第120話 何故か英雄になって無双する悠

 意気揚々と教室へと向かう悠。騎士王になったつもりで問題を解決した悠だが、新たな問題が発生したことに気付いていない。

 ただ、本人は心晴々とした気持ちで、家に帰ってから百合華とイチャイチャすることばかり考えていた。



 ガラガラ――

「おはよう」


 ちょっとテンションが高いまま教室へと入った悠を待ち受けていたのは、クラスメイトたちからの質問攻めであった。


「おい、噂は本当なのか!?」

「明石先生とラブラブだって!」

「俺たちのアイドル百合華先生がぁぁ~」

「姉ちゃんのおっぱい吸ってるって本当か?」


「ぐっはぁぁぁぁーっ!」

 悠がズッコケた。


 なななな、何だって!

 何で、もう噂が広がってるんだ?

 そかも、デマも含まれてるぞ。

 何で俺がお姉ちゃんのおっぱいを吸うんだよ!

 まあ……間違ってはいないけど……


 デマなのに当たっていた――――



「え、えっと、何のこと?」


「すげぇ噂になってんぜ。おまえが職員室で大声で言ってたって」


 どうやら職員室付近にいた生徒が聞いて、一気に噂が広がったようだ。

 噂に尾ひれが付いてデマになっているのだろう。


「いくら先生が美人だからって、自分の姉に欲情するとかヤバいだろ」

「いや、俺の聞いた話だと義理姉だったような?」

「ぎ、義理ならエッチし放題かよ!」

「俺は近親〇〇って聞いたけど」

「くっそ! 何だよそりゃ!」


「いや、だから……義理だよ」

 間違った噂を止めようと、義理なのを伝える。


「「「うおぉぉぉぉぉぉ!」」」


 クラスの男子たちが勝手なことを言って盛り上がっている。

 そして女子は口々に噂話をしているようだ。


 何だよ……

 皆、勝手なことばかり……

 デマが多いじゃないか……


 人の色恋沙汰は格好の話のネタなのだ。

 週刊誌やワイドショーでも、話題は芸能人や有名人の熱愛報道や不倫騒動ばかりである。


 しかもそれが、超美人で女王様のように凛々しく気高い百合華の話とあっては、もはや光の速さのように噂は広がってしまうだろう。


 くそっ……

 間違った内容の噂は止めないと。

 どんどん変な噂になるとマズいな。

 何だか誤報でバッシングされる芸能人の気分だぜ。



 その時、クラスの中心的女子であり、ギラギラと鋭い目をしたアイドル的存在の美少女が割って入る。


「あんたたち! 悠がシスコンだなんて、私はずっと前から知ってるわよ」

 悠の前に入った中将貴美が高らかに声を上げた。


「中将さん……」


「悠ったら、いつもお姉さんの話ばかりだし、お姉さんに説教されたとかオシオキされたとか嬉しそうに話してるし」


 庇うつもりなのか貶すつもりなのか分からないが、貴美が話し続けることで皆が注目する。


「男子が羨ましいのは分かるけど、家に血の繋がっていない超かわいい百合華先生がいるって考えてみてよ」


「ううっ、スゲェ破壊力だ……」

「俺、我慢できねぇかも」

「くっそ、最高過ぎる!」


「でしょ、誰だってシスコンになるわよね」


「なるなる」

「そりゃ、なるわ」

「誰も抗えねぇ」


「だから、悠が特別変ってわけじゃないのよ! あんたたちだって、絶対お姉ちゃん大好きになっちゃうのよ! 分かる?」


「分かりました」

「耐えられねえわ」

「あああ……でも羨ましい」


 貴美の話で男子が大人しくなった。

 最初は面白おかしく悠をイジっていたのだが、あの百合華先生が姉なら仕方がないという話に落ち着いたようだ。



「おまえら分かってんのかよ?」

 もう一人、少しヤンチャなイメージのギャルっぽい女子も参戦してきた。


「えっ、夕霧さん……」


 ポンポン――

 悠の肩をポンポンしながら真理亜が話し出す。


「おい、おまえら、もし百合華ちゃんが義理の姉ちゃんだからって、誰でもイチャイチャできると思ってねえだろうな?」


「は?」

「何だよそれ」

「義理の姉弟なら色々……」


「あめぇんだよ! あの氷の女王とか呼ばれて男に塩対応の百合華ちゃんが、例え姉弟になったとして、おまえらにイチャイチャさせてくれると思うか?」


「「「ガァァァァァァーン!!」」」

 現実を突きつけられたモブ男子たちが崩れ落ちた。


「た、確かに……」

「全く想像できねぇ」

「下ネタ言っただけで、すっげぇ睨まれるし」


 そう、百合華が悠以外との接触を許すとは思えない。


「つまり、明石は、おまえらより実力は上ってこった」

 真理亜がズバリ言ってしまう。


「くっ……なんかすげぇ負けた気分だ」

「そういや、明石って何気にモテるような?」

「林間学校でハーレム作ってたしな」


「あの氷の女王をデレさせるってことは、明石はすっげぇアレを持ってんだよ!」


 シィィィィィィーン――――

 真理亜の発言で教室内が静まり返る。


「おい、すっごいアレ・・を持ってんのか?」

「アレってナニ・・だよな」

「ビッグマグ〇ムか?」

「大人しそうな顔して、あっちは凄いのか」


「いや、何だそれ……」

「あ、明石、わりぃ……援護しようとしたけど失敗したかも」

 真理亜が悠に謝る。


「ちょっと夕霧さん!」

「だから、アレ・・ってのは中身って意味で、アソコじゃねーし。いや、アソコも意外とすげえっつーか……」


 真理亜が自爆した。

 修学旅行の大浴場でバッチリ見てしまったのを、ついポロっと話してしまう。


「えっ……夕霧さんって明石君と付き合ってるの?」

「やっぱり……なんかあやしいと思ってたのよね」

「きゃぁ~お姉さんだけでなく、夕霧さんまで堕としちゃってるの」


 女子たちの噂話が更に加速する。


「ちょっと、真理亜! それ内緒でしょ!」

 貴美まで自爆した。


「「「えっ……?」」」

 ガヤガヤガヤ――――


「中将さんも明石君と付き合ってるの?」

「も、もしかして二股? いや三股?」

「それって、3ピーじゃね?」


「ち、違うから! してないから!」

 貴美が真っ赤になって否定する。


「あの、六条さんもってことはないわよね?」

 女子の一人が葵に話を振る。


「ふふんっ! もちろん私も私も知っています。とても大きく逞しく――」


 何を考えているのか進んで自爆するスタイルの葵だ。

 真理亜や貴美と仲間意識が強いのかもしれない。


「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」

 教室内が大パニックだ。


「あの、ちょっと……」

 悠が止めようとするが、走り出した伝説は止めようもない。


 ちょっと待て……

 俺が凄い女たらしにされてないか?

 こんなのが、お姉ちゃんの耳に入ったら……



 貴美たちの援護でシスコンの噂は消えたのだが、逆にクラスのアイドル女子を全員堕としてしまった伝説が広がってしまう。

 それまでの初心うぶ童貞ピュアなイメージから一転、ハーレムマスターのEXスキルを手に入れてしまったかのようだ。


「おい、明石……」

 クラスの陽キャ達やカースト上位グループの運動部エース男子が詰め寄る。


「おまえ凄ぇヤツだったんだな」

「尊敬するぜ!」

「俺たちが何度誘ってもデートすらしてくれない葵ちゃんや貴美を」

「完全に負けたわ」


「えっ、ちがっ……やってないのに……(ぼそっ)」


 えええ…………

 何だこれ。

 陽キャのヤツらから一目置かれるのは良い気分だけど、中将さんたちとの変な噂が広がったら、お姉ちゃんが嫉妬爆発でヤンデレ化しそうなんだけど……


 勝手に噂が盛り上がり、悠はクラスの男子から英雄ヒーロー扱いされてしまう。

 美少女たちを次々と堕としてしまう無双チートキャラのようだ。

 実際は逆で、オシオキされまくっているのだが。



 ガラガラガラ――

「何を騒いでいるの! ホームルームを始めるわよ」


 そこに百合華が入室する。

 先程まで職員室で泣きそうだったのから完全復活し、凄まじい威厳と女王のような威圧感を放っているかのようだ。


「えっと、今、先生の噂で……」

 一人の男子が口にする。


「は?」

 ドドドドドォォォォォォーン!


 百合華が威圧感を強め前に出ると、男子が土下座しそうなほどビビりまくる。


「えっ、いや、噂が……」

「何か私に文句でもあるのかしら?」

「いえ、無いです……」


 さっきまで散々ネタにしていたのに、いざ氷の女王を前にすると何も言えなくなってしまう。


「くだらない噂を広めるのは感心しないわね! 確かに私と悠は血縁関係が無いけど、弟として可愛がっているだけなのよ。そもそも私が男に屈すると思う?」


 余りにも堂々と主張をされ、誰も反論できない。

 実際は悠に屈しまくって堕とされまくっているのに、目の前の女王が男に媚びている映像など想像もできないのだ。

 お尻ペンペンされて陥落したり、アクロバティックな『あーん』をしたり、オシオキと称して変なプレイをしている姿など、とても他人には見せられない。



「だ、だよな……」

「あの百合華先生が堕とされるわけ……」

「でも、後ろは弱そうなイメージが……」


「何か言いましたか!?」


「「「何でもありません」」」


 そこで話は終わるのかと思ったのだが、女子が余計なことを喋ってしまう。


「じゃあ、明石君はお姉さんの代わりに貴美さんたちを」

「もしかして、性のはけ口じゃね?」

「でも、三人同時にって凄いわね」


 ピキピキピキ――――

 百合華の眉がピキピキとなる。


「悠! その話……詳しく聞かせてもらえるかしら?」

「え、ええっ」

「帰ったら拷問……んんっ、説教がありますから!」

「で、ですよね……」


 やっぱり超オシオキをされまくる運命の悠だ。

 この運命の輪からは、絶対に逃れられない。


 話はここで終わるのかと思いきや、実はまだまだ問題が残っているのであり――――


 ――――――――




 昼休み

 悠が学食に行こうとすると、貴美と真理亜に掴まってしまう。


「おい、明石ぃ、ツラ貸せよ」

 ガシッ!

 真理亜に肩に手を回され捕まえられる。


「ええっ、あの」

「ちょっと体育館裏まで来いよ」

「あの、夕霧さん?」


 ヤンチャながらも悠には優しい真理亜が、ちょっとヤンキーっぽくなっている。


「悠! あんたに話があるの。付き合ってもらうわよ!」

「中将さん……」


「ほら明石、痛くはしねぇから安心しろよ」

「私は痛くしちゃうかもしれないけど」


「えええ…………」


 有無を言わせぬ二人の迫力に圧され、体育館裏まで連行される悠。そう、二人には悠にどうしても言わなければならないことがあるのだ。


 それは淡い恋心に決着なのか、はたまた更なる宣戦布告なのか。


 今、悠はドS女子たちに捕まった宇宙人のように連行され、人気ひとけのない体育館裏で色々されちゃいそうな危機的状況に陥っていた。

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