津波 ~In diese wunderbare Welt~

マツヒラ カズヒロ

プロローグ

いったいどうしてこうなってしまったのか。誰かがどこかで発した問いかけはただただ虚空に木霊するばかりであった。


全ての始まりはあの大戦であった。大戦争と呼ばれた一連の戦争は世界のパワーバランスを大きく変更させることを強要させるに至った。


世界大戦の最大の勝利者であるドイツはついに日の当たる場所を獲得するに至った。旧フランス、ベルギー植民地をはじめとする莫大な植民地と東欧に確固たる勢力圏を獲得したカイザーライヒは、敗戦国であるフランスやイタリアから得た莫大な賠償金と植民地の富を元手に発展、ついにはイギリスに伍する超大国となった。


反対に最大の敗北者はフランスとイタリア、そしてロシアであった。フランスではドイツから課せられた莫大な賠償金と植民地の失陥と言った諸々の要因から各地で暴動が頻発、何とか鎮圧したもののブルターニュの独立を許す羽目になってしまった。大暴動鎮圧後も頻発する政治スキャンダル、各地で騒乱を起こす政党、政治組織の私兵、そしてドイツに対する復讐主義。もはや第3共和制に価値などない。そう考えた一部の人々は軟弱な政府に対してクーデターを起こし、ついには王政を復古させるに至った。


反対に王政を打倒したのがイタリアであった。オーストリアにロンバルディア・ヴェネティア、そしてトスカーナを割譲させられ、両シチリア王国の復活を許したイタリアでは共和革命が勃発、高名な詩人であり、国粋主義者でもあったガブリエーレ・ダンヌンツィオと彼率いる「フィウメ・グループ」が革命の主導権を握り、彼が倒れるとその後継者たちにより奇妙なイデオロギーのもと国の再編がすすめられることになった。

それは未来主義であった。過去の徹底的な侮辱と未来への徹底的な羨望、そして暴力的な速さへの賛美はイタリアを奇妙な、そして暴力的に近代的な国家へと変貌せしめた。


ロシアではどうなのだろうか。ボルシェヴィキによる赤色革命の後、反革命との壮絶な内戦が幕を開けた。

コルチャーク、デニーキン、そしてヴラーンゲリとの壮絶な死闘、アラシュ、バズマチとエンヴェル・パシャ、そしてシベリアに派遣された干渉軍との激闘は数年にも及び、結局、ロシアのほとんどを掌握することに成功した。

無論、失われたものも多かった。日本の影響下にある沿海州、白軍の猛将ウンゲルンが立てこもるモンゴル、白軍の残党と合流したアラシュやトルキスタン、そしてドイツによって奪われた東欧旧帝国領。革命は何処へ行くのだろうか。


イギリスではこれら諸国と比較して割かしましな方ではあった。

千日手に近い戦闘の末、ドイツ軍の乾坤一擲の作戦により小部隊の降下を許し、パニックに陥った民衆による一大ゼネストと言った大混乱こそあったものの、ドイツとは現状維持で講和もできたことで、大英帝国の看板は何とか守られた。

が、最近ではその看板に飾り立てた宝石が落ちてしまった。イギリス領インド帝国で大反乱が発生したのである。イギリスの敗北と衰退を好機とみなした国民会議の一部の民族指導者が、ついに蜂起を起こしたのだ。

ウッダル・プラテーシュを中心に起きたその蜂起は最初こそインド帝国軍が押していたものの、本国で大規模なゼネストが起き、そちらに兵力を割くことを強いられると戦況は一転、イギリス軍の武器を奪取した国民会議軍が北インドを制圧したことによって膠着、ついには停戦となった。


世界は明確に勝者と敗者に分かたれ、いまだして火種がくすぶり始めている。


あの大戦からもう10年と少しが経過した。世界はよくなるばかりか、さらに悪化の兆しをたどりつつある。


いったいどうしてこうなってしまったのか。誰かがもう一度言ったその言葉は、晴れやかな空に消えていった。

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津波 ~In diese wunderbare Welt~ マツヒラ カズヒロ @kuwakaz999

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