やめられないとまらない
チケットをカウンターで購入する。券売機もあるが、買うのがキャンペーンペアシートなので、カウンターのみの対応だそうな。
カップルシートの購入なんて慣れていない、というか初めての行為に緊張するが、店員さんはそんな事知ったこっちゃなさそうに淡々と対応している。
「キャンペーンシートですね。ドリンクとポップコーンが付きますが、何になさいますか?」
なぬ、このお値段でそんなのまで付くのか。ドリンクはそれぞれに、ポップコーンは一組に一つSサイズの物がついてくるらしい。普通なら一人2500円コースだというのに、お得過ぎん? 映画館赤字にならん?
ドリンクは炭酸系、ジュース系、お茶系、コーヒー類から。ポップコーンは塩、バター醤油、キャラメルがある。
「ポップコーン、何が良い?」
御崎さんに聞く。ちなみに「同い年だし敬語はやめよう」という話になったのでタメ口である。
「キャラメル!」
即答だった。美味いよね、映画館のキャラメルポップコーン。となると飲み物何にしようか。キャラメルって考えるとコーヒーとかの方が良いんだろうけど、尿意が心配になるのがなぁ……でもまぁいいか、コーヒーで。御崎さんも悩んでいるようだったが、俺がコーヒーにすると紅茶に決めた様であった。
商品が載ったトレイを受け取り、劇場へ向かう。その間、他のお客さんとすれ違う事は無かった。まぁ、平日午前中だしねぇ。
◆ ◆ ◆
「「お、おぉ……」」
劇場に入ると、思わず声が漏れた。
「貸切、だねぇ」
「貸切、だなぁ」
最前列スクリーン側から入場して、見える劇場内には誰もいなかった。後もう少ししたら上映開始なんだけど、これ他にお客さん居ないの?
「私だけかな、誰もいない貸切状態だと逆に申し訳なく感じるのって」
「いや、俺もそう感じる」
あの罪悪感、なんなんだろう。まぁ呆けてても仕方ないし、席に行こう。
チケットに記載された席は最後尾。階段を上がっていくと、普通なら手すりで仕切られているのが無い、二つの座席がつながったソファタイプの席が見える。
「ひょっとして、あれかな……?」
「ひょっとしなくても、あれだね……」
下から結構座席の様子が見えるんだな。知り合いに見られたら結構恥ずかしそうだ。まぁまず来ないか。こんな真昼間から、グロゴアホラー見る奴なんてそういるわけ……いや居るんだけどさぁ、隣に。
「ん? どうかした?」
「いや、別に」
御崎さんを見ていたら不思議そうな顔で首を傾げていたが、そのまま座席に座る。
「座らないの?」
「……ちょっと、心の準備が」
そう言うと「何それ」と笑われた。こちとら陰キャじゃい。こんな陽キャの娘と隣り合うなんて緊張するんじゃい。
「ほーら、怖くない怖くない」
自分の横をポンポンと叩いてニヤニヤしながら御崎さんが言う。まぁ突っ立ってるわけにもいかないので、「失礼しまーす」とそっと座る。座ってみるとわかるが、意外とシートは広い。鑑賞中ずっと肩がぶつかってて気になる、とか無さそうだ。
「あ、ポップコーン貰っていい?」
「どうぞどうぞ」
座席間にトレイを載せられる用の肘掛が折り畳みで設置してあるので、それを取り出して載せる。御崎さんが「いっただっきまーす♪」と言って摘まみ始めるので、俺もそれに倣う。
一つまみして口に運ぶ。甘い。こりゃコーヒーで正解だった。ジュースだと流石に甘すぎるかな。
まだ劇場内は暗くなっていないが、予告編や地元のCMがスクリーンには流れている。それを眺めていると、ちょいちょいと観客が入り始めていた。それでもまだまだガラガラだが、他にお客さんが居る、俺達だけではないという事にほっとする。
驚いたのは他のカップルシートに座るお客さんが居た事だ。それも男同士。
「あ、別にカップルって男女じゃなくてもいいみたいだよ? 要は二人組ならいいみたい」
驚いていると、御崎さんが説明してくれた。そしてその手元にあるポップコーンの残りを見て更に驚く。既に半分を切っている。まだ映画始まってないというのに。
「――七不思議の一つ。まだ始まっていないのに無くなる飲食物だよ」
御崎さんが神妙な顔をして、目を逸らしながら言う。うん、本当ポップコーンって止め時わからないよね。所で後六つは何だ。
※昨日某ヴェノム観てきたんですが、ポップコーン美味しいですよね? 多すぎて食べきれずに持ち帰ったんですけど。
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