第99話 つい本音が漏れてしまうヤバいお姉ちゃん……そしてイブの告白

「ユウ君、抱っこしてぇ」


 甘えん坊になった姉が抱っこを要求する。

 ちょっと見ない間に姉から妹にジョブチェンジしたのだろうか?


「はいはい、体を冷やさないようにね」


 重ね着させて温かくさせから抱きしめる。

 熱は下がっているようだが、無理をしてぶり返したら大変だ。


「じゃあケーキ持ってくるね」

「私も行くぅ~」

「でも……」

「ユウ君と離れたくないのぉ」


 少々駄々っ子にもなっている。


「分かったよ。じゃあ、リビングに行こう」

「うん、えへへ~ユウくぅ~ん」




 暖房を入れて部屋を暖かくし、百合華をソファーに座らせる。

 冷凍庫に入れておいたアイスケーキを取り出して百合華の前に置いた。


「じゃじゃ~ん」


 バニラビーンズが香るアイスの上に、色とりどりのフレーバーの小さな丸いアイスが乗り、雪に見立てたホイップと甘酸っぱいラズベリー、そしてサンタやモミの木の飾りが乗っている。


「可愛い」

「でしょ、お姉ちゃんが好きそうだと思って。これなら風邪の時も食べやすいから」


 百合華の目から涙が溢れそうになる。


「うっ、ううっ……ユウ君……ありがとう……私は悪い姉なのに……ユウ君は、こんなにも私を大切にしてくれて……」


「お姉ちゃんは何も悪くないよ。優しくて可愛くて自慢のお姉ちゃんだよ」

 悠が本心から打ち明ける。


「違うの……ユウ君は真剣に将来のこととか周囲のことを考えているのに、私は毎日エッチなことばかりで……もう事案発生でポリスメン案件になっちゃいそうだよ」


「そ、そんなことないから。俺は、お姉ちゃんのおかげで幸せだよ。俺だってエッチだし。あとポリスメンは黒歴史だから、そろそろ忘れてくれ……」


 いい加減ポリスメンを忘れて欲しいところだ。子供の頃というのは、変な言葉を得意気に何度も使ってしまうものだから。


「だって……私って、ワガママだし、嫉妬深いし、ユウ君に迷惑ばかり掛けてるし……」


 今日の百合華は少しマイナス思考だ。風邪で弱っているからかもしれない。


「いいよ。それもお姉ちゃんだし」

「ホント? 悪いお姉ちゃんでも良いの?」

「うん」


 百合華の顔がパアッと明るくなる。


「えへへぇ~ユウ君、アイス食べたい」

「はいはい」

「もっとギュッてして、食べさせて」

「はいはい」


 百合華が、ますます強くしがみ付いてくる。

 悠の膝の上に乗って両手を首に回す。

 そのままスリスリして甘ててきた。


 寝込んだ影響で少し乱れているが、長く綺麗な髪がサラサラと流れて心地良い。

 膝の上にムチッとしたお尻の感触が、上半身には柔らかなおっぱいの弾力が、それぞれ乳尻衝撃ダブルインパクトで押し寄せてくる。


「ううっ……凄い柔らけぇ~」


 ぐりぐりぐりぐり――――

 ムッチリとして丸い百合華の尻が、ぐりぐりと悠の下半身を刺激し続ける。


 うっ――

 や、やばっ……

 断続的にムチムチの尻で刺激されて危険な状況だ。

 でも、お姉ちゃんの体調が悪いのに変な気持ちになっちゃダメだ。


「もうっ、ユウ君のエッチ……」

「ば、バレてる……」


 わんぱくなあそこはバレバレだった。


「早くぅ、食べさせてぇ」

「はいはい」


 スプーンでラズベリーが乗ったアイスをすくう。

 ちょうど室温で柔らかくなって食べ頃だ。


「はい、あーん」

「あ~ん、ぱくっ……」

「どう?」

「おいしぃ~っ、ユウ君ありがと」


 子供みたいに喜んでアイスを食べる姉。

 見た目はセクシーなお姉さんなのに、中身は幼い子供のようだ。


「ほらぁ、ナデナデもしてぇ~」

「お、おう……」


 なでなでなでなで――――


 悠は器用に、右手でアイスを食べさせながら、左手で姉の頭をナデナデする。



「ねえ、ユウ君……」

「なに?」

「ユウ君が女の子と会話するの禁止しようかな?」

「は?」

「だってだってぇ、ユウ君を狙ってる女が多過ぎなんだもん」

「ね、狙ってないから!」


「そうだ、ユウ君を部屋に監禁してぇ、手錠で繋いで一生私が可愛がるってどうかな? エッチは一日五回で」


「だだだ、ダメに決まってるでしょ! ヤンデレかっ!」


 急にヤンデレヒロインのような発言をする百合華。しかも、エッチのノルマが増えている。

 風邪でおかしくなっているだけだと信じたいが、もしかしたら本音が漏れているのかもしれない。エッチなゲームのバッドエンドルートみたいで恐ろし過ぎる。



「ユウ君……ユウ君が私を抱いてくれないのなら……私……何しちゃうか分からないかもよ……」


 ゾクゾクゾク!

 一瞬だけハイライトが消えたような目をして百合華が囁いた。


「も、もう、お姉ちゃんってば、冗談はそのくらいにしてよ」


 じょじょじょ、冗談だよな……

 一瞬だけ目が本気っぽかったけど。

 まさかな……


「ふふふっ、言ったでしょ。悪いお姉ちゃんだって。ユウ君が、それでも良いって言ったんだよ。もう取り消せないよ。私……ユウ君を手に入れる為なら、どんなことでもしちゃうから」


「あ、あれ? もしかして……俺、選択肢間違えた?」

 悠が美少女ゲームみたいなことを言った。


「ユウ君、どれを選択しても、ゴールは一つだけだよ」



 そう、もはや悠は覚悟を決めるしかないのだ。

 出会った時から運命は決まっていた。


 愛に飢えた百合華が、どこまでも手に入れたくても手が届かず、どこまでも追い求めても辿り着かず、どこまでも夢想した身を焦がすような恋愛だった。

 あの日、あの時、百合華の心に恋愛超振動弾頭スーパーバイブレーティングラヴボンバーが命中したのだから。


 もはや地上最強の姉は、悠と永遠に一つになるまで進撃は止まらないのだ。


「ほらぁ、手が止まってるよ。ギュッてして、ナデナデも」

「は、ははっ、お姉ちゃん……穏便に頼むよ」



 ますます愛が重くなった百合華に、ちょっと怖がっている悠。

 しかし、悠は思った――――


 やっぱりお姉ちゃんって……

 あの、問題の多い実の母親のせいで、寂しがり屋になったり甘えん坊になってるのかな?

 だったら……

 俺が癒してあげたい!

 俺が受け止めてあげたい!

 俺が、『もう俺がずっと一緒だから大丈夫だよ』って安心させてあげたい!

 大好きだから!


「お姉ちゃん……いや、百合華ちゃん! 大好きだ! 俺が一生守ってやるから。もう安心していいから。ずっと一緒だから」


 真っ直ぐ百合華の目を見て、悠は真心で告白した。


 ぎゅうぅぅぅぅ~

「ユウ君! 私も大好き! 大好きだよ、ユウ君! ずっと一緒にいてね」


 強く抱き合った。

 カラダとカラダの境界線が無くなるくらいに。


「う、んんっ、うえぇ~ん……キスしたいのに、ユウ君に風邪うつしちゃいそうでできないよぉ」


「た、たぶん、もう治ったみたいだから大丈夫だよ」


 そっと、くちびるを重ねる。

 まだ病み上がりの姉を労わるように。

 優しく優しく――――


 二人だけのリビングで、聖なる夜の誓いのキスを。

 やがて時計は午前零時を回っていた。



 姉を部屋に運んでベッドに寝かす。

 布団を首まで掛けて暖かくする。


「私が眠るまで、ずっと手を握っていて」

「うん」

「えへへっ、ありがと……ユウ君……」


 目を閉じると、安心した顔の百合華が静かな寝息とたてはじめた。

 きっと幸せな夢を見るのだろう。


 ――――――――




 カーテン越しに窓からの柔らかな日差しに百合華が目を覚ました。


「んんっ、んあぁ~っ!」

 上半身を起こし伸びをする。


「ふぅ、完全回復かな?」


 クリスマスイブに風邪をひいてしまう災難なのだが、ちょうど土日で仕事が休みだったのは不幸中の幸いだ。

 今日一日ゆっくりすれば、明日は何の問題も無いだろう。


「…………ん? えっと……」


 百合華の脳裏に昨日の記憶が鮮明に甦る。


「え? ええっ? えええええっ!」


 風邪で少し朦朧もうろうとしていたからなのか、夢で子供の頃を思い出したからなのか、悠の前で赤ちゃんみたいに甘えん坊になったり、座薬を入れてとか見せてあげるとかアブノーマル発言したり、悠を監禁したいだのと本心を喋ってしまったことを思い出す。


「うっ、うわぁぁぁぁ~っ! ど、どうしよう……問題発言連発かも」

 恥ずかしさの余り両手で顔を覆う。


「でもでもぉ、ユウ君、大好きだって言ってくれたし。一生守ってくれるって。ずっと一緒だって。う、ううっ、うわあああぁぁ~ひゃっほ~い! ヘヘイヘイッ!」


 百合華がヘンテコな掛け声で踊りだす。

 ちょっとおバカ過ぎて弟には見せられない。


「本音がバレちゃっても告白してくれるってコトはぁ、監禁プレイもOKなんだよねっ!」


 ※アウトです。


「そうだ、ユウ君とイチャイチャしよっ」



 監禁プレイや拘束プレイに背徳的な欲望を持つ百合華が、さっそく弟の部屋へと向かう。

 イブの告白で、より愛が深まって無敵感が凄い。



 コンコン!

「ユウ君、監禁……じゃなかった、イチャイチャしよっ!」


 ガチャ!


「ゲホゲホ……」

「あれ? ユウ君……」


 気怠そうな表情で咳をする悠。


「お姉ちゃん……風邪うつったみたい」

「えええ…………」


 ――――――――




 今度は立場が逆転して看護される悠。

 自分の風邪をうつしてしまった百合華はヘコんでしまった。


「ごめんね……ユウ君……」

「お姉ちゃんのせいじゃないよ」

「でも、キス……しちゃったし」


 キス以前に、抱っこしたりハグしたりイチャイチャしまくりだ。

 そりゃ、風邪もうつるというものだろう。


「そうだ、ゆ、ユウ君も甘えん坊になって良いよ」

「いい、恥ずかしいし」

「は、恥ずかしくないよぉ~昨日のお姉ちゃんって恥ずかしかったの?」

「えっと……」


 返答に困ったのが認めたようなものだ。


「ユウ君、ヒドいよぉ」

「でも、可愛かったし」

「もぉ~」


 甘えん坊な顔も拗ねている顔も、どっちも可愛かった。


「そうだ、ユウ君。お姉ちゃんがユウ君に座薬入れてあげようか? ぐりぐりって奥まで。ふへへぇ~」


 ニマニマとエッチな顔で覗き込んでくるドスケベ姉。


「ダメに決まってるだろ! 変態か!?」

「変態で~す」

「うっ、遂に認めやがった……」

「ふふっ」


 看護する方もされる方も、ムラムラウズウズしている二人。

 より相思相愛が強くなり、この先いったいどうなってしまうのだろうか。

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