第4話 家族で夕食、ミステリーガール

「今日はどうだったの?」


 家族四人でご飯を食べながら、入学初日の話をする。


「うん、まあまあ」


 実は嘘。

 入学式よりも驚きの大事件が起きたけど、ちょっと……話しにくい。

 もう少し黙っていよ。


「勉強がんばるんだぞ」


 そう言うのは、お父さん。


「わかってるよー」


 勉強は、そこそこ頑張る。

 大学にも行かなきゃならないし。


「ねーねー、お兄ちゃんー?」


「ん?」


 妹の愛菜あいなが話しかけてくる。

 その瞳はキラキラと輝いている。

 たぶん、高校生に憧れているんだ。


「あの女の人だれー?」


「んぐっ……!」


 僕は予想外の質問に、ハンバーグを喉につまらせた。


「あ、愛菜……!」

「なにを言っているんだ……!」


「お兄ちゃんがさっき一緒にいた人、誰ー?」


 僕を見上げる愛菜の顔は真剣だ。

 ホントに気にしてるみたい。


「誠人?」


「どういうこと?」


 両親が僕をじっと見つめる。

 まずい、説明しなきゃいけない。


「あのー、入学式のあとに、声をかけられてさ」


 たどたどしく説明を始める。

 うん、間違ってないよな。


「そのあと、いろいろあって、一緒に帰ることになったんだ」


 うん、いろいろあったな。

 詳しくは語らない。


「いろいろあったんだー」


「いろいろあったよ」


 さすがに彼女が自傷しようとしてたとは言えない。

 心配されてしまう。


「まあ、話しかけてくれる人がいてよかったじゃない」


「そうだね」


 下手すりゃボッチだったから、いてくれるだけマシなのかも。


「結婚するときは、挨拶に来るんだぞ」


「んがっ!」


 お茶が変なところに入る。


「ゴホッゴホッ!」

「お父さん、変なこと言わないでよ!」


 まだ友達にもなってないのに!


「そうよー」

「誠人に彼女なんてできるわけないわよー」


 そう言いながら、お母さんはニヤニヤ笑ってる。


「なんでみんなして、僕をイジメるんだよー!」


――――――――――――――――――――


 僕はベッドに寝転がって、考える。


「告白……だよね」


 今日のあれ。

 もし僕が、オッケーって言ったら……。


「どうしよう……」


 わからないな。

 今まで女の子の友達はいたけど、彼女ってわけではなかったし。


「……」


 好きか嫌いか。

 そう自分に問いかける。


 正直どっちでもない。


 でも、好きと言われたら僕も気になってくる。

 これが彼女の作戦なのだろうか。


「お兄ちゃん、どうしたの?」


「うお!」


 愛菜が覗き込んできた。


「そんなにまじめなんて、お兄ちゃんらしくないよー」


「なんだとー」


 でも、そのとおりかも。

 こんなに悩むのは初めてだ。


「なぁ、愛菜」


「なーに?」


「お兄ちゃんは、すごーく悩んでるよ」


「そうだね」


「まぁ、とりあえず寝ようか」


「うん!」

「明日になったら、きっと良くなるよ!」


「ありがとう」


 僕は愛菜の笑顔で幾分か心が安らいで、眠りについた。

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