第二部 筋肉女子と夏

腹筋少女 仁王立ち

「タンメンをオゴってもらうために、また痩せてきた!」


 またちょっと太ってきたので、二週間かけて腹筋をシックスパックにしてきた。

 

「マユは相変わらずだねえ」


 友人のシノが、教室の机に頬杖を付きながらため息を漏らす。

 

「人にオゴって食うラーメンはうまい!」

「そんなに触られたいんだ」

「違う!」

「じゃあ、また三分耐えられたらオゴリねー」

「う、うん。やってみろ!」


 わたしは仁王立ちして、待ち構えた。

 

 シノが、いやらしい手つきでわたしの腹筋に触れる。


 

「おー硬い硬い」


 お腹の割れ目にそって、シノが指をはわせる。

 

 ん? いつもよりソフトな感じだ。


「は、ん」


 それでも、声が出てしまう。

 咳払いで、どうにかごまかしてみるが、相手には見透かされているだろう。


 いつもは、触り方がいやらしい。

 わたしが苦手なところを攻めてくる。


 お腹を揉んだり、ノックしてみたりと、今日のシノからはあまり攻めっけを感じない。

 普通に触ってくる。

 

 じれったい。

 もっと熱烈な攻めでくると思っていたのに。


 いやいや、何を考えているんだ。


 これくらいでちょうどいいじゃないか。


  

「物足りないんじゃない?」

「はあっ……」


 思わず、うわずった声が出てしまう。


 不意打ち。しかも、男子が見ている前で。

 

 わたしも見返す。

 男子たちはフッと視線をそらすが、視線を向けられているのはわかっている。


「ひあっ」


 よそ見をしていたら、スポブラをなぞられた。


「そこは、違うだろっ」

「えー、全身をまんべんなく鍛えてあるんでしょ? ちゃんと確認しないと」


 シノの触り方が、いつもの調子に戻っていく。

 しかし、まだ強さは足りない。

 こちらの反応を楽しんでいるかのようだ。


「もっと触って、って言ってみて」

「だ、誰が言うか!」

「でも、こんなユルい攻めでタンメンなんか勝ち取っても、腹筋を鍛えたことにはならないでしょ?」

「そ、それはぁあっ!」

 

 急に、ヘソの下から胸の下までをなぞられた。


 明らかに、男子の視線を感じる。


 細身なわたしで欲情するとは思えなかったが、なんかモジモジしていた。


「こ、ここじゃダメだろ」

「そうだねぇ。人の目もあるしさぁ」


 シノが、急にしゃがみ込んだ。


 わたしのふくらはぎから内ももまで、撫で回してきた。

 

「ほおおおお! ダメダメ!」


 これ以上は、完全にセクハラだ。

 公然わいせつじゃないか。


「ダメだ。ここから先は、自宅でしよう」


 現在、二分三〇秒が経過している。

 だが、ここではもう続きはできない。

 これ以上は、先生を呼ばれそうだ。

 

「そうだね。続きはマユのおうちでしよっか。ただし」

「ただし、なんだ?」

「三〇分耐久ね」



 自宅で再チャレンジとなったが、シノはいつも以上に激しい攻めを繰り出してきた。


 なんとか耐えきってタンメンはゲットしたが、声を録音される羽目に。

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