シン・筋肉女子の弱点

 弾け飛んだ制服の下には、筋肉の付いた萌え美少女が。


「そんな。シノが、ゴリマッチョだったなんて」


 シノの巨体を見て、わたしは呆然としていた。

 はっきり言って、シノの方が筋肉量が多い。


「シノ、どうして黙っていたの? そんなマッチョだったなんて」

「私はずっと、マユより先にトレーニングを積んでいた。マユより筋肉を会いしているつもりだった。でも、筋肉に愛されたのはマユの方だった!」


 悲痛な叫びを、シノがわたしにぶつけてきた。


「あなたは鍛えれば鍛えるほど、みんなから愛された。いつだってイケメン扱いだよぉ!」


 それはうれしくないが。


「でも、私はどれだけトレーニングを積んでも、認めてもらえない! いつだって『やめなよ』とか『シノはそのままでいいよ』とか言われ続けた! だれも私を認めない!」


 見て、とシノがアピールする。



「このダブルバイセップス! 細マッチョなマユには、力こぶのお山はできない。でも私ならこんなにも!」


 筋肉を見せびらかした。

 

「わたしじゃ、シノにかなわないよ」

「気休め早めてよ! 愛されるのは、いつだってマユじゃん! 私と何が違うの? ストイック過ぎると引くの!? ドン引きなの!?」


 えらく感情が飛躍している。


「だから、わたしのダイエットを邪魔したの?」

「そうだよ! 私こそ、真の筋肉キャラ! 萌えキャラなんて関係ない! 筋肉を愛してほしい! 私は、筋肉に愛されたい!」


 シノの決死のサイドチェストが、なぜかもの悲しい。


「シノは美少女だから、そのままでいてほしいってみんなの気持ちはわかるよ」

「でも、私には関係ない! 筋肉こそ、私のアイデンティティ!」

「だったら、シノが愛してあげればいいじゃん!」

「マユ?」


 シノの筋肉は、シノのものだ。他の誰のものでもない。

 筋肉が大好きだって、いいじゃないか。

 マッチョ好きだから。


「私は、マッチョでいいの?」

「いいよ。どんな姿でも、シノはシノだよ!」

「マユ!」

 

 わたしは、シノと抱き合う。


「マユ、ごめんね」

「わたしこそ、気づいてあげられなくてごめんなさい」

「いいの! わたしがわがまま過ぎた。筋肉に、大きいも小さいもない。そもそも、誰かと比較すること自体がおかしかった」

 

 シノが、わたしを撫で回す。


「私は、マユの筋肉がスキ。細くたって、誇らしい」

「わたしも、シノの頼もしい腕がスキ。ギュッと掴むと弾き飛ばされる筋肉が」


 二人して、お互いの筋肉を触る。



――数日後


 

 わたしは一度、元の体型に戻った。

 ラーメンチェーン店をおごられまくって、すっかりボテッとなってしまう。


 しかし、決死のトレーニングで、またシックスパックを手にしたのである。


「すごいなマユは。でもリバウンドもほどほどにね。代謝が悪くなるから」

「うん。気をつけるよ」

「それにしても、触ってみてもいい?」

「やだ!」



 まったく、シノこそがわたしの弱点である。

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