筋肉女子とハグ

「ふん!」


 今日もわたしは、筋肉をシノに見せびらかす。


「マユ、今日は、何をおごってほしいの?」

「違うよ。今日は普通に筋肉を見て欲しい」


 人を欲しがりみたいに言うな。

 

「ふうん」


 つまらなそう。

 そんなに魅力がなくなってきたか? わたしの筋肉って。


「ハグしていい、マユ?」

「んあ? ハグ?」

「マユ、柔らかそうだもん」


柔らかそうに見えるって、筋肉女子からすると褒め言葉なのか?

 ただの女子相手なら、最大級の称賛だとは思うが。

 

「いいけど、くすぐるなよ」

「わかってるって。いくよー。ぎゅー」


 シノのプニプニした腕が、わたしを包み込む。


「ふわああ」

「どうしたの? 変な声出して」

「いや、思っていたより柔らかい」


 想像以上に、ハグが気持ちいい。

 シノの胸が大きいこともある。

 が、ハグという行為自体に、いいようもない効能を感じた。

 これが幸せホルモンというのなら、信じてしまいそう。


「マユは、あんまり家族ともハグしない?」

「しないよ。きょうだいは弟だけだもん」

「そっか。あたしって姉と妹しかいないから、ハグは日常的なんだよね」


 なるほど。生活圏の違いか。


「シノの家族も、筋肉系なの?」


 実はこう見えて、シノのほうがわたしより筋肉量が多い。

 わたしの二倍はあるのではなかろうか。


「そうだねぇ。あたしが一番筋肉はあるかな。でもスポーツさせたら、あたしは家族で一番ドベだよ」


 姉も妹も、スポーツ万能らしい。


「あたしは筋肉がスキなんだけど、運動は苦手なんだよね」

「ムダ筋肉ってやつか」

「言ったなー。じゃあムダじゃないか調べてみてよ」


 シノが、わたしの脇をくすぐってきた。



「あ、あはあんっ。だめっ。んっんっんっ」


 密着しているから、快感も倍増してる!


 背中まで指が這いずり回って、腰がガクガクしてしまった。


「んんんんんんっ」


 身体のしびれが頂点に達し、つま先立ちになる。


「ちょっとマユ、興奮しすぎ」

「だって」


 シノにしがみつく形で、わたしもハグをする腕に力が入った。

 

 これは、いわゆる「ガチ恋距離」だ。


 男子に見られたら、変な妄想をされてしまう。


「もう。見世物じゃないから」


 シノが、ハグを解いた。


「マユ。今日はあんたがあたしにごちそうして」

「あ、いいよ。何がほしい?」

「回転寿司のラーメン。激辛マーボー味。それくらいなら、出せるでしょ?」

 

 おう、わたしも食べたかったやつだ。


「そんなんでいいの?」

「いいよ。その代わりさ」

「なに?」


 シノが小悪魔然としてニッと笑う。

 

「汗びっしょりになったら、もういっかいハグしよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る