第30話 正直に
☆(少しさかのぼる)
「なんだと! あの娘が物凄いお宝だと! 我を愚弄しておるのか!」
国王カルザス・コルネリアスが、茹でダコのように顔を真っ赤にしてものすごい剣幕で声を張り上げる。
怒髪冠を衝くとはまさに、この人の為にある言葉なのではないかと考えてしまう程の怒りようである。
そして国王というだけあってかなりの威圧感がある。
怖い……チビりそう。
隣のエルナに目をやるが、俺と同じく気圧されているようだった。
傍らの兵士に至っては両耳を塞いでいる。
かなり
そうすれば国王だって分かってくれるに違いない。
褒美は無くなってしまうかもしれないが、背に腹は変えられない。
そう心を決めると、唾をゴクリと飲み込んで国王に切り出す。
「いえ、国王陛下を愚弄するつもりなど微塵もございません。どうか怒りをお鎮めください」
コルネリアスは配下に宥められながら、小さくうむとだけ言って玉座に座り直した。
ただでさえ速かった心臓の鼓動がますます速くなるのを感じる。
耳裏の血管を通じて、心臓の音が聞こえてくる。
周りに聞こえてないかな。少し不安だ。
生まれたての子鹿のような足の震えを何とかして抑えながら立ち上がると、勇気を振り絞って口を開く。
「実のところを申しますと、クロエのダンジョンを作ったのが彼女、マヤ・クロエなのです。そして彼女が言う『物凄いお宝』というのが、ダンジョンを攻略したパーティに彼女が加わることだったのです。ですから、愚弄などもってのほかでございます。これは紛れもない事実なのです」
コルネリアスはおとがいに手を添え、なるほどなと呟く。
「そうか。それではあのダンジョンにはもとから、宝物は存在しなかったということなのだな」
よかった。どうやら俺の話が通じたようだ。
あのフサフサのあごひげからして、もっと頑固な人だと思っていたのだが、一冒険者の話をこうも容易く受け入れてくれるとは。
やはり一国の王というだけあって、心が広いようだ。
コルネリアスは腕を組んでしばらく何かを考える様子を見せると、手招きして側近の者を呼びつけた。
真ん丸な眼鏡をかけた中年の男で、生真面目な印象を受ける。
コルネリアスはその側近に、何やら耳打ちしているようだ。
側近は頻りに頷きつつ、時折驚いた表情を浮かべながらコルネリアスの話を聞いている。
しばらくして耳打ちを終えると、コルネリアスから何やら
きっと、早とちりして怒鳴りつけてしまったことを自分で謝るのは恥ずかしいからお前ちょっと謝ってきてくれよとかいうノリだろう。
「国王陛下は、『物凄いお宝』さえ入手できればこの国も貧乏国家を脱却できるかもしれないと、莫大な金額をクロエのダンジョン攻略に充てなさった。建国以来類を見ない近年の不作も相まって、我が国の財政は破綻しかけている。国民にも大変な苦労を強いざるを得なくなってしまった。これすなわち、クロエのダンジョンが我が国の財政を破綻寸前まで追い込み、また国民を困窮せしめたともいえる。一国をしてこれほどの苦役を味わわせしめたこと、国家反逆罪に値する」
国家反逆罪?
どう考えても悪い方向に話が進んでるんだけど。
あの国王、俺の話聞いてたのか?
この中年眼鏡男、俺の予想とは正反対のことをのたまう。
「これはダンジョンの製作者のみならず、それを匿ったパーティメンバーについても同様である」
「「……………………?」」
俺もエルナも、同時に首を傾げる。
国家を困窮させているという意識も、国家を困窮させてやろうなどという心づもりも微塵もなかったからだ。
エルナも同じだろう。
だから目の前の男が、さっきからずっと何を言っているのかよく分からない。
だが、まずい状況に置かれていることくらいは本能的に分かってしまう。
これは恐らく、褒美を貰えないどころの話ではない。
――今日は家に帰れるだろうか。
「よって今ここで、お前たちには極刑を宣告する! 執行は三日後だ」
……………………。
「「ええええぇぇええええ!?」」
気付かぬうちに始まった、一方的に罪状を言いつけるだけの裁判で、状況も理解出来ぬうちに極刑を宣告された。
弁明の機会も与えられずにである。
しかも執行が三日後だと?
早すぎるだろ。おかしいだろ。
さっきは国王の心が広いとか思ったが、あれは撤回だ。
あの国王の心は狭い、狭すぎる。
風呂トイレなし二畳半ワンルームだ。
俺の心の方がずっと広い。
少なくとも風呂トイレはついている。
気がつくとつい先程までの足の震えはすっかりなくなっていて、口が勝手に開いていた。
「そもそもダンジョンに大金をつぎ込んだのは国王陛下自身の判断ではないですか!?」
「おい! 反逆者風情が国王陛下に意見するでない! 首をはねられたいのか!」
どうせ死ぬんならここであの二畳半国王に言いたいことを山ほど言わせてもらうさ!
今の俺には失うものがないからな!
「物凄いお宝が国家の財政を潤すほどの宝物であると誤信していたのも、他ならぬ国王陛下のはずです! その不満を俺たちにぶっけるって……」
気づくと、エルナが俺の肩にそっと手を添えていた。
「サト……こうなってしまっては、もう何を言っても無駄です」
三日後には首が吹っ飛ぶというのに、どうしてそんなに落ち着いていられるのだろう。
何回か死んだことがあるのだろうか。
「ふんっ、まあ良い。お前も三日後には処刑されるのだからな。斬りやすいように、クビをながーくして待っていろ。おいお前ら! 何をボーッと突っ立っとる。さっさとこいつらを地下牢に投獄しろ! あの娘も意識が回復し次第すぐに投獄だ!」
☆
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