筋肉女子の休日

「よく食べるねえ」

 

 バーガーショップで、私たちの共通の友人であるメメが聞いてきた。

 質問の内容に特別な意味などないようで、メメはフライドポテトをトマトソースに付けてモリモリと食べている。

 メメはいわゆる「ぽっちゃりさん」だ。

 

 今日から、テスト休み。

 なので、今から怠惰を満喫しようとシノが言い出したのである。


「今日はチートデイだから」


 口にハンバーガーを含んでいる私の代わりに、シノが話す。

 

 私もウンウンとうなずき、遠慮なくバクバク食べる。

 チキンの竜田揚げバーガーを頬張り、ナゲットにマスタードソースをたっぷり付けて口に。


「チートデイって?」

「チートって『ズル』って意味なのね。人間って、ある程度やせると身体が飢餓状態になっちゃって、やせすぎないようにしてしまうの。だからドカ食いして、脳をだます必要がある。ズルをして脳をだますから、チートデイ」

「ほう」

 

 私より筋肉博士なシノがいてくれて、助かった。


 私では、こうもうまく解説なんでできないだろう。

 

「ねえ、マユもシノも、身体を鍛えてるんだよね?」

「うん」


 口に物が詰まっている状態なので、うなずきだけで答えた。

 

「運動部には入らないの?」


 やはり、そう思われるのか。

 ちなみに、私たちは三人とも帰宅部である。



「どこか、入って欲しい部があるとか?」

「ないけどさ。入んないのかなって」


 

 私は一度、卓球部にスカウトされてことはあった。

 どこへ飛ぶかわからない球技全般が苦手なので、断ったが。


「だって、マユって細くて水泳部とか向いてそうじゃん? シノは実はゴリマッチョなの知っているし、格闘系もいけるなって。不思議だったんだよね。ねえ、入るつもりは」

「はいらない」


 私もシノも、即答する。


「そうなんだ」

「あのね。筋肉がある人って、運動神経まで高いわけじゃないの。さすがに見せかけの筋肉、ってわけではないけど、運動や競技って、ある程度のモチベとか情熱とかが求められるでしょ」


 記録だってそうだし、競技に対する思いや目的意識だって必要だ。


「うんうん」

「わたしたちは、鍛える行為自体が好きなの。だから、その先なんて求めてないんだよ。鍛えてどうこうしようってのは、ないかなぁ」

「なるほどねえ」

  

ナゲットにトマトソースをからめながら、メメはわかったのかそうでないのかわからない返答をした。


「あたしはてっきり、二人を『マッチョの女の子をサワサワして悶えるのが好きな女子二人』なのかなって思っちゃってたんだよね」


 ブッホ、とシノが吹き出す。

 

 そりゃあ、そんな正論パンチをぶつけられたらねえ。ぐうの音も出やしない。


「今からどこ行く?」


 メメが聞くと、シノが激安ファッションセンターの店を指した。

 

「あ、行きたいところがあるんだ」

「?」

「水着買いに行きたい」

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