第141話 旅立ちの日、戦友との約束
三年間通い続けた
何度もピンチを乗り越えて、その都度レベルアップし百合華と対等の騎士王になった。もはや悠は、あの頃の守られるだけの子供ではないのだ。
卒業式を終えた悠が、教室の窓から校庭を眺める。
「ふっ、桜舞う校庭ともおさらばだぜ。思えば色々あったな……体育館でバレー部の先輩女子にシゴかれそうになったり……文化祭でシゴかれそうになったり……体育倉庫でシゴかれそうになったり……修学旅行でシゴかれそうになったり……あれ? シゴかれた思い出ばかりだぞ」
「あんた、相変わらずね」
後ろから貴美が声をかけた。
「中将さんにもシゴかれまくった記憶が……いや、むしろシゴかれた記憶ばかり浮かんでくるぜ。でも、今思うと中将さんの絡みが無くなるのは寂しい気が……」
ガシッ!
貴美に胸ぐらを掴まれる。
「悠、ケンカ売ってんの?」
今日で卒業というのに懲りない面々だ。もう何度も繰り返したオヤクソクの展開になる。
「これで最後だなんて思わないことね! 大学も一緒だし地元も同じだし、これからもガンガン絡みに行くから。覚悟してないさいよ!」
「ええええ……」
卒業しても絡みに行く宣言の貴美に、歩美と沙彩が呆れた顔で呟いた。
「いや、さすがにここまで来ると凄いとしか……」
「もう好きにさせるしかないわね。言っても無駄だし」
「ちょっと、アユ、サーヤ、何よその顔」
まるで珍獣を見るような顔をした二人に、貴美がツッコむ。
いつものようにはしゃぐ女子たちに、悠が少し感傷的な気持ちになった。
「でも……中将さんには本当に感謝しているんだ」
「えっ、何よ急に……」
真っ直ぐ貴美の方を向いて話す。
「俺は人付き合いが下手だし、自分から人の輪に入って行くような性格じゃないから。いつも、中将さんが俺を引っ張ってくれて。中将さんのおかげで、クラスに溶け込めたり友達ができたんだ。ありがとう」
「えっ、そんな……別に普通のことだし」
そう話す貴美の目に、次々と涙が溢れる。
「うっ、ううっ……うわぁぁぁぁ~ん! 何でそんなこと言うのよぉ~っ、泣いちゃったじゃない! 悠のバカぁぁ~っ!」
まさかのガチ泣きだ。
ドS少女が感極まって泣いてしまった。
「えっ、ど、どうしよう……」
「うわぁぁ~ん、バカ悠」
悠が困っていると、クラスメイトが囃し立てる。
「あ~っ、中将さんを泣かしたぁ~」
「明石が女を泣かせてるぞ!」
「さすが明石、最後に貴美を泣かせるなんて」
「やっぱスゲぇわ、ハーレム王かよ」
「ええっ、違うのに……」
氷の女王百合華をデレさせたという噂が広がってからというもの、勝手に噂は広がり続け、何故か学園の
本人は全くそんな気もなく、百合華を守る騎士王だと思っているのに。
「中将さん、泣き止んでよ」
「うるさい、あんたが感謝なんかするからでしょ」
「鬼の目にも涙かな?」
ガシッ!
「やっぱりケンカ売ってるでしょ!」
「痛っ、ちょ、痛いって」
やっぱりシゴかれる運命だった。
ポンポン――
「卒業したら明石とも会う機会も減るのか……」
真理亜が肩を叩きながら声をかける。
「夕霧さん……」
胸ぐらを貴美に掴まれたまま、首だけ回して真理亜の方を向く。
「卒業しても、たまには遊ぼうぜ。これっきりなんて寂し過ぎるから……」
「うん、そうだね。夕霧さんにも感謝してるんだよ。いつもフレンドリーに接してくれて、凄く助けられたんだ。夕霧さんは、最初ちょっと怖そうに見えたけど、本当はとても優しくて周囲を気遣ってくれる良い人だったよ」
「あっ、なんだよ……ううっ、くっそ……何で、あたしに優しくするんだよ。忘れようとしてんのに、それじゃ忘れらねねぇだろ。うわぁぁぁぁ!」
ぽろぽろと大粒の涙を零して真理亜が泣き出した。
「ええっ、あの、夕霧さん?」
前で貴美が泣き、後ろで真理亜が泣いてしまい、更にクラスメイトがヒートアップする。
「おい、明石がまた女子を泣かしてるぞ!」
「ああ、夕霧さんまで……」
「真理亜ちゃん、密かに好きだったのに……くそっ、明石のヤツ!」
「ううっ、更に俺のイメージが……」
「うわぁぁ~ん、悠のバカぁ~っ!」
「ちくしょぉ~っ、泣くつもりじゃなかったのによぉ~!」
泣いた二人の女子に挟まれたままのところに、今度は葵がやってくる。
「まさか六条さんも……?」
「私は違いますから。べ、別に明石君のことなんて……」
「だよね。何とも思ってないよね?」
「そう言われると何だか腹が立ちます。私だって明石君が好きですけど!」
「えええ……」
葵まで告白してしまう。無関係だと思っていた卒業式の日の恒例行事が悠の身に降りかかる。
周囲のクラスメイトたちの視線が痛い。クラスの美少女を独り占めしているのだから仕方がないのだが。
そんな中、竹川が悠の元へやって来る。
「明石……あの深淵の魔王であり氷の女王である百合華姫をデレさせただけでなく、クラスの美少女ドSフレンズを何人も虜にするとかどんだけだよ」
「竹川、これは違うんだ。きっと俺がドS女を引き寄せているだけで……」
「いや、それが羨ましいのだが……」
もはや竹川はドMだった。ドS女子と付き合えるのなら最高だ。
「でも、彼女ができた途端、オタクなのを隠したり疎遠になるヤツが多いなか、オタク全開な明石は凄ぇと思うぜ」
「まあ、俺は
「くっ、何でこんな中二病オタクがモテるんだ」
「おいっ」
ガヤガヤと別れを惜しんだり盛り上がったりする教室に、百合華が入ってきた。最後のホームルームだ。
一瞬だけ、三人の女子に囲まれている悠に視線を移し、暗殺者のような殺気を出してから元に戻す。
きっと、今夜もキツいオシオキが待っているはずだ。
「最後のホームルームを始めます」
百合華の声で皆が一斉に席に着く。
「皆さん、卒業おめでとうございます。皆さんとは、私が新任としてこの学園に来てから一緒に三年間を過ごした記念すべき生徒たちです」
いつも厳しめで少し怖い女教師の百合華が、今日は優し気な顔をして話している。
「新任教師として至らぬ点があったかもしれませんが、皆さんと共に過ごし成長した三年間は、私にとっても宝物のような掛け替えのないものでした」
「先生……」
「百合華ちゃん……」
「これから社会に出れば、楽しい事ばかりではなく辛い事や悲しい事も多いかもしれません。ふと立ち止まった時は、皆で過ごした三年間を思い出してくれたら嬉しいです。そして、もし、どうしても進めないとか耐えられないと思った時は、少しくらい休んでも逃げても良い。どうか自分を大切にしてください。私から言えるのはこれだけです」
パチパチパチ――
百合華が話し終えると拍手が起こった。
そして、再びクラスが沸き、別れを惜しむ声や歓声が上がる。
そんな中、女子生たちが百合華に質問した。
「先生、先生はこれから卒業した明石君と付き合ったり結婚したりするんですか?」
ストレートな質問が飛び出し、それまで落ち着いた顔の百合華が急にぎこちなくなる。
「えっ、け、結婚……そ、それは、ご想像にお任せするわね」
「それって結婚するって意味ですか?」
「きゃぁ~っ、卒業と共に結婚とか?」
「もしかして、エッチも?」
「こらっ、教師をからかうもんじゃありません。そ、そういうのはゆっくり紡いで行くものよ」
エッチしまくりなのに、ゆっくりとはこれ如何に。結局、真っ赤な顔になって照れまくる百合華なのだ。
「悠とは大学も同じだし、私も本気出しちゃおうかしら」
「あたしも、やっぱり諦めるのよそうかな?」
貴美と真理亜が悠を狙う宣言までしてしまう。本当に懲りない面々だ。
彼女らの発言に、速攻で百合華がブチギレてしまう。
「ちょっと、あなたたち! 今までは教え子という関係だから手加減してきましたけど、卒業したら容赦しませんからね! 私の悠に手を出す小娘がいたら、本気で相手してあげるから覚悟なさい!」
「えっ、あの、お姉さん……」
「ゆ、百合華ちゃん怖っ!」
百合華の迫力に、貴美も真理亜もビビりまくる。
「「「キャァァァァーッ!」」」
「「「ヒューヒューッ!!」」」
突如勃発した女の戦いにクラスが沸き上がる。
「ああああ……お姉ちゃんが、遂に本性を出しちゃった……」
これには悠も恥ずかしさで顔を隠す。
「いいコト! 悠にも言っておきます。愛しているし信用してるけど、もし浮気したら許さないから! 泣いても許されない超キツいオシオキをします。あっ、それじゃ喜んじゃうよね。今後一切オシオキ無しですから! いいわねっ!」
「うわあああっ! なに暴露してんだバカ姉!」
「「「キャァァァァーッ!」」」
「「「明石君って、やっぱりMだったんだ」」」
まさかのオシオキばらしで更に羞恥攻めだ。何故かこのタイミングでポンコツ姉になるとは。
「悠、あんたってやっぱり……」
貴美が疑惑の目を向ける。
「ち、違うから……」
「あ、あたしも、明石が望むのなら超ドSになるわ」
真理亜もその気になる。
「ならないでっ!」
「やっぱり、私の目に狂いはなかったわね」
いつの間にか後ろにいる沙彩が、ボソッと呟く。
「だから、背後を取らないで!」
学園の勇者で一目置かれる
悠の伝説が、また一つ増えた所で解散となり、廊下を歩いていると、いつか会った気品のある六十代くらいの女性が声をかけてきた。
「明石君、卒業おめでとう」
「あっ、いつか会ったおばさん……ありがとうございます」
「学園長です」
「す、すみません」
学園長の
「あの時の、大切な家族を守ろうとしたキミ、とても立派でカッコよかったわ。これからもお姉さんを大切にするのよ」
「はい」
それだけ言うと皐月は引き返して行った。
学園長……
俺は色々な人に助けられたり支えられていたのかもしれないな。感謝しないと。
「そうだ!」
悠は、ある事を思い出し、職員室へと向かった。
「末摘先生!」
職員室近くの廊下を歩いていた花子に声をかける。
「ゆ、悠君! も、もしかして私に会いに?」
「はい、約束を……」
「ややややや、約束でしゅか!」
悠のセリフで一気におねショタハートが燃え上がる花子。
えええっ!
もしかして、卒業と同時に私に告白?
ででで、でも、悠君には師匠が……
もしかして、愛人? いや二号さん? もしかして奴隷一号?
勝手な妄想で盛り上がっているが、若干変態っぽい。
三十歳を迎え魔法少女になった私ですが……まさか一花咲かせる時が来たのですね!
※三十歳で少女というワードにツッコんではいけない。
よく分からない二人の戦友のような関係に、何かが起ころうとしていた。
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