第136話 仲良くドライブデートのはずがオシオキになる二人
何だかんだあった悠も進級し、春から最上級生となった。大学進学の判定も良好で、これも悠の頑張りと百合華のオシオキ付きスパルタ学習法の成果だろう。
途中、姉の威厳を見せたい百合華が、おかしな小道具を作って悠をオシオキしようとした。小さなアウトドア折りたたみイスの座る部分をくり抜き、それを悠の顔を跨ぐように設置する。椅子に百合華が座ると、悠の眼前にパンチラが拝める素晴らしい小道具だ。
ただ、悠にオシオキしようとしたはずなのに、座っている百合華が余りの羞恥心でおかしくなり、勝手に陥落してしまう意味不明な代物だった。
もう、何をしようとしているのか分からない。姉が夜なべしてエッチな小道具を作っていたかと思うと、恥ずかしいような微笑ましいような不思議な感情でいっぱいだ。
そしてある日、百合華が悠をお出かけに誘った。
「ユウ君、お出かけしようよ」
ちょっと挙動不審だ。
こういう時の百合華は何かを隠している。
「えっと……何かオシオキしようとしてる?」
「してないよぉ、ただのお散歩だよ」
「この前の変なイスの件もあるし」
「あれは忘れてぇ~お姉ちゃんの黒歴史なのぉ」
黒歴史といえば中二病の悠なのだが、実はその悠でさえ百合華の黒歴史を多く見過ぎて、自分は姉の足元にも及ばないと思っていた。
お姉ちゃんの黒歴史って……
多すぎて何が何やら?
大体、エッチなことをしようとして自爆するパターンだけど。
「ユウ君! お姉ちゃんの黒歴史は詮索しなくていいからぁ」
「突然ですが問題です。お姉ちゃんの歴代黒歴史トップ3は?」
悠が突然クイズを出す。
「は? はあ? ダメダメダメぇ~っ!」
恥ずかしがる姉が面白いので、当然続ける悠だ。
「第三位、同級生女子たちにマッサージされて皆の前で陥落」
「わぁぁぁぁーっ! ダメぇ~」
「第二位、こっそり中学の時の制服を着ようとして、サイズが合わずに脱げなくなる」
「あああん、もうやめてぇ~っ!」
「第一位、大っきなウ――」
「それは言っちゃダメっ言ったでしょ!」
どぉぉぉぉーん!
「ぐえっ」
悠が禁句を言いそうになり、百合華のヒップアタックをくらってしまう。そのまま姉の尻に敷かれるオシオキ付きだ。
「あ、あれだけはダメなの。もう、思い出しただけで……恥ずかし過ぎておかしくなちゃいそうなんだから」
「まてまて、ケツが近い!」
倒れた悠の上に座っているので、必然的にケツは近いのだ。
「どう、ユウ君、反省した?」
「えいっ」
ペチン!
「ひゃぁ~ん」
お尻で攻めておいて自ら叩かれに行く百合華だ。
「も、もぉ~っ、何でお尻叩くのぉ!」
「いや、こっちに向けるから、叩いて欲しいのかと思って」
と、今日も今日とて朝からイチャイチャしまくる二人だ。もう、心と心が通じていて、わざと恥ずかしがらせてからのオシオキしているみたいな攻防だった。
一息ついてから姉弟一緒に出掛けることになる。大好きな姉に『一緒にお散歩』などと言われたら、何をおいても行くしかないだろう。
「ユウ君、お外ではお尻触っちゃダメだよ。お姉ちゃんおかしくなっちゃうからね」
「しないよ。外でお姉ちゃんがハレンチ行為すると困るし」
「し、しません! ハレンチ行為なんて」
必死に否定する百合華だが、最近は鋼の意志がエッチな欲望に負けそうで危険なのだ。
「もうっ、変なこと言ってないで行くよ」
「はいはい」
久しぶりの二人でお出かけだ。前にイチャイチャする写真を撮られてからというもの、なるべく外でイチャつくのは控えていた。その分、家ではずっとくっついてイチャイチャしまくりなのだが。
少し歩くと幹線通り沿いにある自動車ディーラーへと入って行く。悠が呆気にとられているうちに、百合華が手続きを済ませてしまう。
「じゃじゃ~ん、車買っちゃいました」
「え? お姉ちゃんが?」
目の前には小さな軽自動車が止まっている。
「どうしたの急に?」
「ふふっ、車があれば前一緒に旅行したみたいにドライブに行けるでしょ」
「へぇ~っ、いいね、お姉ちゃんと旅行か……」
二人揃ってラブラブな旅行を思い出してほわほわした気持ちになる。
「でも、お姉ちゃんのイメージだと軽自動車じゃなくて、黒塗りのイカツイ外車とかアメリカンなマッスルカーのような気が?」
「私って、どんなイメージよっ!」
褒めているようでディスられている気がして百合華が吠える。
「い、いや、その分厚い胸部装甲とか、プリプリした丸いケツとか……」
ガシッ!
「悠、あまり私を怒らせない方が良いわよ」
「痛っ、痛たた……ギブギブ」
百合華がヘッドロックの体勢になる。
まさに、そういうイメージなのだが。
「お待たせしました」
店長のような年配の男性と、若い新人っぽいディーラーの営業マンが出てきて挨拶をする。
「ええ、ありがとうございます」
「ははあ、有難き幸せ!」
「恐悦至極にございます!」
営業マンが時代劇っぽい感じになってしまう。百合華の超絶美しさと女王然とした威圧感と、この世のものとは思えない魅惑的フェロモンの相乗効果で、完全に虜にされてしまったようだ。
相変わらず、お姉ちゃんの威厳は凄いな。
そりゃ、これだけ外で超絶美人として持て囃され、誰もが
家では俺の前で恥ずかしい姿ばかり晒して、たまに陥落して奴隷姉になっちゃってるのだから、姉の威厳にこだわるのも分かる気がする。
たまには負けて姉を敬おうかな……
最近負け越している姉を心配して、ちょっと気を遣う悠だった。
「じゃあ、ユウ君、ドライブ行こうか」
百合華が満面の笑みを向ける。
「うん」
自分にだけに見せる心からの笑顔と、完全に気を許している態度が嬉しくなる。他の男に対する時と自分に対する時の違いは、自分だけが特別なのだと百合華に態度で示されているようで、とても心が温かくなるのだから。
バタン、バタン!
二人でクルマに乗り込みシートベルトを締める。
「じゃあ出発進行ぉ~っ!」
「お、お姉ちゃん……大丈夫?」
「何が?」
「だって、あれから何年も運転してないでしょ?」
「大丈夫だよぉ、もう慣れたし」
サイドブレーキを下しギアをドライブに入れる。
ブォォーン! ガックン!
「おおお、俺やっぱり降りる!」
「ユウ君、そういう冗談はやめて!」
オヤクソクのようにガックンガックンなって、初めてドライブデートに行った日と同じギャグになってしまう。
「お姉ちゃん、それやらないと気が済まないの?」
「わ、わざとじゃないからっ!」
気を取り直して発進する。
その後はスムーズに走り出し、安全運転で二人っきりのドライブだ。二人だけの空間で好きな音楽を流し、大好きな人と一緒にドライブをしているのだと思うと、お互いにドキドキが止まらない。
「ふふっ、最近ユウ君が頑張ってるから、ちょっとご褒美も兼ねて買っちゃったの」
百合華がニコニコしながら話す。
「お姉ちゃん……ありがとう」
「うふふっ、でもでもぉ、ユウ君とラブラブなドライブデートがしたかったのが一番なんだけどね」
「お姉ちゃんらしいね」
仲良く楽しいドライブは続き、右折車線に入り信号で止まった時、助手席の悠が顔を外に向けると、隣の車の女性と目が合った。
「あれっ?」
シュゥゥゥゥ――
隣の車のウインドウが下がる。
運転席の女性は顔見知りだった。一年の時に担任だった女教師。ちょっとショタ好きで危険な雰囲気の女。入学早々酔い潰れて明石家に泊まり暴走した、末摘花子その人だ。
「悠君!」
「ええっ、末摘先生!」
「悠君、ドライブですか……あっ、師匠じゃないですか!」
花子が運転席の百合華に気付く。
「末摘先生」
「し、師匠……悠君とドライブデートですか? も、もしかして、海の見えるホテルで熱く
「し、しません! 変な誤解しないでください」
百合華が誤解だと言うが、だいたい花子の妄想で合っていた。
「しゅ、しゅみません。でも、いいなぁ……姉弟でラブラブドライブデート。私も悠君みたいな弟が欲しいなぁ……」
「あげませんよ!」
「ね、狙ってません、狙ってませんから」
もう毎度の事のように同じセリフになる。ただ、前は推しキャラのショータ君だったのが、今は悠君になっていた。もう完全に悠を狙っているのかもしれない。
信号が変わり花子とはそこで別れた。名残惜しそうに見つめる花子の瞳が怪しい。
「あの先生、いつか生徒に手を出しそうだよね?」
悠が、狙われてるのは自分だと知っているのかいないのか、呑気な感想を言っている。
「ユウ君、狙われてるから! 危ないのはユウ君だから! 逃げてぇ~っ」
「ないない。はははっ」
都会を抜けると風の匂いが変わり青い海が見えてくる。それは、虹のような道をすべり海へと向かう夢のような時間。
見晴らしの良い駐車場へとクルマは入って行く。
「到着っ」
「良い感じの場所だね」
「でしょでしょ」
お姉ちゃん……
俺の為にドライブに連れてきてくれたんだから、感謝しないとな……
「お姉ちゃん、疲れたでしょ。肩揉もうか?」
「えっ、良いの? 嬉しいなっ」
百合華が肩を向けようとしたところで、ふと気づいたように止まる。
「そうだユウ君、後ろの席に行こうよ」
悠が『?』となったまま、一度降りて後ろの席に移動する。
「うんしょ、うんしょ」
シュシュゥ――
百合華がオプションで付けたらしい全席と後席を仕切るカーテンのようなものを閉める。そして、後部シートを倒してフラットスペースを作った。
「じゃあ~ん、これで思いっ切りイチャイチャできるよ」
「ん?」
悠が茫然としているうちに、車内が簡易型エチエチルームへと様変わりしてしまう。後部座席の窓がスモークガラスになっており、前部がカーテンで隠れる事で、内緒でカー
「いやいやいや、ダメだって! スモークガラスって言っても、色が薄くて見えちゃってるよ」
悠が言うように、顔はハッキリとは見えないかもしれないが、中で何をしているのかはバッチリ見られてしまう。
「ちょっと見えてるのが刺激的なんだよぉ」
「ダメだ、このエロ姉手遅れだ……」
「じょ、冗談だって。肩揉んでくれるんでしょ。はい、お願いユウ君っ」
むにゅっ!
百合華が巨乳を突き出す。
「えっと、それ肩じゃなく胸なんだけど……」
「前からでも肩揉めるでしょ?」
「う、うん……」
眼前に迫る二つの丸く美しい膨らみ。少し赤くなった姉の可愛い顔。もう、理性が限界を越えそうなシチュエーションで肩もみをさせられる悠。
もみもみもみ――――
むにょん、むにょん、チュッ! チュッ!
悠が姉の肩を揉む度に、百合華の巨乳がムニムニと当たり、同時についばむようなキスをされる。すぐ横を人が通る駐車場で、とんでもないイチャイチャが始まってしまう。
もはや、悠の理性崩壊が先か、百合華の陥落が先かの勝負のようだ。まんまと姉のエチエチ策略に嵌った悠の、負けられない戦いの火蓋が切られた。
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