筋肉女子と海

 思わず、砂浜でポーズを取ってしまった。

 ヤバイ。想像以上にテンションが上がっている。

 ただの臨海学校だというのに。

 テントを設営し終えて、気が緩んでいるのだろう。


「やっぱり夏の日差しにマユの筋肉は合うねえ」

「からかうなっての、シノ」

「ビキニもちゃんと、かわいいのを着てくれたしさぁ」

「あんたがしつこいからじゃん」


 そういうシノも、比較的少女らしさのあるフリル付きビキニを着ていた。


「二人とも、自由時間どうする?」


 メメが、わたしたちに声をかけてくる。水着ともども、彼女が一番かわいい。

 もっとも、メメは男子の視線に慣れているのか、まったく意に介さないが。


「夕飯の支度までまだあるじゃん。泳ぐ?」


 後は海沿いを散歩するか、もしくはビーチボールになるという。


 防波堤の向こうにあるお店は、立入禁止だそうだ。

 

「今日はクラゲが多いって聞いたから、海はパスかな」


 シノは、あっさりと却下した。


「わたしは泳ぎに来たのに」

「やっぱりねぇ。これだけ広いと泳ぎたいよね」


 正確には、水着を男子に見られたくない。


 わたしの水着姿なんて何がいいんだ?

 シノのほうがかわいいじゃん。

 どうしてわたしばっかりジロジロ見ているのか?


「あのね、マユ」


 メメが耳打ちしてくる。


「中学生くらいの男子って、あんたくらいスラッとしたほうが、意外と勃つの」

「なんですと?」

「シノくらい男を拒絶した視線を送られると、男子って途端に萎えるの」

「はあ?」


 なんて軟弱な。

 むしろ興奮しろよ。

 

「その点、あんたくらい恥ずかしがっている方が、ビンビンになっちゃうの」

「やっぱ泳ぐわ」


 わたしは、海へとダイブした。

 こんなところにいられるかっ。わたしは海へ入る!


「マユそっちは!」


 シノに呼び止められたが、わたしは……。


「あぎゃああああ!」


 足首に、電流が走った。

 クラゲに刺されたんだ! まさか、こんな浅いところにまで!

 

「マユ! だから言ったのに!」


 溺れてしまったわたしは、シノに助けてもらう。


 海へ上がってそうそう、保健委員の待機しているテントへ。


「もう。男子も海、入ってないじゃん!」

「うう。ゴメン」

 

 シノに、痛み止めを塗ってもらう。

 

「ん、んんっ!」


 痛みがあるわけ、じゃなかった。


「ちょっとまっ」

 

 でも、やめてほしい。


「ふくらはぎばっかり執拗に」

「ダーメ。あたしの忠告を無視したバツだよー」

「待ってダメダメあっは!」

 


 この後、タップリをマッサージを受けて、わたしは何度もあえいでしまった。


 先生が引き剥がしてくれたが。


 夕飯時、男子たちはずっと前かがみで、カレーを作っていた。

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