第4話 対決! キング・スネーク!

 私はふらふらと街を出た。

 きっと今、私の顔は真っ白になっているだろう。


 悩みの種はもちろん、がくしゅうそうちだ。


 レベル30になってしまったものはしょうがないとして、これ以上の使用は危険だと思い、はずそうとしたのだが……。

 外れないのだ。


 街の門から、草原に出た私は、周囲に人影がないことを確認してから、もう一度がくしゅうそうちを外そうとした。


「ふんぎぎぎぎぎぎぎぎぎ……!」


 右腕に全力で力を込め、がくしゅうそうちを引き抜こうとする。

 だが、全く動く気配はない。

 何の痛みも感じさせず、腕にとどまっているのだ。


「ダメだ……全く取れない……」


 いくら魔獣用とはいえ、一度付けたものが取れないなんておかしい。

 きっとバグに違いない。

 こういった不具合が起きるからこそ、人に使ってはいけないということなのだろう。


 それにしても、この装置は学習対象がどれだけ離れていても、経験値をくれるのだろうか?

 現状、シャーユさんが魔物を倒すたびに、経験値が流れ込んできているが……。


「ステータスオープン!」


 私はギルドで教わったステータス魔法唱え、ウィンドウを呼び出す。

 そして、ログ画面へと移り、先程からの変化を見た。


 そこには、街に出るまではなかった文言が追加されている。


「ブレイズ・ホークを倒した。経験値+354」


 やはり、シャーユさんが何かを倒すたびに、その経験値が私に流れ込んでいるようだ。


 シャーユさんは恐らく高レベル。

 勇者なんて呼ばれているんだから、この世界でトップクラスのレベルだろう。

 ゲームでは一般的に、レベルが高い相手ほど、もらえる経験値が増える。

 そして、レベルが低いほど、レベルが上がりやすい。

 この二つがかみ合って、私のレベルはどんどん上昇しているのだろう。


 確かに私は、この状況を望んでいた。

 そのために、がくしゅうそうちを自分に使った。

 だが……こんなバグ技みたいなことをできてしまっていると、それはそれで怖いのだ。


「シャーユさんは何が起こるかわからないと言ってたけど……気にしすぎだよね……」


 私は自分に言い聞かせるように、そう言った。

 それから、頬を両手ではたき、自分に活を入れた。


「ま、やってしまったものは仕方がない!

 キング・スネークを倒して、生活費を稼ぐか!」


 スローライフを手にするためには、まずは日々の生活をどうにかしなければならない。

 これは、私の幸せを手にするための第一歩だ!


 ということで、私はキング・スネークの縄張り目指して、歩みを始めた。


 依頼内容は簡単、ここ数か月、謎の行方不明事件が続いていたらしい。

 この街の付近に、ドラゴンが現れたことから、そのドラゴンのせいだと思われていたようだ。

 そこでギルドは、偶然通りかかった勇者様一行に、ドラゴン討伐を依頼。

 無事勇者様たちはドラゴンを倒したらしい。

 その直後に、私はシャーユさんと会ったわけだ。


 だが、ドラゴンが討伐されてすぐに、誘拐事件の真犯人が判明した。

 それこそが、キング・スネーク。

 だが、勇者はもう街に戻ってこない。

 街の人々は絶望していたらしい。

 そのタイミングで、私がギルドを訪れたようだ。


 私にしかできない仕事なら、私がやらなければ。

 それが、後のスローライフに繋がるかもしれない。


 がくしゅうそうちのことは後だ、まずはキング・スネークを倒してから考える!


 私は歩みを進める。

 街は草原に囲まれているが、西にしばらく進むと、森が見えてくる。

 キング・スネークはそこを縄張りにしているらしい。


 三時間ほど歩き詰めて、ようやく森に入ることができた。

 その瞬間――!


「キシャー!」

 

 けたたましい声を上げ、何者かが森の木から大空へと飛び立った。

 私は驚いて、飛び立った影を目で追う。

 その陰の正体は、体長一メートルはあろう、鳥の魔物。


「えっと、鳥!?」


 私はすぐに短剣を構えた。

 鳥は、爪を光らせながら、私に突っ込んでくる。


 なるほど、森の中には蛇だけでなく、こういう危険もあるのか……。

 敗北すれば、死肉を貪られる。

 負けるわけにはいかない……!


「キシャー!」


 上空から飛来する魔物を見据える。

 速い。

 前世の私では、とても相手にできないようなスピードだ。

 だが今は、目で追える!


「はあああああああ!」


 鳥が私に飛来した瞬間、私は身を翻し、すれ違いざまにナイフで斬りつける。

 すると鳥は、血しぶきを上げながら、絶命した。


 あまりにあっけない戦いに、私は目を丸くする。


「これが、レベル30の力……?」


 その時、突如としてステータスウィンドウが開き、一つの文が表示された。


「プレーン・ホークを倒した。経験値+13」


 なるほど、こうして経験値を得ればいいわけか。

 それに、魔物の死体も、食べられるかもしれない。


 そう思い、魔物に近付いた瞬間、魔物の体が光の粒となって消えていった。

 その体の中心から現れた小さな光る石が、こつんと地面に落下する。


「これは……?」


 何かに使えるかもしれない。

 帰ったらギルドで聞いてみよう。


 私はその石を拾い、右ポケットにしまい込んだ。


 さて、戦闘の仕方もわかった。

 後は本題、大蛇の討伐だ。


 私はさらに歩みを進め、大蛇を探した。

 だが、どれだけ歩いても、目標は見当たらない。


「おかしいな……確かにここにいるはずなんだけど……」


 その時、踏み込んだ足に、ふにんと柔らかい感触を覚えた。

 いま、何かを踏んで……。


 私は、細い尻尾を踏んでいた。

 尻尾は長い。

 その主を、目で追っていると、根元に近付くにつれ、どんどんと太くなっている。

 この尻尾、もしかして……。

 

 その尻尾は途中でとぐろを巻いて、私のはるか上へと延びていた。

 尻尾の終点には、巨大な口が付いている。

 

 これは、尻尾は尻尾でも、あまりに長い。

 蛇の体だ。

 ……ということは……?


 私は恐る恐る、顔を上げた。


「シャアァァァァァァァァァァ!」


 私が踏んだのは、間違いなくキング・スネークの尻尾だった。

 つまりこいつが、今回の敵……!


「……あなたに恨みはないけれど……これも生活のため!」


 尻尾を踏まれた痛みで怒っているキング・スネークの前で、私は短剣を構えた。

 レベル30の力、見せてやる!

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