映画館に行こう!

――遡る事数時間前の事。


 今日は平日。本来なら大学で授業があるのだが、俺は困っていた。


「マジかぁ……」


 講義が休講になっていたのだ。教授の都合らしく、本当に急な話で大学に到着してから発覚したのだ。何気なく構内掲示板を見たら報せがあったのだから、見なかった場合待ちぼうけを食らっていたはず。

 その一コマだけ休講というのなら時間を潰すなりなんなりとあるのだが、今日は履修している他の講義も事前に休講の報せが出ていた。つまり、完全な無駄足だ。


「もっと早く言ってくれよなぁ……」


 ぼやいたところで仕方がない。サークルなんてものは入っていないし、大学に残る理由は無い。だが帰っても寝るしかないし、バイトも休み。折角出て来たのにこのまま帰るだけというのも勿体無く感じる。

 まだ午前中。金は給料日……は先だがまだ余裕はある。


「よし、映画観てくか」


 そう決めた俺は駅へと向かう。

 大学近くに商業施設があり、そこにシネコンがある。近いと言っても電車で数駅離れているのだが、そこは定期範囲内。交通費も貧乏学生には積み重なると痛手なので助かる。


――電車に揺られて、歩いてなんやかんやで30分程。目的地に到着。商業施設は閑散としている。まぁ平日だし当然と言えば当然だろう。

 映画館もがらんとしていた。ロビーに一人、女の子が座っているくらいだ。多分学生だろう。待ち合わせか?

 さて何観よう。上映ラインナップを見て考える。来るまでの間、特に何を観るかは考えず、調べもせずに来たのだ。観たい物を調べて来るのもいいが、何も考えずタイトルを見て『面白そう』という直感だけで観るのも俺は割と好きだ。まぁ俺が雑食だから出来る行為だ。

『上映中』と並んでるポスターを眺める。タイトルは邦画、洋画半々というところか。アニメも入れると邦画がやや多いってところか。上映中タイトルを見るが、邦画の方は……ちょっとパスかな。テレビシリーズの映画化ばかりだ。そっちを観てないのに飛び込むのは抵抗がある。アニメも原作を知らない物ばかりだ。


「……すいませーん」


 洋画の方は……んー、アメコミヒーロー物はこの間観たやつだ。アクション物は面白そうだけど、上映時間が合わない。後はミステリーっぽいのと、ホラーっぽいのと、恋愛物か。


「……あのー」


 この中で観たいのはアクションなんだけどなぁ。時間が合いそうなのはミステリー、ホラー、恋愛物か。

 予算は……無くは無い。一本だけじゃなくて何本か観てもいいかなぁ。最初別のを観てからアクションの方を――


「あのー! すいません!」


 何だと思って振り返る。そこには先程ロビーにいた女の子が居た。

 派手、ではないのだが髪の色も明るく陽キャ感のある娘だ。俺の知り合いにこんな娘は居ない。そもそも女性の知り合いなんてバイト先とかくらいしかいない。

 少し怒った様子で彼女は俺の方を見ている。辺りを見回してみるが、誰もいない。


「……え、俺?」

「そうです! さっきから声かけてました!」


 声に怒気を孕ませて彼女は、俺を見ていた。


※次20時ごろ投稿予定です。

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