筋肉少女と、ビキニ

「わたしにビキニなんて似合わないって!」


 断固拒否しているのに、シノはしつこくわたしにビキニを着ろと言い出す。


 今わたしたちは、激安ファッションセンターに来ていた。

 臨海学校で着ていく水着を買うためである。


 海開きした砂浜で、キャンプをするのだ。


 夕飯はカレーを作って、翌日は地引網で取った魚や貝を炙って食う。


「マユ、せっかくの臨海学校なんだよ。おしゃれしようよー」

「してどうすんの?」

「男子に見せびらかそうよ」 

「だって、この筋肉じゃあ!」


 わたしは、鍛え上げた筋肉を見せつける。


 このシックスパックと二の腕では、男子にドンビキされるのは必至だ。


「いいじゃん。男前でさあ。男子って案外筋肉あるコ、好きだよ」


 そうか? 

 頼られるのは、好きではない。

 家に帰ったら甘えん坊な弟がいるから、なおさら頼られたくなかった。


「そういえば、弟がシノに会いたいって」

「え、マユって弟いたっけ?」


 とうの本人はこれである。

 ご愁傷さま、弟よ。 

 

「ビーチバレー大会とかあるんだから、出ようよ」

「やだ。球技苦手!」


 わたしは身体こそ鍛えているものの、運動神経は鈍い。


 特に、どこへ球が飛んでいくかわからない球技など、大の苦手だ。


「そういうマユこそ、ビキニ着なよ! オッパイだってあるんだし」

「やだよぉ。男子になんて見せたくない」

「ほらあ。そうやってアンタが逃げるから、わたしだって着ないの!」

「えー無防備になったマユをくすぐりたい。オイル塗ってアヘらせたいのに」

「本音がダダ漏れだぞ、このドS!」


 やはりこいつは、海でわたしに恥をかかせるつもりだったか。


「わーかった! わかったから着るよ!」


 そういって、シノは更衣室へ消えていった。

 衣擦れの音だけが、聞こえてくる。


「じゃーん」


 あまり楽しげでなさそうに、シノはビキニを披露する。

 布を縛るタイプの紐ビキニだ。


「おお。ほらあ。やっぱり男ウケだったらシノだって」

「ぬん!」


 シノが、抑え込んでいた筋肉を開放した。

 さっき着ていたビキニが、一瞬で弾け飛ぶ。


「あーあ、まだ精算していないのに!」

「いいよ。弁償するから。でもやっぱビキニやめ。男子に見せる裸はないない」


 そういってシノは水着代を店に弁償し、タンキニを買う。



「ささ。あたしが見せたんだからマユも早く」

「わかったよ。じゃーん」

 

 わたしはさらにテンション低めで、ビキニを見せた。

 といっても、スポーツタイプだが。


「ビキニの競泳水着とか、ポイント高すぎる。やっぱマユしか勝たん」

「ぬん!」



 わたしは、シノをマネて水着を弾き飛ばそうとした。


 失敗したが。

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