第128話 家族会議

 絵美子の言葉に、悠と百合華が固まる。

 ラブラブな雰囲気が出てしまってバレバレだ。元々、そろそろ親に話さなければと思っていた二人なのだが、話す前に雰囲気でバレてしまった。


「お父さん、お母さん、実は――」

「ちょっと待った。俺から話すよ」

「ダメぇ、ユウ君は黙ってて」

「いや、男の俺から」

「もぉ~私が悪いのぉ~」


 自分から言おうとする二人がイチャイチャし出す。


「………………」

「………………」


 どうしてもイチャイチャ感が出てしまい、両親が『何じゃこりゃ』みたいな顔になった。


「やっぱりそうだったのね。お盆に帰った時も変だと思ったのよ」

「え、ええっ、そうだったのか?」


 絵美子の言葉に幹也がオロオロする。絵美子は何となく二人の変化を感じ取っていたようだが、幹也は寝耳に水のように驚いてしまう。



「俺は、お姉ちゃんが好きなんだ」

 悠が堂々と宣言した。


「まって、私から誘ったの」

 かぶせるように百合華が発言する。


「百合華、おまえは悠君の生活や教育を任せられているのに。血は繋がっていないとはいえ姉弟なんだぞ。それに歳の差だって……」

 幹也が困ったような顔をして話す。


「お父さん! 私は本気なの。例え誰が反対しても、ユウ君と結婚しますから!」


「おい、ちょっと冷静になってくれよ。結婚は、そんな簡単にできるものじゃ。学園やご近所でも噂になってしまうだろ」


「噂なんかどうでもいいの! それに、もう学園では噂になってるし」


「は、はあ? おい、ちょっとそれは……」

 百合華の話に、幹也が更に混乱した顔になった。


「お姉ちゃんは、ちょっと黙ってて。俺が話すから」

「でも……」

「いいから」


 このままだと喧嘩になってしまいそうで、悠が百合華を止めた。


 俺が何とかしないと。

 問題になれば、社会人であるお姉ちゃんに不利益が出るのだから。

 好きな女なら守らないと。

 頼りなく守られてばかりじゃダメなんだ。

 そうだ!

 俺は永遠不滅聖騎士王キング・オブ・エターナルになったんだ!

 冗談とか中二病ってだけじゃない!

 本気で百合華を守りたいから!


「お父さん、俺達は本気なんです。母親が再婚して父と姉ができた時、俺は凄く不安だったんです。相手の男性が怖い人だったらどうしようとか。新しい家族に馴染めなかったらどうしようとか。そんな不安で押しつぶされそうな気持だったんです。でも、そんな俺の心を、お姉ちゃんは優しく包んでくれて。とびきりの笑顔をくれて。だから俺は全て許されたような、受け入れてもらえたような気持ちになって、ここに居ても良いんだと思えたんです」


「悠君……」

「悠……」

 両親が悠の話に聞き入っている。


「お姉ちゃんには返しきれないような恩があると思っています。だから、今度は俺がお姉ちゃんを幸せにしたい。今はまだ頼りないかもしれないけど、頑張って必ずお姉ちゃんを幸せにします。きっと世間から色々言われるかもしれません。でも、俺がきっとお姉ちゃんを、百合華ちゃんを守ってみせる。だから、二人の交際を認めてください。お願いします」


 悠は胸の内を全て打ち明けた。

 出会ってからのことを。一緒に過ごした想いを。そして、これからのことを。


「ユウ君……ありがとう」

 百合華が優しい笑顔で見つめる。



 幹也も絵美子も何がを考えるように黙ってしまう。様々な葛藤や考えが渦巻いているのかもしれない。


「あなた、少し考えてみましょう」

「ああ、そうだな……」

 二人で頷き合う。


「悠君、百合華、少し待ってくれ。絵美子と二人で考えてから結論を出すよ」


「うん」

「はい」


 結論は先延ばしで家族会議は終了になった。波乱の年末年始になってしまいそうだ。不幸中の幸いは、百合華のドスケベさや変態さがバレず、議題に上がらなかったことかもしれない。


 ――――――――




 二階に上がった二人は、悠の部屋で寄り添っていた。


「大丈夫かな? 俺の想いは伝えたけど」

「ユウ君って、いざという時は頼りになるよね」


 嬉しそうにニコニコした百合華が、悠の肩に顔を乗せて囁く。


「お姉ちゃんは、いざという時に問題起こしそうだけど」

「ちょっと、それってどういう意味よぉ!」


 ぎゅぅぅぅぅ~っ!

 抱きついたまま絞め込まれる。

 総合格闘技の大会に出場したら、意外と優勝しそうな姉だ。


「まあ、私は反対されてもユウ君と結婚しちゃうけどね」

 暴走姉は誰にも止められない。


「ううっ、この大胆さが羨ましい」

「大胆といえばぁ、いまからしよっか?」

「待て待て待て! 下に親がいるのに」


 昔からそうだった。

 親がいると更に興奮して、こっそり隠れてイチャイチャしたがる姉なのだ。バレないようにキスをしたり。テーブルの下でコチョコチョしたり。親が寝ている深夜に添い寝したがったり。

 そうやってわざと禁断の関係を迫り、羞恥心や背徳感でどんどん追い込んでくるのだから。


「やっぱり、お姉ちゃんと結婚するのやめようかな?」


「ゆゆゆゆゆ、ユウ君! 冗談でもそういうのやめてぇ~泣いちゃいそうだからぁ」

 必死に悠にすがりついてくる。


 外では気高く凛々しく強い女なのに、自分の前ではちょっとポンコツで、ちょっと……いやだいぶ嫉妬深くて、かなりエッチでヘンタイな姉。そんな自分だけに見せる本当の百合華が、たまらなく愛おしく感じてしまう。


「お姉ちゃん……ちゅっ……」

「んあっ……んっ、ちゅっ……」


 悠のリードでキスが始まる。

 前は一方的に攻められていたのに、騎士王になった悠は負けていない。意外と良い戦いをしていた。


「ユウくぅ~ん、もう我慢できないよぉ」

「今日は、おあずけで」

「は?」


 百合華のスイッチを入れてから、おあずけをくらわす悠。ちょっとだけ鬼畜だった。


「下に親がいるからダメだよ。これからのことを話し合っているのに、俺達が上でエッチしてたのがバレたら反対されちゃうかもしれないだろ」


「えええええぇぇ~え! もぉユウ君のイジワル! 後で覚えてなさいよ!」


 悪役のような捨て台詞を残して自室へと戻る百合華だ。最近ちょっと勝っているからと調子に乗っている悠が、のちに最強最悪のオシオキをくらってしまうのは言うまでもない。


 ――――――――




 同じ頃、一階の親の寝室では、夫婦会議が続いていた。


 絵美子が言う。

「何となく、そうなるんじゃないかって思っていたのよ。だって、出会った頃からずっと、凄く仲良しで何処に行くにも一緒だったじゃない」


「そうなのか……ボクは百合華が余り出掛けず、家でゴロゴロしてばかりで心配していたんだ。実母の件や、ボクが仕事のせいにして家のことをほったらかしにしたせいで、百合華が男性不信になってしまったり、心に傷を負ったまま生きて行くようになってしまったのかもと、申し訳ない気持ちでいっぱいで……」


「あなた……」


「でも、再婚して悠君が弟になってからというもの、百合華は見違えるほど笑顔が増えて、表情も柔らかく穏やかになった気がするんだ。それもきっと悠君のおかげなんだと思う。悠君が、百合華の凍った心を解かしてくれたんじゃないかって」


 問題ばかり起こす母親と、仕事ばかりで不在の父親との間で、百合華は寂しい子供時代を過ごし心に傷を負っていたのだと。そして、その心を解かしたのが悠だと思っていた。


「悠君は、真面目だし優しい子だ。彼なら百合華に寄り添ってくれるかもしれない。でも……世間はそうは思ってくれないだろう。きっとふしだらな姉弟だとか、歳の差がどうのだとか。色々噂して陰口を言われるかもしれない」


「あなた、私はこうなるのが決まっていた気がするの。出会うべくして出会った二人なのかもでれないわ。悠も、私が仕事を掛け持ちして、ずっと独りぼっちでいさせてしまって。同じ気持ちの二人だったから惹かれ合ったのかもしれないのよ。無理に引き裂いても、更に傷を広げてしまうかもしれないわ。だって家族なんですもの」


「そうだな…………」


 幹也が深いため息をついた。

 色々な問題や障害が待ち受けている二人だが、このまま見守るという結論になったようだ。


 ――――――――




 翌朝――

 食卓に付いた四人が、黙ったまま座っている。


 不意に、幹也が話し始めた。

「その……昨日の件だけど」


 悠と百合華が真剣な表情で聞き入る。


「悠君、ボクは悠君を本当の子供だと思っているよ。再婚で新しく息子ができるとなって、本心では不安で不安で仕方がなかった。ボクに懐いてくれるだろうかとか、ちゃんと育てられるだろうかとか。でも、悠君はボクが思っているよりしっかりしていて、百合華の心にも寄り添ってくれていたんだ。悠君になら百合華を任せられるかもしれない。だから、ボク達は二人を認めることにしたよ」


 悠も百合華も、一瞬だけ静まり返った後、同時に喜びを爆発させた。


「やった! やったよ、お姉ちゃん」

「やったぁ~っ! ユウ君!」


「ただし!」

 喜び合う二人に、幹也が声をかける。


「ただし、条件がある。正式に結婚が決まるまでは、外で誤解されるような言動は慎むように」


 幹也が条件を付けた。これは妥当な線だろう。結婚するにしろしないにしろ、姉弟のまま外でイチャイチャしていては噂が広がってしまうだろう。時に噂は悪意を持って広められるのだから。


「分かったわ。外で・・はしないわよ」

「うん、俺も気をつける」


「そうか、なら食事にしようか」


 四人が笑顔になり、家族水入らずの朝食が始まるのかと思ったその時、突如として百合華が暴走し始める。


「はい、ユウ君、あーん」

「は? ええっ……」


 突然、百合華のイチャイチャモードが始まり、悠だけでなく幹也も絵美子もフリーズしてしまう。


「もぉ、ユウ君ってば、いつものように口移しの方が良いのぉ?」


 姉の猛攻が止まらない。

 横から抱きつき巨乳を押し当てられる。いつものラブラブモードだが、今は両親が目の前にいるのだ。


「ちょっと、お姉ちゃん……親が……」

「ユウ君、しゅきしゅき~だいしゅきぃ~」


「お、おい……百合華……」

 幹也が青い顔をして話しかける。


「お父さん、外で・・はしてないわよ。家の中ではいっぱいしちゃうけど」


 やはり地上最強の姉は伊達ではなかった。許しが出た途端、家の中では親の前でイチャイチャする気なのだ。


「いや、いくら何でも……」

「あああ……何だか眩暈めまいが……」

 幹也が茫然とし絵美子がクラクラしている。


「はい、ちゅ~っ!」

「あああ! 待って、お姉ちゃん」


 やめてぇ~

 このオシオキが一番キツいんだけどぉぉぉぉ!

 親の前では止めてぇぇぇぇ~っ!


 この日、二人の交際宣言にお墨付きをもらい、代わりに悠の羞恥心の限界を突破し、親との間も少し気まずくなる副作用があった。

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