第10話 ステータスとオーバーキル
「長くこの仕事をしていますが、初めて見るほどに低いです。げきひくです。間違いなく、最低ランクですね」
スカっ。
目の前が突然真っ暗になる。
――神器がなくてもチート級の能力だけはあるはずだ。
という希望の光が無慈悲にも消えうせてしまったのである。
「さっ最低!? えっとそれってつまりどのくらいですか?」
「そうですね、基礎魔法の習得すらあやぶまれるほどですかね」
お姉さんが頬をかきながら、申し訳なさそうな顔で答える。
「えっ、やばくねっすかそれ。ほんとに基礎でさえ習得が難しい人なんているんすか」
さっき俺を冷たくあしらった気だるげなお姉さんが、目に輝きを取り戻して横から口をはさんできた。
うるさい! 本人が目の前にいるだろーがっ!
――と言いたいところだが、今は本当にそれどころでは無い。
驚きと悲しみと絶望が喉につっかえて声が出ない。
「基礎、初等、中等、高等、最上位の基礎っすよ。高等と最上位を使える人はあまりいないにしても。基礎なんて、ちょっと練習すればその辺の鼻たらしだって使えますって。リア先輩それ、冗談っすよね?」
――ぐはっ。
「こら! そんなこと思っていても本人の前で口にしちゃいけません。あの人が帰ってからならいっぱい笑っていいですから。いまは堪えてください」
――ぐふっ。
落ち着いた方のお姉さんが、気だるげな方のお姉さんに耳打ちしているのが、嫌でも聞こえてくる。
やばい、このままではあれやこれやと言われ放題だ。
さすがにこれ以上続けられては精神が持たない。
なんとか声を振り絞って応戦しなくては……。
「……あっ、あの……全部聞こえてるんですが……」
「はっ! 失礼しました!」
言いながら、落ち着いた方のお姉さんは、頭が取れてしまうのではないかと心配になるほどに繰り返し俺に頭を下げる。
左手には気だるげなお姉さんの頭を鷲掴みにして、前後に激しく揺らす。
「もういいですって! 俺は何も気にしてませんから! ほら、頭を振られすぎてそっちのお姉さんの魂が出てきてますって」
それを聞いた落ち着いていない落ち着いたお姉さんは、ようやく落ち着きを取り戻したようだ。
頭の支えを失った
「大変申し訳ありませんでした。ただ、現在のサトさんにとっては少し嬉しい……かもしれないお知らせがあるんです!」
「……なんです」
――もしかするとここで何か変わるかもしれない
――今までのことは全て何かの間違いかもしれない
そういった望み。
「サトさんの魔力値は、魔法職の必須魔力値を大きく下回っているので、たとえ天職を与えられていなかったとしても、魔法使いになることはかないませんでした。ですからもう、転職できなかったことを気に病む必要はありませんよ」
「――んぐっ!」
慰めどころか追いうちだ。
こんなのただのオーバーキルだ。
おかげで変な声を出してしまった。
「どうなさいましたか? お伝えしない方がよろしかったでしょうか」
「いや、何でもありません。そんな事気にしてないですから」
「それならよかったですが……」
「それより、基礎魔法とやらの習得すら危うい無才の俺でもこなせるような、できるだけ報酬の高いクエストを教えてください。とにかくお金が欲しいんです」
「……かなり気にしてるじゃないですか。それでは、こちらに署名をお願いします。それで会員登録は完了ですので」
羽根ペンらしきものとインクを手渡されたので、言われた通りに署名する。
「サト・ホシカワ様。異世界からの転移者。職業はせいばっ……
俺の残念なステータスや職業などが記載されている紙を、ボソボソと読み上げつつ、そして読み間違えつつ確認すると、お姉さんは高らかにそう言って続ける。
「では次にクエストの説明を。本ギルドでは、神器をお持ちの救世主の方を除いて、お一人でのクエストやダンジョンへの挑戦を許可しておりません。クエストへの挑戦は、どんな難易度であってもお二人からとなっています」
最低でも二人って、俺はどうすれば良い。
鈍色の高校生活を送ってきた俺には、この完全にアウェイな状況で人を誘う方法が分からない。
そもそも誰を連れて行けば良いというのだろうか。
「ですので、パーティを組む方が多いです。一度パーティを組んでしまえば、次回以降も一緒にクエストに挑戦する人を探す手間を省くことができますので。ですから、サトさんもパーティメンバーを募集されてみてはいかがでしょうか。異世界からの転移者だと言えばすぐに人が集まってくることでしょう」
「魔力値が最低レベルの回収者でもですか?」
「………………………………………………」
さいですか……。
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