……逆ナン?

「す、すいません。自分に声かけてるとは思わなくて……」

「あ、こちらこそごめんなさい。リアクションが無かったのでつい……」


 俺が謝ると、彼女ははっとして申し訳なさそうな表情になる。


「……ところで、何でしょうか?」

「そうそう! あの、お聞きしたいんですけど……あ、その前に自己紹介か」


 彼女はそう言ってから名乗った。

 彼女――御崎映みさきあきらは俺と同じ大学に通う学生だそうな。学年も一緒とのこと。

……うん、やっぱり知り合いではないな。友人の知り合いとかにもいたっけ? 記憶にない。一応俺も名乗り返しておく。


「えーと、御崎さん? 何処かで御会いしましたっけ?」

「あ、いや、えーと……私が一方的に知っているというか、うーん……」


 言いにくそう、というわけではなく、言葉に迷っている様子で御崎さんが悩んでいる。


「まぁそれはいいか。聞きたい事っていうのは?」


 話が進まなそうなので促すと、御崎さんは「ああそうそう!」と思い出した表情になる。コロコロと表情が変わって面白い。


「川西さん、映画観るの好きですよね?」


 質問、というより確認みたいな感じだった。


「え? ええまぁ、人並みには」

「苦手なジャンルとかあります?」

「特には。面白そうなら大体観ますけど……」

「今日お時間あります?」

「あー、今日受ける講義無くなって暇になっちゃって余ってるくらいです」

「映画、一日に何本観ても大丈夫ですか?」

「一本が3時間超えの長編とかでなければ、適度に休憩挟めば問題無いです」

「……今日、何本か観ても大丈夫です? その、予算とか体力とか」

「観ようと思ってたくらいなので大丈夫です」


 そう言うと、御崎さんは何処かほっとした様子を見せた。何なんだろうかね?

 質問の意図が良くわからずどうしたものかと思っていると、御崎さんが決意を固めたような顔になる。


「あ、あの! お願いがあるんですけど!」

「は、はい」


 気迫に少し押される。


「わ、私と! カップルになってもらえせん!?」

「……はぁ?」


 ちょっと何言ってるのかわかんない。

 えっと、何々? カップルになってくれって、何それ?


「……逆ナン?」


 思わず呟いた。俺人生初だよ逆ナンなんて。


「あ……いえそうじゃなくって……いや違くないんですけど……」


 すると御崎さんは顔を赤くしてしどろもどろになっていた。発言ミスだったようだ。


「えっと、どういうこと?」

「つ、つまり私が言いたいのはですね……わ、私と一緒に映画を観てください!」

「……やっぱ逆ナン?」

「い、いやそういう意味じゃないんですぅ!」


 人間不思議だね。初めての事で混乱してるけど、自分以上にテンパってる人見ると逆に冷静になれるってのを知ったわ。


※多分今日中に次話投稿予定。

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