第102話 オシャレなユウ君と、おっぱいサンドイッチ

 日曜日――――


 悠は髪を切りに、貴美と街へ出掛けていた。

 案の定、一緒に美容院に行く事になる。あの娘が断ったくらいで止まるはずがないのだから。


 嫉妬姉になった百合華にムッチリお尻でオシオキされまくって、やっと許可が下りたのだった。

 ただオシオキしたいだけのような気もするのだが、髪も伸びていたので丁度良い機会なのかもしれない。



 悠は、ここ最近続いたお尻置きオシオキを思い出していた。


 うぅぅ~っ……

 最近のオシオキが過激な気がする……

 といっても前から過激なんだけど……

 あの手この手で色々なオシオキを思いつく姉が恐ろしいぜ……


 悠がお尻フェチなのを見越したうえで、美尻で上に乗ろうとする百合華だった。

 昔から、ブルマ尻、ホットパンツ尻、水着尻、下着尻、スーツ尻と、様々なコスチュームで攻めてくる上に、普段着でもコスプレ姿でも、何故か頻繁に悠の背中やお腹や顔に乗りたがるのだ。


 他人にマウントされるのはムカつくものだが、姉にマウントポジションとられるのは最高かもしれない。



 難しい顔で姉のオシオキの破壊力を考えている悠に、横を歩く貴美が声をかけた。


「ふふっ、なに難しい顔してるのよ」

「えっ、べ、べつに……」

「もしかして、髪切られるの怖いとか?」

「俺は子供か!」


 ニヤニヤと楽しそうな顔した貴美にからかわれてしまう。


「いや、オシャレな美容室とかヘアサロンとか慣れてないんだよ。オシャレな服屋で店員さんがピッタリ付いて接客されるのと同じくらい緊張するだろ」


「なによそれ? 悠らしいわね」

 貴美がやれやれといった顔をする。


「中将さんは絶対緊張しなさそうだけど」

「ちょっと! それケンカ売ってんの?」

「い、いや、そういうわけでは」


 いつものようにふざけながら店へと向かう。

 一人では絶対行かないであろうオシャレな美容院へ。




「ここよ」

 貴美が指をさす。


 ガラス張りの店内は、白を基調とした空間に緑の観葉植物が映え、オシャレ美容師さんと陽キャっぽい客がいるのが見える。

 いかにも想像していた通りのオシャレヘアサロンで、やっぱり入るのに尻ごみしそうだ。


「よし、帰ろう」


 ガシッ!

「逃がさないわよ」


 回れ右して逃げようとした悠を、貴美がガッシリと掴んで放さない。


「ううっ、まるで逃げ惑う羊を無理やり毛刈りされるみたいだぜ」

「文句言ってないで入るわよ!」


 カップルのように二人並んで店内へ入る。



「いらしゃいませーっ」

「あ、予約してある中将です」

「お待ちしておりましたーっ」


 淀みなく一連の無駄のない動作で席に座らされる。

 茶髪でセクシーな感じの女性美容師が担当に付いた。


「今日は、どういたしましょうか?」

「え、えっと……」


 悠が戸惑う。

 まるで、オシャレさんに人気のコーヒーチェーン店で注文する時のようだ。


「最近の流行りのカットでお願いします。カラーも少し明るめに」

 悠が戸惑っていると、横の席の貴美が勝手にオーダーしてしまった。


「ではショートレイヤーソフトツーブロックでどうでしょう? カラーはグレイアッシュで。アップバングにすれば清潔感や精悍さも出ますよ」


「じゃあ、それでいいわ。お願いします。あっ、校則があるからカラーは控え目で」


「かしこまりました」



「え? えっ?」

 悠が戸惑っているうちに、どんどん勝手に進んでしまう。


 ショートソード?

 グレートアッパーBANG?

 何かのスキルか?

 それとも魔法かな?


 聞きなれない言葉ばかりで意味が分からない。

 とりあえずスキルや魔法で強化されるようだ。


 途中、シャンプーの時にセクシー美容師さんのおっぱいが顔に当たるアクシデント付きだ。

 何もないはずの日常でも、女性にシゴかれたりエッチな目に遭遇するのが悠らしい。


 ぽよん、ぽよん――


 うわっぷ、おっぱいが……

 ぐっ、偶然だよな……

 くっそ、お姉ちゃん以外のおっぱいで興奮したりしないせ!

 耐えろ! 耐えるんだ!


 そして――――



「ぷっ……あはっ、ゆ、悠……似合ってるじゃない」

「何で笑ってるの?」


 貴美が笑いを堪えられない。

 初心うぶでピュアでオタクっぽいイメージから、カラーも明るめになって一見オシャレ人間みたいにイメチェンだ。


「ふっ、ふふっ、良かったわね。似合ってるわよ」

「だから、何で笑うの?」

「べつに笑ってないわよ。ぷっ、あはは、ダメぇ」

「笑ってるじゃん……」



 コントみたいな二人に、店員が声をかけた。

「カップルで一緒に美容院とか仲が良いんですね」


「いえ、カップルでは――ぐえっ!」

 悠が喋り終わる前に貴美の肘が脇腹に入った。


「ありがとうございます。ほら、悠、行くわよ」



 慣れない髪型で街を歩くと、ちょっと気恥ずかしい感じだ。


 ううっ……

 髪型だけ陽キャっぽくなったような?

 これ、似合ってるのか?

 中将さんが笑ってるしな。

 でも、この髪型……

 アニメ版『閃光のグレイハウンド』のタナトス・グレイハウンドに似ている気がするから、まあ良いかな……


 アニメの主人公に似ている気がするので良しとした。


「ふふっ、まあ冗談はさておき、それ結構似合ってるわよ」

 終始笑顔の貴美が言った。


「本当? さっきまで笑ってたのに」

「本当本当、ふっ、あははっ……」

「やっぱり笑ってるじゃん!」

「ごめんごめん、ホントに似合ってるって」


 やっぱり笑われてしまう。


「いつものイメージと違うから、つい笑っちゃうのよ。でも、良いと思うわよ」


 貴美が髪を指先でクルクルしながら言う。

 何か意識しているような感じだ。


「…………」

「…………」


「ちょっと! 私も髪切ったのに、何か言うことないの!?」

「ええっ……」


 女子が髪を切ったのだから何か言えと主張しているようだ。


「もうっ、気が利かないわね。女子の髪型は褒めるもんでしょ」

「だって……中将さんの髪は普段から綺麗だから、特に今更褒めることも無いし」

「えっ、そ、そう……ありがと」


 怒っているのか喜んでいるのか、よく分からない表情になる貴美。


 げしっ、げしっ!

 照れ隠しなのか、貴美が脇腹に肘打ちする。


「痛いって」

「何かムカつく」

「ええぇ……」

「まったく! 悠って、それ無意識にやってるのよね。誤解しちゃうじゃない」


 悠は素直な気持ちを喋っているだけなのだが、一部の女子には響いてしまうのか、毎回怖そうな女達に狙われてしまうのだ。


「ほら、ワック行くわよ」

「中将さん、ワック好きだね」

「早く来なさい」

「はいはい」


 その日は久しぶりに二人でワックに入り、中学の頃の懐かしい話をした。


 ――――――――




 ガチャ!


「ただいまー」

 悠が玄関を開けて家に入った。


 玄関に見知らぬ靴がある。


「あれ? もしかして……」

 家に遊びに来る女性といえば彼女だろうかと悠は思う。



「お姉ちゃん、ただいま」

 話し声のするリビングに入った。


「あっ、ユウ君おかえり…………」

 百合華が悠の頭を見て、会話の途中で固まってしまう。


「ああああぁぁぁぁ~っ! 弟君久しぶりぃ! てか、ちょっと見ない間に色気付いちゃってるじゃん! なに、このオシャレなヘアスタイル? へぇ~ふぅ~ん、相変わらず可愛いよね」


 百合華と一緒にいた友人――

 柏木マキが一気に距離を詰め、百合華が固まっているのをいいことにベタベタ触りまくる。


「えっ、あの、柏木さん……」


 ベタベタベタベタ――

「ねえねえ、こんどお姉さんと遊ばない? イイコトしてあげよっか? イイコトってもちろん気持ちい……ぃぃぃ痛い痛い痛い!」


 ぎゅぅぅぅ~っ!

 マキが悠を誘惑しまくっていると、復活した百合華にチョークスリーパーをされる。


「ギブっ! ギブギブっ! 百合華、それマジに入ってる」

「マキぃ~前にも言ったでしょ。ユウ君はぁ……」

「冗談だって、取ったりしないから」


 相変わらずの二人だ。

 昔と比べて百合華のプロレス技に磨きがかかり、攻撃力は飛躍的に上がっていた。


「まったく、百合華のブラコンが悪化してない?」

 解放されて首を擦りながらマキが呟く。


「ブラコンじゃないし」

「いや、超ブラコンだって」


 誰が見てもブラコンだった。


「てか、そんなんで一つ屋根の下、寝食を共にしてムラムラしちゃわないの? 義理の姉弟なんだから」


 マキは親の再婚以前からの友人なので、二人が血が繋がっていないのを知っていた。


「ししし、しないから!」

「あっれぇ~あっやしぃ~」

「怪しくないし!」


「私だったら速攻で食べちゃってるけどな。義理の姉弟の禁断で背徳的な情事……ちょー興奮するかも」


 マキがエロい顔になって妄想している。

 赤い舌をペロッと出して、くちびるを舐め回す仕草がガチな感じだ。


「ま、マキ! それアウトだからっ! ポリスメン案件だよ」

 また百合華がポリスメンを出す。


「お、お姉ちゃん、ポリスメンはやめてくれ」

 悠がツッコむが誰も聞いちゃいない。


「義理の姉弟で愛し合うんだからセーフっしょ。姉を慕ってくる幼い弟に手取り足取り……エロテクを仕込みまくって私色に染め上げて……私好みの男子に育て上げるの……そう! 逆光源氏計画よ!」


 マキの主張に百合華が手を額に押し当てる。

 ここにも同じ趣向の女がいた。

 おねショタ好き女性多過ぎ問題だ。


「マキ……それ、自分の生徒にやっちゃダメよ」

「やるわけないでしょ。懲戒免職もんだよ」


 マキは別の学校で教師をしていた。

 悠も百合華も、『この先生、本当に生徒に手を出しそうで怖い』と思った。


「な、何よ? 生徒には手を出さないって。私は合法的に年下男子と遊びたいの」

 合法とは何ぞやといった感じにマキが主張する。


「ねえ、弟君からどんどんエッチしちゃって良いよ。百合華っては、ホントはムッツリドスケベなくせして、高校でも大学でも一切男子と関わろうとしないのよね。ちょっと変わってるとか堅物とか色々あるけど、本当は超ブラコンなのが原因じゃないのかな? 弟君がエッチしちゃえば解決だと思うの」


 さすが長年の付き合いだけあって図星だった。


「そ、それは……」

「良いって良いって。私だったら再婚で姉弟になった初日に手を出してるかな」


 ※マキ完全アウトです。


「お互い好きなら早くエッチしちゃいなって。私は応援してるから。あと、私とも百合華に内緒でNTRエッチしよ!?」


「マぁぁぁキぃぃぃ~っ!」


「ちょっと待って、百合華って弟君のことになると冗談通じないんだから」


 ガバッ!

「ユウ君ゲットだぜっ!」


 突然、マキが悠を抱きしめた。


「こらぁぁぁぁ~っ!!」


 ぎゅぅぅぅぅぅぅ~っ!


 マキの胸に抱きしめられたまま、反対側から百合華が飛び掛かり、マキのおっぱいと百合華の巨乳にサンドイッチされてしまう。

 正におっぱい天国だ。


「うっわっ、わぷっ……お、おっぱいが!」


 おっぱいとおっぱいの狭間で溺れそうだ。

 マキの策略で、百合華を挑発しながら自分も年下男子とイチャイチャする作戦なのだろう。

 今日は、美容院でも顔におっぱいを押し当てられ、家に帰れば姉と姉の友人のおっぱいに挟まれる日だった。


「ああぁん、年下男子食べたぁ~い」

「マキぃ~!!!!」


 ぎゅぎゅっぎゅぅぅぅ~っ!

「はぁぁぁ~酒池肉林かぁ~」


 女体に挟まれ限界突破しそうな悠。

 天国のような状況なのだが、ここで喜んでいたら姉のオシオキが怖い。

 そして、後で『そんなオシャレな髪型にしたら学園で女子にモテちゃうでしょ!』と理不尽な説教とオシオキを受けることになるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る