第148話 デストロイヤー級女子と暴君嫁
コンビニの棚に商品を並べる。配送された商品を品出し陳列する仕事だ。悠は大学に通いながら、近くのコンビニでバイトを始めた。
コンビニといっても、最近はレジ打ちや商品陳列だけではなく、公共料金、税金、保険料などの支払い代行業務、チケット販売、宅配サービスの受付など多岐にわたる。覚えるのも大変である。
愛する百合華に結婚指輪や挙式や新婚旅行をプレゼントする為に、せっせとバイトに精を出す悠だった。
ただ、百合華としては、自分の為に頑張っている悠を嬉しく思いながらも、イチャイチャする時間が減ってしまいムラムラするカラダを抱えているのだが。
そして、心配事はもう一つ――――
「明石君、それ終わったらレジお願い」
派手な見た目とメイクをした女が声をかけた。
「はい、
ふわっと流れる柔らかそうな髪に、少し
派手な見た目通りに
実は良いとこのお嬢様らしい。
本人は愛に真っ直ぐな純粋ゆえの行動なのか、何かとトラブルに見舞われるそうなのだ。更に、付き合った男が次々と身の破滅へと誘われるといった、真偽不明な伝説まで広まっていた。
そして、悠の大学の先輩である。偶然に同じコンビニでバイトをすることになったのだが、彼女の次のターゲットが悠なのだと学内では密かに囁かれているのだった。
悠もその噂を聞いていて、彼女には少し警戒しているのだが。
朧先輩――
噂では
暫くして客が途切れたところで、美月が話しかけてきた。
「ねえ、明石君ってパソコン詳しいんだっけ?」
特徴のあるおっとりした話し方だ。
「えっ、あ、はい。多少は」
「ほんと、うちのパソコンが調子悪いんだけど、見てくれない?」
「えっと……」
だ、大丈夫なのか……?
いや、噂を信じているわけではないのだが……
「もしかして、噂……」
「ち、違います……」
「大丈夫よ、あんなのただの噂だから」
「で、ですよね」
そして悠はOKしてしまう。
だ、大丈夫だよな……
ちょっとパソコンを見るだけだから。
すぐ帰れば問題無いはず。
「ふあぁぁ~っ……」
美月が大きなあくびをした。
「眠そうですね。睡眠不足ですか?」
「そうなんよ……隣の部屋から毎晩エッチな声がして」
「それは災難ですね。迷惑な人もいるもんだ」
「だよねえ」
毎晩エッチな声を響かせるとか、迷惑な隣人トラブルは多いんだな。毎晩やられたらたまらないよ。世の中にはお姉ちゃんみたいなエッチ女子が多いのか? 世も末だぜ。
悠は自分たちのことを棚に上げ社会問題を提起する。
「一度、ちゃんと注意した方が良いですよ。言わないと気付かないかもしれませんし」
「そうなん? 今度、注意してみようかしら?」
ガァァァァ――――
入り口の自動ドアが開いて、見知った女性が入店した。
「悠、来てやったわよ!」
大学の同期となった貴美だ。
「中将さん……暇そうだね」
「はあ? あんた相変わらずムカつくわね!」
貴美が悠の襟元を掴もうとする。
「ちょ、お客様、店員への暴力はお止めください」
「あんたが客に喧嘩売ってるからでしょ!」
「ぷっ、ふふっ、あはは……」
美月が笑い出してしまう。
絶妙なコンビネーションで繰り広げる二人の会話に、ついついツッコんでしまった。
「仲良いわね。彼女なの?」
「違います!」
「違うから!」
美月の言葉に、速攻で返す二人だ。
「よく来店するし仲が良いみたいだから、てっきり」
「す、好きでも何でもないから」
進学して新しい恋を探そうと思う貴美だが、やっぱり悠をからかいに来てしまうのだった。
「私は買い物ついでに、あんたが浮気してないか見に来ただけ。もし浮気してるのを発見したら覚悟なさいよ!」
悠に向かってそう言うと、貴美は商品を選びに行ってしまった。
「えっと……」
「明石君って、やっぱり彼女いたんだ?」
「あ、はい……(ほんとは嫁だけど)」
「そう、残念……」
えっ、今なんて……?
だ、大丈夫だよな。
俺が確りしていればデストロイされないはず。
噂を信じていないと思いながらも、ちょっぴり恐怖を感じる悠だった。大学生になったのに、いまだ
――――――――
バイトの帰り、パソコンの調子を見る為に、美月のアパートでと向かう二人。悠は少し警戒しながらも、嫁にバレないか心配していた。
ううっ……
何で断らなかったんだろう……
やっぱり他の女の部屋に上がるとか、余計な誤解を生むだけだよな。
ふと、歩いている方向が、何故か自分の住んでいるアパートと同じだと気付く。
あれ?
いや、まさかな……
美月の足は、どんどん悠と百合華の愛の巣へと向かう。そして、美月が立ち止まった場所は、まさに悠が住むアパートの前だ。
「えっ、あれ……」
「どうかしたの?」
「い、いえ……」
タンタンタンタン――
階段を上がり部屋の前に到着する。
「ここよ」
美月が指差した部屋は、愛の巣の隣の部屋だった。もう予想通りの展開だ。
「入って」
鍵を開けて部屋に上がった美月が、悠を手招きする。
あははぁ……
最悪だ……
まさかお隣さんだったとは……
引っ越した時に挨拶に行ったら、この部屋だけ留守だったんだよな。
先日引っ越したばかりなのだが、美月の部屋は表札も無く留守だった。一人暮らしの女性の場合は、敢えて女性一人だと分からないように挨拶しない場合も多いと聞き、そのままになっていたのだ。
まさかのバイト先の先輩の住む部屋だとは思うまい。
「これなんだけど」
美月が、部屋にあるノートパソコンを指差す。
「少し前から音が出なくなっちゃって」
「うん」
パソコンを起動させ様子を見る。
あああ……
どうしよう……
お隣だって挨拶した方が良いのか?
てか、毎晩エッチな声がうるさい人って、お姉ちゃんじゃないか! 恥ずかし過ぎる……
サウンドの設定を開くと原因はすぐに分かった。デバイスを設定し、横の小さなスピーカーから音が出るようにした。
「できた。出力デバイスが変更されちゃってただけみたい」
「ありがとう。すぐ直しちゃうなんて、明石君すごいわあ」
両手を合わせて嬉しそうな顔でお礼を言う美月。
「いや、たいしたことじゃないです」
「今、お茶入れるから」
「いえ、もう帰りますね」
「でも……」
あまり遅くまで居て百合華に見られたら最悪だ。すぐに退避すべきだろう。
「お礼もしたいのに」
「いえ、これくらい何でもないですから」
ガチャ――
ドアを開けて外に出る。
「また今度お礼するから」
「ほんとに大丈夫です」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
これまた予想通り、悠の背後に魔王の威圧感が迫る。ちょうど帰宅した百合華が、二人の現場を目撃してしまった。
「ユウ君、何で今その人の部屋から出てきたのかな?」
「ひいぃぃっ! ち、違っ、誤解だから」
「ふふっ、死刑!」
指で横一文字に首を斬るジェスチャーをする百合華が滅茶苦茶可愛い。
「あああああっ! 勘弁してぇぇ~っ!」
遂に悪魔嫁による死刑執行が行われそうだ。
こんな非常事態なのに、悠は百合華の可愛さに悩殺されていた。骨の
ただ、不倫を疑われてしまうのは心外なのだが。
「明石君、もしかして彼女なの?」
美月が『あらあら』と言った感じにリアクションする。
「申し遅れました。悠の妻ですが」
悠に変わって百合華が一歩前に出て宣言する。胸を張り、巨乳を突き出して、妻の部分を強調だ。
「え、えっと……明石君って結婚してたん?」
これには、さすがの美月もビックリだ。
「あの……新婚さんです」
「そうなんや……」
ビックリしたからなのか、少しだけ方言が出ている。普段から少しそんな感じがしていたのだが、もしかしたら彼女の出身は西国の方なのかもしれない。
「あの、
「えっ、同じバイト先……」
何か思うところがあるのか、百合華がジト目で悠を見つめる。
「そんなに心配しなくても何もないですよ」
そう言いながら、美月は何かを思い出したように襟を正すようにしてから話し出す。
「これは旦那さんからも言うように促されたんやけど。毎晩あの声が大きすぎて迷惑なんですよ。もう少し抑えてもらえませんか?」
「えっ、あのっ、その……す、すみません」
最初こそ勢いが良かった百合華だが、あの声が大きいのを指摘され真っ赤な顔でプルプルしてしまう。
やっぱりご近所トラブルになる運命だった。
「あの、朧さん、すみません。声は気をつけますから。失礼しました」
「またバイト先でな」
少しニヤニヤとした美月が手を振る。
もう、羞恥嫁のHPが持たなそうなので、挨拶を済ませて自室へと戻る事にする。プルプルしている百合華を連れ愛の巣へ逃避だ。
バタンッ!
部屋に戻ってから、悠は頭を抱えた。
うわあああっ!
今のは天然なのか?
それともわざとか?
何であのタイミングで言うんだぁーっ!
でも、とりあえず誤解をとかないと。
「ゆ、百合華ちゃん……ほんとにパソコン見ただけだからね……」
「もうっ、それは良いよ。ユウ君が浮気するわけないし。信じてるし」
「良かったぁぁーっ……誤解がとけて良かったよ。一時はどうなるかと……じゃあ、ご飯にしようか?」
とりあえず悠が御飯の用意を始める。
「私がユウ君を疑うわけないでしょ」
「だよね」
「じゃ、ご飯の前にしよっか?」
「ん? 何を……?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
再び凄まじい威圧感とフェロモンが漏れ出す。
「死刑と言う名のオシオキに決まってるでしょ!」
「あはは……やっぱりそうきたか……てか、それもうオシオキじゃないし……」
ゴソゴソゴソ――
クローゼットから懐かしいエチエチ道具を取り出す嫁。
「じゃぁーん! お嫁さんと強制密着刑EXⅡ!」
義理の姉弟だった頃に何度もオシオキに使われた、伸び縮みするピッチリした上下インナーだ。二人でこの中に入って完全密着するという恐ろしい刑罰だった。
しかも、姉から嫁にクラスチェンジしてバージョンアップされている。
「あの、先にシャワー浴びてからにしない?」
「だめぇぇぇぇーっ!」
汗ばむ真夏の熱帯夜。
ただでさえ汗で蒸れているのに、更にムレムレで濃厚な姉兼嫁に包まれるという、脳まで蕩けさせられそうなオシオキ。もう、想像しただけで腰の奥がゾクゾク震えてしまう。
「あああ……やっぱりこうなったか」
「ユウ君、私が他の女の部屋に入った大罪を許すわけないでしょ。しかも、エッチな声の件で恥までかかせられて」
「で、ですよねーっ……」
「とりあえず、これ着けたまま三回戦ねっ!」
強制密着刑のままプロレスごっこも追加されてしまった。しかも三連戦だ。
これは、明日は足腰にきそうだ。
「うわあああああああああーっ!」
「はあああああああああぁーん♡」
美月の注意も空しく、更に燃え上がってしまう二人。いや、羞恥攻めにより更にパワーアップしてしまう。真の
もう誰にも止められない。
美月の睡眠不足は、まだしばらく続きそうだ。
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