背筋女子の弱点

「どうだ。この背中の筋肉を見ろ!」


 わたしは、両腕を曲げて力こぶを作り、背中に力を入れた。

 

「マユすごいねー。背中が鬼の顔になってるよ」

「それはいいすぎじゃないか、シノ」


 そこまで鍛えたら、さすがに魅力半減だと思うが。


「マユ、背中、触っていい」

「いいけど、くすぐるなよ」


 わたしは、敏感だ。

 ちょっとくすぐられると、声が出てしまう。


「じゃ、触るねー」

「うん……んっ!」 

 

 インナー越しに、シノがわたしの背中をさすってくる。


「うわ、タンクトップがピチピチだね。肩が盛り上がっているせいかな」

「念入りに鍛えたからぁあ!」


 肩から背中にかけて、指を這わせる。


「背中弱い?」

「鍛えていない背骨のところはダメぇ!」

「声、裏返っちゃうね」

 

 今度は、指が腰から首までにかけてせり上がってきた。


 ゾクゾクゾクゾク、と、変な感情がわたしの口から吐き出される。


「タンクトップが邪魔で触りづらいね」

 

 わたしは、胸があまりない。

 スポブラどころか、タンクトップでも隠せてしまう。

 

「で、でも」

「いいじゃん。ここは自室だし。男子が来ることもないよ」


 ここは、わたしの部屋だ。誰も入っては来ないはず。


「まあ、いっか。男子が見ても喜ばれない身体だし」


 わたしは、タンクトップを脱ぎ捨てる。


「そんなことないよ。筋肉女子って割と需要あるよ」

「ないよ。特殊性癖だっての」

「とにかく脱いで。誰にも見られてないからいいじゃん」



「脱いで、うつ伏せになろうか。ここまで鍛えるのに、大変だったでしょ? マッサージしてあげる」

「う、うん」


 されるがままに、わたしはシノに背中を向けた。


 シノが、ベビーローションのボトルを手に取る。


「じゃ、お願い」

「ホイホイ」

 

 わたしの裏モモの辺りに、シノは腰掛けた。


「あひゃ」


 背中に冷たい感触が。

 ローションを直接垂らしたのだろう。


「のけぞっちゃダメ」


 シノが、わたしの後頭部を枕に軽く押し付けた。

 わたしも脱力する。


 あと数滴ローションを垂らされ、わたしは悶えた。


「我慢して、いくよ。ヌリヌリ」


 シノの柔らかい手の平が、わたしの背中をなぞった。


「ぬうううう」

「もっと広く、ヌリヌリー」

「おっほぉ」


 シーツをギュッと握りしめて、なんとも言えない快感に耐える。


「筋肉ってね。縮めるだけだとダメなんだって。ちゃんと伸ばしてあげないと、代謝ってよくならないんだよ」

「そうっ、なんだぁあああ」

「だから、伸ばすのは私がやってあげるね」

「んんんんっ」


 キャメルクラッチまでされる。

 

「んぎい!」


 パキっと、腰の骨が鳴った。


「あ、やば。痛かった?」


 慌てて、シノが技を解く。

 わたしは、首を何度も振る。

 

「いや。腰が矯正されただけ」


 ホントに伸ばさないといけないんだなって思った。



「マユ、おばあちゃんみたい」

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