第6話 勇者が魔王を倒したようです
「それじゃあ、キング・スネーク討伐を祝して、かんぱーい!」
「か、かんぱーい……」
大蛇を退治した報酬金を受け取った私達は、ギルドの飲み屋で豪勢な料理を注文した。
なんと、今回受け取ったのは百万ゴールド。
一晩豪遊したって、罰は当たらないだろう。
私と向かい合って座っているのは、大蛇のラン。
どうやら、完全に人間の姿になれるようなので、変身してもらっている。
人間の姿になっても尻尾は残ってしまうらしいが、その尻尾は私が切り落としてしまったし。
ランは料理に手を付けようとしない。
まあ、自分の尻尾を斬って、さらに自分を脅迫して従わせてるやつの前じゃ、料理も喉を通らないだろう。
「ラン、そんなに怖がらなくたっていいよ。
もう悪さをしないなら、私も怒らないから」
「そ、そうですよね……!
た、偶々食欲がわかないだけですから、お気になさらず……」
ダメだ。完全に怖がられている。
私のメイドになるんだったら、もうちょっと信頼関係を構築したいんだけどなぁ。
まあ、焦らなくても、ゆっくりでいいか。
私は骨付きチキンにかじりついた。
そんな私を、ランはまじまじと見つめてくる。
「ラン?」
「あ、い、いえ、何でもないです……」
「そう? ならいいけど」
チキンを食べつくした私は、今度は謎の魚の丸焼きを小皿に取り分け、それを頂いた。
そんな様子も、ランはじっと見つめていた。
「……もしかして、お腹すいたの?」
「い、いえ!
そ、そんなことは……!」
なるほど、私が怖くて、料理には手を付けられない。
でも、お腹がすいてる。
まあ、そんなところだろう。
別に私は、ランが料理に手を付けても、怒ったりしないのに。
「お腹すいたら、好きなだけ食べていいからね」
「で、でも……私は悪さをしていたのに……?」
「でも誰も殺してないんでしょ?
じゃあ、これからいいことをすれば、チャラにできるじゃん」
実際、行方不明になった人々は、縄張りに隠されていただけだった。
ランは彼らを使い、食べ物を集めさせていただけ。
もちろん、私が来るのがもう少し遅かったら餓死者が出ていたかもしれないが、少なくとも今回は死んでいない。
なら、許してやってもいいんじゃないか、というのが私の持論だ。
「何度も言うけど、もう悪さをしないこと、私の身の回りの世話をすること。
それさえ守っていれば、何をしても私は怒らないよ」
できるだけ優しい声色で、私はそう言った。
「は、はい……」
その時、ぐうぅぅぅぅっと、獣の唸り声のような音が、どこからともなく響いた。
顔を真っ赤にするラン。
そうか、この音はランの腹の虫ってことか。
「ほら、好きなだけお食べ」
私はチキンやサラダの乗った皿を、ランの方へと押した。
ランは渋々といった様子で、チキンを手に取り、口に運ぶ。
「!!」
そのチキンを口にした瞬間、ランの目が輝いたように見えた。
しかし、すぐに私をチラ見して、先程の目の輝きを失わせてしまう。
「おいしいんでしょ?
だったら好きなだけ食べていいよ。
なんせ私はレベル30だから!
もう、食うに困ることはないよ」
「は、はい……」
「でも……えっと……」
ランは口ごもる、どうやら私の名前を呼びたいようだ。
「ヒナでいいよ」
「ヒナ様は、本当にレベル30なんですか?
そんな高レベルの人が、どうしてこの街に?」
「ま、まあ、いろいろあってね」
そういえば、キング・スネークは倒したわけじゃないから、経験値は入らないか。
いま、どのくらいのレベルなんだろうか?
「ステータスオープン!」
少し気になった私は、ステータスを確認してみることにした。
ええっと、レベルは――。
「え……60!?」
「え、何がですか!?」
私の絶叫に、ランは肩を震わせた。
だが、今の私に、そんなことを気にかけている余裕はなかった。
私は血眼になって、ログを読み漁る。
そこに紛れ込んでいた一文は、とんでもないものだった。
『魔王を倒した:経験値+1254236010』
名前:ヒナ・サカイ
レベル:62
職業:冒険者
筋力:273
防御力:265
素早さ:280
魔法攻撃力:199
魔法防御力:210
スキル:魔物使役Ⅳ・デーモンスレイヤーⅢ
「な、なんじゃこりゃあああああああああああ!」
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