第5話

どこからか、声が聞こえる。


「……あかね? 起きなさい、遅刻するわよ」


そんな声が聞こえたので、目を開けてみる。

視界に写りこんだのは、水無月文香さんの姿だった。

どうやら……元の世界や元の姿に戻る事も無く、俺の姿は、水無月あかねの姿のままみたいである。寝たら元の姿になっていると、思ったのに……結局、元の姿になんか、戻っていないと言う事が、解った。

状況から察するに、文香さんは、あかねを起こしに来たんだな……と思う。


「目が覚めた? あかね」


「う、うん」


「じゃあ、制服に着替えなさいね? ほんとに遅刻しそうだからね? あ、朝食は用意してあるから、着替えてから食べに来なさい」


そう言って、部屋から出て行く。

改めて日にちと時間を確認してみると、七月二日の火曜日で、時刻は七時三十分となっていた。文香さんに言われたとおりに、着替える事に決めて服を脱ぐ。現れたのは、ピンクのブラとパンティーで、ちょっと色っぽく感じられた。昨日から着ているのは、ピンク色のパジャマだったので、それを脱いで、私立白稜高校の制服を着る。制服とスカートは、折りたたんであったので、文香さんがやってくれたんだな……と思った。昨日から着ているので、着方は全く問題なく、あまり時間をかけずに着る事に成功した。そして鏡面台で、自分の姿を確認。そこに写っているのは、制服とスカートを履いた水無月あかねの姿が映っていた。

うん……やっぱり戻っていないんだな……と、改めて実感、そして、これからどうするか考える。確か……ゲーム「ラブチュチュ」では、水無月あかねを攻略対象にプレイをした時、今日はイベントフラグがあるのである。

確か、内容は「主人公と映画に行く」と言うラブイベントで、主人公があかねに声をかけて、デートに誘うと言う内容だった気がする。

と言う事は、今日、主人公に声をかけられる事になるんだろうな……と思う。

れにしても、主人公の顔って一体どうなんだろ……気になったが、まあ……いずれ会う事になるので、深く考えない事して、あかねの部屋から出る。

部屋から出て、リビングに向かうと、トーストとベーコンエッグが用意されていた。


「あら、ちゃんと着替えたわね? 時間がないわよ?」


「分かってるよ、いただきます」


そう言って、朝食を取る。簡単な朝食だったが、味がさっぱりしていて、結構美味い。少量だったので、直ぐに食べ終わり、出かける事にした。


「じゃあ、行ってきます」


「行ってらっしゃい、あ、そうだ、あかね?」


「何?」


「夜、食べたい物とかある? リクエスト受け付けるわよ?」


リクエストか……、じゃあ俺の好物でも言ってみるかな?


「う~ん……じゃあ、スパゲッティで、駄目かな?」


「いいわよ、スパゲッティね? 判ったわ、じゃあ行ってきなさい」


「は~い」


そう言って、外に出る。

うん、ほんとにいい人だ、文香さん。ゲームだと、攻略対象キャラじゃないんだよな……スタイルいいし美人だし、かなり男にモテルのではないんだろうか? 俺の中での好感度で言うと、今、一番なのが文香さんで、二番が理恵子ぐらいな感じなのである。そんな事を考えながら、学校へと向かう。

さて、まず学校に行ってやる事は「主人公とのイベントフラグを回避」と言う方向で、動こうと思う。そう決めて、行動に移す事にした。

俺は、とりあえず「主人公とのラブイベントを回避」という方向で動く事にした。

通学路を歩いて、目的地、私立白稜高校に辿り着く。

自分のクラス、一年四組の中に入って、水無月あかねの席に座る。

鞄を置いて、中身を机の中に入れる作業をしていると、キーンコーンと鳴ったので、授業が始まるみたいだった。

授業内容は比較的に簡単な方で、別に聞いてなくてもいいんじゃないか……とか思いうつぶせになって、寝て見る事にした。

寝て見ても、注意も何もされず、時間が過ぎて、あっという間に授業が終わる。

寝ていても問題ないんだな……これだと、さぼっても大丈夫なんじゃないか? と思った程である。授業が終わったので、どうしようかな……と思っていると、俺に話しかけてきたのは、笹村理恵子だった。


「あかね?」


「何かな……? 理恵子」


「さっきの時間寝てたでしょ? ちゃんと受けなくてよかったの?」


「だって、注意されなかったし……」


「まあ、そうね~、今の時期は、授業を聞いていても、あまり意味ないからね? 内容もどうせ忘れるし」


そういうものなのか?


「あ、次の授業が始まるから、戻るわね?」


そう言って、理恵子は自分の席に戻る。

そして、次の授業が始まった。

さっきと違って、なんか先生がかなり怖い感じの人だったので、寝るのは諦めて、普通に授業を受ける事にして、時間が過ぎる。そして、授業が終わって昼休み、昨日と同じく、学食を食べに行く事にした。

学食に辿り着くと、人がたくさんいて、結構にぎわっている。

券売機の前に並んで、俺の番になり、昨日はきつねうどんを食べたので、今日はらーめんにしてみた。らーめんは、直ぐに出て、それを食べてみる。

味は、まあ普通だった。これならカップ麺でも変わらないんじゃないか? と、思ったりした。飯も食べ終わり、教室に戻ろうとすると、声をかけられた。


「あかねちゃん」


「はい?」


声をかけてきたのは、さわやかな感じの青年風な感じの男だった。もしかして……こいつが……主人公の初崎孝之なのだろ~か? 見た感じだと、うん、結構もてそうに見える。この男がもしかしたら、ゲーム「ラブチュチュ」の主人公なのかもしれないな?


「昨日電話したけど、家にいなかったよね? でね? 映画のチケットあるんだけど、一緒に行こう? じゃあ待ち合わせは、駅前でいいね?」


なんか、了承する事を前提に話が進められているんだが……

しかも昨日電話したと言っているから、やはり、この男が初崎孝之だと確信した。


「誰がお前なんかと行くか!リア充は失せろ!」


そう言った瞬間、目の前が急に真っ暗になり、気がつくと、主人公が目の前にいて、こう言ってくる。


「昨日電話したけど、家にいなかったよね? でね? 映画のチケットあるんだけど、一緒に行こう?じゃあ待ち合わせは、駅前でいいね?」


何だこれ? 会話がさっきと同じだった。もしかして……


「……いきません」


そう言うと、再び目の前が真っ暗になり、気がつくと、主人公が目の前にいて、再びこう言ってくる。


「昨日電話したけど、家にいなかったよね? でね? 映画のチケットあるんだけど、一緒に行こう? じゃあ待ち合わせは、駅前でいいね?」


……OK、分かったぜ……。


「はい、行きます」


「じゃあ、決まりだね、駅前で待ってるよ」


そう言って、主人公はいなくなる。

原理が解った。どうやら……今のが強制イベント会話なのだろう。

これを断ると、先に進めないから、一つ手前まで戻るというあれか?

さっきのが、選択イベントで、これは了承しないと無限ループするみたいだな……と、さすがトゥルーエンド百パーセント状態。 そう簡単にはイベント回避出来ないか……と、思った。この会話で、俺のやる事が決まった。それはと言うと……「主人公の選択イベントを受けながら、ループしないで、バットエンドを目指す」と。

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