第106話 悪い子の百合華にお尻ペンペン

 女教師明石百合華――――

 美人でスタイルが良く、知性を感じさせる表情に女王然とした雰囲気。まさに完璧美人といった言葉が似合う女性である。


 学園では生徒達の憧れの先生であり、男子生徒の大部分が『あの巨乳に触れたい』などと、叶うはずもない夢を妄想しながら、揉んでいるであろう彼氏の存在を羨んで仕方がない。


 同僚の男性教師も同じで、その見惚れるような美しさと、本能を揺さぶられるような煽情的な肢体と、有無を言わせぬ隷属させられてしまいそうな性格に、全ての富と時間を捧げ奴隷になってでも付き合いたいと願ってしまうほどだ。



 そして、今日も一人。

 退勤間近の職員室で百合華に声をかける無謀な勇者が。


「明石先生、今晩お暇ですか? もしよろしければ食事でもしながら教育論でも語り合いましょう」


「ごめんなさい。暇はありませんの。教育論でしたら、ここで語ってください」


 相変わらずの瞬殺だ。

 昔から百合華は、告白やデートのお誘いには速攻でお断りしていた。

 どんな男が声をかけようと即撃沈。

 噂では、『百合華を堕とせる男は存在しないのでは?』などと囁かれる始末である。


 これが外での百合華であり、『百合華女王』だの『氷の女王』だの『女王陛下』だの『おっぱい元帥』だのと、陰で色々なあだ名で呼ばれていた。

 家の中で悠にだけ見せる、デレデレでドロドロなドスケベ姉の顔とは対照的なくらいに。


 男を魅了してやまない悪魔のような美貌の女。

 どんな男でも堕とせない鉄壁防御の完全無欠女王。

 一目で魅了され虜になってしまう魔性の女教師。

 髪の先から足の裏まで、全てが芸術品のように美しい奇跡の存在。


 枚挙に暇がないほど、彼女を表現する言葉が溢れるくらいだ。


 百合華の言動一つ一つが男達の動揺を誘い、視線を向けられただけで心臓を掴まれたような威圧感を感じ、ズシンと深く疼く催淫により前屈みになってしまう。


 それは、悠との初めてを終えてから更に顕著になる。

 昔から恐るべき美貌と超魅惑的な容姿なのだが、益々色気が増し人間を超越するレベルに達していた。



 仕事を終えた百合華が退勤する。

「お先に失礼します」


「「お疲れ様です」」


 百合華が職員室を出ると、男性教師達が一斉に声を交わし始めた。


「はぁぁ……緊張した」

 百合華を食事に誘った男が溜め息をつく。


「先生、勇者ですね。氷の女王に声をかけるなんて」

「あの明石先生をものにできる男なんて存在するんですかね?」

「石油王とかグローバル企業の資産家とか?」

「あの女王が金で堕とせるとは思えませんよ」

「「確かに……はははっ」」


 百合華の話題で持ち切りだ。

 職場に奇跡のような美女が存在するだけでテンションも上がる。

 だが、奇跡の美女を堕とすことは不可能だろう。

 当の百合華は、もう完全に一人の男のものなのだから。


 ――――――――




「ただいまあ~」

 百合華が帰宅した。


「お姉ちゃん、おかえり」

 すぐに悠が出迎える。


 玄関から上がった百合華がパンプスを脱ぎ捨て寝転がる。


「疲れたぁ~ユウ君、抱っこしてぇ~」

「えええ……」


 駄々っ子のようにゴロゴロして、悠に抱きあげて運んで欲しいと言う。

 外での氷の女王の面影は微塵もなく、ただの甘えん坊ポンコツ姉だ。

 外と家では全く違う、悠にしか見せない顔。


「もう、しょうがないな」


 文句を言いながらも、悠が姉を抱き上げてリビングへと運ぶ。

 内心は、大好きな姉のお世話をしたくて仕方がないのだ。

 一日働いて濃縮された姉の匂いを胸いっぱいに嗅ぎたくてたまらない。

 抱えている時に、つい『くんかくんか』してしまう。


 ガサガサガサ――


 ソファーまで運んで寝かせる。

 短めのタイトスカートから、黒パンストのランガードやダイヤマチ、更にその向こうの下着がチラ見していてエロ過ぎだ。


 タイツフェチの悠に語らせれば、太ももの付け根、股下ギリギリのところにあるランガードが、より脚の脚線美を引き立たせる至高のポイントなのだ。


 本来はパンティ部とレッグ部の間にある補強目的の太い帯状の線である。

 お尻部分が伝線しても、脚まで伝線が広がらない機能だ。

 最近ではランガードが無いオールスルータイプも売られているが、やはり全国のタイツフェチの皆にはランガードがセクシーな元来のタイプが人気だった。


「疲れたぁ~脱がせてぇ」


 そう言って、百合華が黒ストの足を悠に向ける。

 タイツを脱がせろと言っているのだ。


「う、うん…………ごくりっ」


 一日中身に着けて匂い立つような、妖しくグラデーションのように艶めいた黒パンストに、悠の体の奥からゾクゾクとしたものが込み上げてしまう。


 お姉ちゃん……

 相変わらず凄い破壊力だぜ。

 ただでさえ超エロい美脚なのに、黒タイツの魔力で更に攻撃力が。

 ダメだぁ……

 凄い魅力だぜ……


 同僚男性教師や他の男子生徒達が、夢にまで見るほど憧れ、狂おしいほどに求める美脚を、自由に触れるのは自分だけなのだ。

 何ものにも代え難い、唯一無二の特権だった。


 タイツを脱がす為にパンティ部に手を伸ばす。

 タイトスカートの中に手を入れ、タイツ上部を掴まなければならない。

 余りの色気にクラクラしそうになるのを堪えながら。


「あっ、ユウ君、足の臭い嗅いじゃダメだよ」

「か、か、嗅がないから!」

「ホントかなぁ?」


 百合華が、ニマーっとした顔で笑う。

 もうバレバレなのだ。


 悠の視線が何度も脚をチラ見しているのも分かっているし、前にこっそり足を『くんかくんか』したのもバレていた。

 分かっていながら、わざと挑発するようなことをする。

 それがエロ姉だ。


 タイツを脱がそうと百合華に近付いたその時、不意にムチッとした美脚が首に絡まり捕まえられてしまう。


「隙ありっ!」

「うわぁぁぁぁーっ!」


 何度もやられているのに、やっぱり罠に掛かってしまう。

 百合華の両足でガッチリ首をロックされて動けない。

 そのまま夢の空間へ引き寄せられる。


「うっわっ! 当たる! 当たっちゃう!」

「もぉ、ユウ君ってばそればっかり。当ててるんだよ」

「何だこの変態姉!」

「うりうりぃ~」



 悪乗りするイタズラ姉の猛攻を凌ぎながら、何とかタイツを脱がせるのに成功。

 これだけ暴れていたのに伝線させずに脱がすのは、さすがタイツフェチの悠だ。

 まあ、フェチになったのは全部姉のせいなのだが。


「はあはあ……疲れてるとか言ってたのに元気じゃん」

「疲れてるのぉ~」


 生足になったまま手足をジタバタして目のやり場に困る。


「今日も同僚から食事に誘われて困ってるんだから。胸やお尻をジロジロ見られるし。セクハラよ、セクハラ」


 いつもの事だが、常に男性の視線を集め、無謀な勇者がナンパするのだ。

 百合華に全くその気がないので迷惑なだけである。


「えっ、誰? だ、大丈夫だよね?」

 男のお誘いと聞いて、悠が慌てだす。


「んふふぅ~ユウ君、気になるんだ?」

「だって、大事なお姉ちゃんが……」

「でも、たまには食事くらい行っちゃおうかな?」


 そんな気は全くないのに、悠にヤキモチ焼かせようとする百合華。


「ダメダメダメダメダメぇぇぇぇーっ!」


 完全に百合華の策略に嵌る悠。

 姉が他の男と出掛けるなんて許せるはずもない。


「そそ、そんな食事なんかに行ったら、絶対酒とか飲ませて『ちょっと休んで行こう』とかなるに決まってるんだから。ご休憩禁止! ぜぇぇぇぇ~ったいダメぇぇぇぇ!」


 百合華の腰にギュウギュウすがりつく。

 本人は気付いていないが、血は繋がっていないのに似た者姉弟だけあって、言っていることが姉と全く同じだ。

 嫉妬で異性と遊びに行くのを禁止してしまう。

 そっくりである。


「じゃあ、ユウ君が私にご奉仕するしかないよね」

「う、うん……」

「先ずはぁ、おかえりのエッチでしょ」

「は?」


 さすがに悠も、姉の強引な手法に疑問を持ち始める。


「ユウ君、お姉ちゃんの言うコト、ちゃんと聞くんだよ。朝起きたら『おはようのエッチ』でしょ、帰宅したら『おかえりのエッチ』、それから『夕食後のエッチ』、『お風呂でエッチ』、ベッドで『じっくりたっぷりエッチ』と『激しく変態的なエッチ』の二回でしょ、それから寝る前に『おやすみのエッチ』の一日七回は必要なんだよ」


「…………」


「更に休みの日は、午前中に『休憩エッチ』と、昼食後に『お昼のエッチ』、三時には『おやつのエッチ』が追加されて、計十回ね。これはノルマだから必要なんだよ。だからユウ君も――って、あれ?」


 途中で悠がジト目で見ているのに気付くエロ姉。

 さすがに一日十回エッチは欲張り過ぎだ。


「あれ? ユウ君……どうしたの?」

「お姉ちゃん……」

「や、やだなぁ、そんな顔しないでよぉ」

「ドスケベ百合華」

「もぉ~呼び捨て禁止ぃ~」


 急にキョドリ初めてヘナヘナになる百合華。

 さすがに素直で騙されやすい悠も、そう何度も騙されていては気付くというものだ。


「お姉ちゃん!」

「は、はい!」


 悠の口調に、百合華が急にソファーの上で正座をする。


「前から言おうと思ってたんだけど」

「な、なによぉ……」

「お姉ちゃんはドスケベ過ぎ!」

「ええぇ~」

「いくら何でも一日十回とかダメ!」

「でもでもぉ~」


 両手の人差し指を前でツンツンさせて口を尖らせる。

 プク顔の百合華が、ちょっと可愛い。


「でもでもぉ~とか可愛く言ってもダメ! やり過ぎは体に良くないし、そんなにやってたらバカになっちゃうから。お姉ちゃんみたいに」


 さり気なく姉をディスる悠。


「バカじゃないもん」

「ダメったらダメ! 反省!」

「ふぇぇ~ん」


 歳の離れた弟に説教される百合華。

 学園で見せていた女王然とした迫力は微塵もない。


 皆の憧れである氷の女王も、悠の前ではエロくておバカな彼女だった。

 学園の皆がこの光景を見たら、ショックと嫉妬でぶっ倒れてしまうこと間違いなしだ。


「今日はお姉ちゃんにキツいオシオキをします!」

「えっ、ええっ、ダメぇ~っ! な、何されちゃうのかな?」


 キツいオシオキと聞いて、嫌そうな態度をしながらも、内心エッチなのを期待しまくりだ。


 悠がタオルを手に取り、百合華の両手首を縛ってしまう。

 そのままソファーに転がし、尻を高く上げさせる。


「悪い子の百合華には、お尻ペンペンの刑だから」

「えぇぇ~っ、またそれぇ~」


 ペチン、ペチン、ペチン、ペチン、ペチン――


「んんんっ~~~~っあああっ~ん♡」


 悠の手が百合華の尻にヒットする。

 ちょっと弱くておバカっぽい攻撃なのに、姉にだけに有効な悠のスキルにより、全てがクリティカル攻撃となる。

 ペチンペチンの一発一発が、どんどん百合華を追い込んでしまうのだ。


 ペチン、ペチン、ペチン、ペチン、ペチン――


「だぁめぇぇぇぇ~っ! 姉の威厳がぁぁぁぁ~っ!」


 年上で教師でいい歳なのに、屈辱的過ぎておかしくなりそうになる。

 くせになりそうな弟のクリティカルお尻ペンペンと、羞恥心と背徳感と禁忌的な何かで、完全に堕ちまくってジタバタする女王。


 誰も堕とすことは不可能と話していた同僚教師達を尻目に見るように、初心うぶな感じの弟に堕とされまくる完全無欠の女王だった。


 因みに、この後すぐ復活した百合華に、悠が超キッツいオシオキをされたのは言うまでもない。

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