のタイミングやいつも同じ所ですれ違うサラリーマンがいないだけで、不思議と違う世界に生きているような感覚がする。
昨日の嵐が過ぎ去ったあとでも僕はしっかりと忘れていない事がある。深瀬さんの件だ。
彼女は僕のような人間にも分け
この三百メートルであらゆる謝罪の言葉を巡らせてはみたものの、どこかしっくりこない。
――岡目くんは……岡目さんはもういいです。
さよならバッドエンドしか想像できない……。
教室に入ってまず驚いたのは赤坂さんが席に座っていたことだ。彼女はいつも遅刻ギリギリに来るのに、なんともない顔でそこに座っていたのだ。
次に驚いたのは黒板の日直欄だ。そっくりそのまま昨日から消されていないようだった。
――あれ……深瀬・岡目から引き継がれてない。
考えられる事は一つだけだ。僕が昨日の登板をサボってしまったから、深瀬さんも連帯責任で今日また日直になっているんだろう。
さらにもう一つ謝らなければいけない事が増えてしまったのか。まさに
「ご……ごめん、今ちょっといいかな。」
二時間目が終わったところで深瀬さんの顔色を確かめに行った。
「あっ……岡目くん!どうしたの?」
「昨日、日直の仕事しないで帰っちゃったこと謝ろうと思って……。しかも今日も二人で日直みたいだし……。ほんっとにゴメン!」
「ぜんぜんいいよ!赤坂さんもなんか忙しそうだったし、しょうがなかったんじゃないかな??」
ああ、神様、仏様、深瀬様……。
「それに今日また日直なのは……」
「ああ!わかってるよ…!僕が昨日仕事サボったのが先生にバレて深瀬さんも連帯責任でもう一日ってことでしょ……?ホントにごめんね。」
こんな時に焦って早口になるから僕はいけないんだろう。
「あー……うん!だから今日はサボっちゃだめだよ!また放課後ね!」
彼女はそう言って僕に笑い掛けてくれた。この時、こんな人に宝くじの一等は当たるべきだと思った。
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