第4章
第45話 いざ、東部ソーマ国へ
「お二人とも、私にしっかりと掴まっていてくださいね。でないと体の一部を置いていってしまう可能性があります」
「お、おう」
「分かったわ」
言われるまま、俺とマヤはエルナから絶対に離れないようしっかりと掴まった。
足元には、翠色の複雑な魔法陣が光っている。
「忘れ物はありませんか? それでは出発です。少しふわっとしますよ――【転移】!」
エルナがそう唱えると視界が一気に真っ暗になり、体がふわりと軽くなったように感じた。
例えるならば飛行機が離陸する時のような浮遊感だった。
そうして次に目を開いた時、俺たちは見覚えのないだだっ広い草原の真ん中に立っていた。
そよ風が青々とした柔らかな草をカサカサと撫でる音が心地よい。
「到着しました。東部ソーマ国の近くです」
「大丈夫よね!? あたし何も置いてきてないわよね。五体満足よね!? いるわよね、そーちゃん!?」
「すごいな、鳥車でも七日かかる道のりが一瞬だったぞ!」
体中に鳥肌が立っている。
感動した。
朝寝坊してしまった日、絶望の縁で誰もが一度は手に入れたいと望んだことがある特殊能力――瞬間移動。
それをこうも容易く体験出来てしまうなんて。
恐るべし、異世界。
めづべし、異世界!
「ダンジョンからの帰り道でもこれ使ってくれれば良かったのに」
こんな便利な魔法を使えるのなら、あの日の帰り道だって、長いこと鳥車に揺られてお尻を痛める必要なんてなかったし、鳥車代の五千ラミーだって節約できたはずだ。
だから【転移】が使えることはもっと早く教えてほしかった。
「そんなのダメです! 帰り道ではダンジョンを攻略した喜びを皆で分かち合いたかったんです。どこに行ったとしても、すぐに帰ってしまっては興醒めですよ。冒険の思い出を皆で振り返るのがいいんですから!」
腰に手を当てて得意げに話すエルナ。
これだけは絶対に譲れないようだ。
「分かるわ! 旅って帰り道が一番楽しいものね!」
マヤもエルナと同じ考えらしい。
近くの岩に腰かけて、腕を組んでゆっくりと頷いている。
「そういえばこの辺なんだよな。エルナがよく友達と遊んでたのって……」
「そうです。ちょうど今マヤさんが座っている場所で、よく二人でお話していました。あの岩、昔はもう少しゴツゴツしていたんですよ」
にこりと微笑んだエルナが、俺にだけ聞こえるような声量で話す。
過去の日々を懐かしんでいるようで、いつにもまして柔らかい口調だった。
「ところでエルナ、これからどのくらい歩くの?」
おもむろに立ち上がったマヤが思い出したように尋ねる。
「ええと……実は私も東部ソーマ国には一度も行ったことがないのでよく分かりません」
随分と自信に満ちた分からない宣言だ。
しかし心配することはない。
こんなこともあろうかと俺は事前にギルドへ足を運んで、リアさんにこの辺りの地図を貰っておいたのだ。
どうだ、頼れるパーティのリーダーだろ。
「ふふーん! よく聞け二人とも、こんなこともあろうかとぅぉ……」
「まあ、分からなくても、あそこに見えるお城みたいなところを目指して歩けばいいわよね」
何だと……。
マヤがまっすぐ指さすほうへ目を向けてみる。
周囲と比較して少し盛り上がったそこには、テレビなんかでよく見たことがある和風なお城の天守閣がでかでかと
この広大で平坦な草原を前にして、俺がいま後ろ手に持っている地図は無力だったらしい。
「どうかしましたかサト?」
「いやなんでもないきにするなそれよりはやくいこうぜ」
「それもそうですね!」
「それじゃあ、あの大きなお城目指してしゅっぱーつ!」
「しんこー! です」
「おう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます