幸せ?



 ゾフィーの部屋は淡いピンクと白を基調とした、可愛らしくも上品なインテリアでまとめられていた。香水か何かだろうか、甘い香りが仄かに漂っている。


 ゾフィーに促され、花柄のクッションが並んだソファーに二人並んで腰掛けた。


「ゾフィーらしくて可愛い部屋ね」

「ありがと! だけど、さすがに成人したらもっと大人っぽいデザインじゃないとダメかなぁって思ってるんだ」

「いいんじゃない? 好みに年齢は関係ないし」

「そうかなぁ。エマは孤児院時代から、あんまりインテリアに拘らないよね。実用性重視って感じでエマらしいけど。あ、あと、草を置きがち!」

「草……薬草ね。リラックス効果があるものとか……」

「あっ、そういえば私が風邪引いた時、鼻や喉がすっきりする香りの草を瓶に入れてプレゼントしてくれたよね。あれ、すっごく効いたなー。あれからエマ、暫くみんなに魔女って呼ばれてたよね!」

「…………。……初耳よ」

「え?! そ、そうだった? いやあの、悪口じゃないからね?」


 幼少期の思わぬあだ名には些かショックを受けたものの、久しぶりに肩の力を抜いてゾフィーと話せている気がする。


 思えば孤児院を出てからというもの、二人で会話をする時にはいつも誰かの目があった。フレーベル家の使用人か、コルネリウスのどちらかだ。今も使用人は部屋の前に待機しているが、見られていないというだけで緊張感が違う。


「……ねぇエマ、大丈夫? ちょっと顔色が悪いみたいだけど」

「え、そう?」


 そう指摘され、エマはぎくりとする。


 確かに疲れてはいた。慣れないヒールで歩き回り、いつもより体力を使ったこともだが、何より精神的な疲労を強く感じる。


 コルネリウスとの、息が詰まるようなやり取り。そして、フリーダの絵が頭から離れなかった。あの少女の、美しいはずの笑顔が――何故か恐ろしい。


「歩き疲れただけだから、少し休憩したら大丈夫よ」

「無駄に広いもんね、この家……あ、無駄なんて言ったら怒られちゃう」


 ゾフィーはハッとしたように口を押さえ、使用人に聞こえていないか確認するように扉のほうを見やる。そんな孤児院時代からの友人に、エマはそっと尋ねた。


「ゾフィーは、この家に来られて……幸せ?」

「ん? うん、もちろん幸せよ」


 返ってきたのは、不思議そうな反応と即答だった。エマは少々拍子抜けしつつも、心底安堵する。――漠然とした不安から友人の身を案じていたが、エマの杞憂だったようだ。


「フレーベル家の令嬢になるって、大変だと思うから……でもゾフィーが幸せなら、本当に良かったわ」

「ふふ、ありがとうエマ。……確かにこの家に来たばかりの時は、毎日泣いてたかも」


 ゾフィーは立ち上がると、チェストから手鏡を取りだした。フレームは真鍮製だろうか。ボタニカルなモチーフが立体的に刻まれている。


「いつも辛くて……泣きながら鏡を見て、自分とは違う人になりたいって思ってた。例えば、勉強が得意なエマになりたい、とかね? 私は苦手で、いつも家庭教師に怒られてたから」

「……ゾフィー……」



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