第85話 何だかんだあっても仲良しな二人

 乱れまくっていた浴衣や髪を整え、凛とした高貴な雰囲気の百合華が復活し、二人並んで仲良く朝食の時間になった。

 朝食も昨日と同じ中居が担当し、座卓の上に色々な料理が並べられてゆく。


 焼き魚、だし巻き卵、あさりの佃煮、筑前煮、味噌汁、ご飯は栗が入ったおこわになっていた。

 普段は派手目な洋食に慣れ地味な和食だと思っていたのに、実際に目の前に並ぶと香りも彩りも素晴らしく、早く食べたくてお腹がなりそうだ。

 世界の果ての島国で長い年月をかけて受け継がれ、素材の良さや出汁だしの効能を活かした優しい味合いの良さを再確認出来る。



 ふと悠が、夜に姉がドッキリで仕掛けた変態プレイを思い出す。


「あの、中居さんは夜も働いているのですか?」

 それとなく聞いてみる。


「いえ、夜は帰宅していますが」

「で、ですよね……」

「はい、たすき掛け勤務といって、お昼休憩が夕方までと長い代わりに、朝早くて夜も遅いんです。でもちゃんと帰って寝てますよ」


 中居の話を聞いた悠が姉をジッと見る。

 百合華は視線を逸らし誤魔化そうとしているようだ。

 これには悠も心の中でツッコまざるを得ない。


 もうっ、やっぱり嘘だった……

 中居さんも夜は帰ってるじゃん。

 お姉ちゃん……

 知っていて電話掛けたフリして俺にイタズラしたんだな。


「じぃぃぃぃ~っ……」

「も、もぉ、ユウ君ってば、あれはオシオキされてチャラになったでしょ」


 百合華の言葉に中居の顔がにやけた。

「ふふっ、夜はお楽しみだったようですね」


 待ってましたとばかりに、百合華が得意げに話し出す。


「そうなんですよ。この子ったら夜はまるで別人で、すっごく激しいです。もう、何度も何度も求められて……」


「もうやめてぇ……」

 悠が両手で顔を隠す。


 余計な事をツッコんで、やっぱり悠が恥ずかしい目に遭ってしまった。

 まだ童貞なのに、やりまくりみたいな印象になってしまう。

 悠のエッチな攻撃にはよわよわなくせに、それ以外にはやたら強かった。


 何やら想像してニヤニヤと笑みが隠せなくなった中居が部屋から出ると、二人が言い合いしているようでいてイチャイチャベタベタし始める。


「もう、百合華ちゃん。恥ずかしいからやめてって言ってるのに」

「きゃぁ~ユウ君が激しいよぉ~」

「くっそ、ドスケベ百合華」

「ちょっと、呼び捨て禁止ぃ~」

「ドスケベはドスケベだし」

「もぉ~悪い子のユウ君は、こうしちゃうから」


 ぎゅうぎゅうと百合華に抱きしめられる。

 ケンカしているようでイチャイチャしたいだけのようだ。


「ご飯が冷めちゃうだろ。先に食べるよ」

「ユウ君、あ~ん」

「またかっ!」


 百合華が悠の『あーん』を期待して口を開けて待つ。

 悠が美味しそうなだし巻き卵を箸でつかむと、百合華の口の方に持って行き、途中で方向転換して自分の口に入れる。


「うん、美味い」

「ちょっとユウ君!」

「次は筑前煮を食べてみよう」

「もぉ~ユウ君のイジワルぅ~」


 朝っぱらから熱々の二人だった。


 ――――――――




 熱く激しく変態で長いようで短い旅館での一泊も終わり、二人で並んで部屋を出る。


 ガチャ――――

 丁度部屋を出たところで、隣の部屋の不倫カップルと同時になり顔を合わせてしまう。

 五十代くらいの中年男性と四十前後くらいの女性のカップルだ。

 見た感じ、会社の上司と部下のようなイメージがする。


 不倫カップルは、悠達をチラチラ見て話し始めた。


「あら、お隣さん、若いカップルですこと」

「こりゃ、夜はエッチしまくりだな。これだから最近の若いもんは」

「ほんと、少しは分けてもらいたいわ」

「ワシもまだまだ若いもんには負けんだろ。ぐははっ!」

「まあ、部長ったら。聞こえますよ」


 全部聞こえてるよ!

 エッチしまくりはどっちだよ!


 悠が心の中でツッコんだ。

 エッチなのはお互い様なのだが。


「でも、あの若い男の子、何か良いわね?」

「んん~ん、おまえ、ああいうのが良いのか?」

「何か息子の友達に寝取られている感じで興奮するかも?」

「ぐははっ、今度は若い男と寝取られ3〇だな」


 乱れてる!

 この世界の倫理は乱れてるよ!


 悠が世の倫理の乱れを嘆いた。

 NTRはエッチな漫画や動画などフィクションだけにして欲しい。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!


 百合華から魔王のような威圧感を感じる。

 隣室カップルの女性から悠に色目を使われ、姉の怒りゲージが上がってしまった。


「い、行きましょうか?」

「そそ、そうだな……」


 百合華が横目で見つめただけで、威圧感に怯えた不倫カップルはこそこそと退散した。



「ユウ君! 何で、いつも人妻に狙われちゃうの!」

「え、ええぇ……」


 プールでも旅館でも、何故か人妻に気に入られてしまう悠なのだ。

 無意識の内に人妻に食われそうになり、やっぱり百合華を嫉妬させてしまう。


「もぉ……ユウ君のばぁ~か」

「ええっ、俺悪くないよね?」

「ユウ君が悪いのっ!」

「ヤキモチ百合華……」

「呼び捨て禁止なのぉ~」

「ふふっ」

「笑うなぁ~っ!」




 チェックアウトを終え玄関を出ると、女将と中居が見送りに出る。

「ありがとうございました。またのお越しをお待ち申し上げております」


「「ありがとうございました」」

 ユニゾンするように悠と百合華が返事をする。


「また来てくださいね」

 ニマニマとした顔の中居が二人を見つめて言う。


 百合華のせいで、彼女を年下男子好きにさせてしまった気もする。

 きっと頭の中では、何でも絶対服従の年下男子が、夜になると豹変して攻め攻めになる妄想でいっぱいだ。



 ブロロロロ――――

 二人を乗せたクルマが走り出す。


「良い宿だったね」

 悠が、運転している百合華に話しかけた。


「うん、また来たいね」

「お、お姉ちゃんと本当に結婚したら、また一緒に来ようよ」

「うふふっ、ユウ君ったら。私のコト好き過ぎでしょ?」

「そ、それは……お姉ちゃんも一緒でしょ……」


 二人揃って顔が赤くなる。

 幸せな新婚生活を思い描いてしまう。


「私はユウ君のコト大好きだもん」

「俺だって、お姉ちゃん大好きだよ」

「私の方が、大大大大大大好きなのっ!」

「俺だって、大大大大大大大好きだから!」

「もぉ~私の方が好きだから! あと、百合華ちゃんって言って!」


 姉が『百合華ちゃん』を所望する。

 家に帰るまでが旅行だ。


「じゃあ、百合華で良いや」

「呼び捨て禁止ぃ~年上なんだからぁ~」

「ほら、百合華! ちゃんと前見て安全運転だぞ。夜は、ろくに寝てなかったんだから」

「もおぉぉ~って……あれ?」

「ん?」


 悠がポロっと姉が寝ないで何やらしていたかのように喋ってしまう。


「え、えれっ? ユウ君……何で私が寝てないって知ってるの?」

「うっ……あの……何となく」


 マズいマズいマズい!

 お姉ちゃんの名誉の為に黙っていたのに……

 余計なことを言ってしまった。

 何とか誤魔化さないと……


「そ、そっかぁ……何となくかぁ」

「そうそう、何となく何となく。別に何か見たとか俺の手が何とかじゃないから」

「んっ~~~~っ」


 更に悠が余計なことを言い出して、百合華の顔どころかカラダまで赤くなって湯気が出そうだ。

 誤魔化そうとしたのにボロ出しまくりだった。


 ゆゆゆ、ユウ君!

 や、やっぱりバレてる?

 全部バレちゃってる?

 私がユウ君の手でしてたコト……

 あんな恥ずかしいのバレちゃったら、もう姉の威厳どころじゃなく、弟に絶対服従するエッチな奴隷にされちゃいそうだよぉ~


 後半は少しだけ期待雑じりな感じの妄想をしてしまう百合華。

 何だか変な妄想をし過ぎて、益々変態姉になりそうな自分が怖い。


「な、何も見てないから。だ、大丈夫だよ。お姉ちゃんがドスケベなのは知ってるから」


 フォローしようとしてフォローになっていない。

 悠が喋れば喋るほど、余計に百合華を追い込んでしまう。

 ちょっぴり言葉攻めしているみたいだ。


「ちょ、ちょっと……もう許してぇ……」

「う、うん……例え、お姉ちゃんがこっそりイケナイコトしても、見なかった事にしておくから安心して」

「うわぁぁぁぁ~ん、ユウ君のイジワルぅ~」


 結局バレバレっぽい感じになってしまい百合華が泣きそうだ。

 旅行中に悠を徹底的にオシオキしようとしていたのに、結局のところプールでも陥落させられ、旅館でも陥落させられ、帰りも無意識ながら巧みな言葉攻めで陥落させられるという、百合華の完全敗北に終わってしまう。

 もう自分が弟にオシオキされているみたいだ。


「ふぇぇぇぇ~ん」

 陥落姉の可愛い泣き声と共に、クルマは自宅へと向かう。




 帰りも高速道路途中のサービスエリアに入って休憩となった。

 二人を乗せたクルマが駐車場に止まると、火照ったカラダの百合華の息が若干荒い。


「お姉ちゃん……大丈夫?」


 ガチャン!

 百合華がクルマのシートのリクライニングを倒す。

 そのまま悠の上に覆いかぶさり、外から見えない角度でギュウギュウと抱きつく。


「お姉ちゃん、また?」

「はぁっ……はぁっ……もう限界かも……」


 もうオヤクソクのように、定期的にユウ君成分補充の時間だ。


「やっぱり、ドスケベ百合華だ」


「だってぇ~我慢出来ないんだもん。ユウ君が悪いんだよ。ユウ君のせいで、エッチな女の子にされちゃったんだからぁ~もぉぉ~責任取ってよねっ!」


 自分がエッチなのは悠のせいだと言う百合華。

 卵が先か鶏が先かのように見えるが、実際は百合華がエッチなのだ。


「ユウ君が悪いんだもん。私がこんなに大好きだって言ってるのに、プールではお尻ペンペンするし、お布団では耳や腋をペロペロするし、せっかくゴムまで用意していたのにしてくれないし、私の恥ずかしいネタで言葉攻めまでするし、ユウ君がイジワルして私をどんどんエッチな子に調教してるんだもん!」


「えええっ……俺のせいなの?」


「もおぉぉぉぉ~っ! ユウ君のせいなのっ! だいたいユウ君は昔からそうなんだけど、可愛くて私好みだし、私の喜ぶコトばかりするし、手つきがイヤラシイし、無意識を装ってエッチなコトばかりするし、もう存在自体が大好きだし、とにかく我慢の限界なのぉぉぉぉ~っ!」


 ぷりんぷりんぷりん――――


 悠の上に乗った百合華が、大きな胸をムニュムニュと押し付けながら、いやいやする感じに左右に揺さぶる。

 クルマの横を誰か通るかもしれないのに刺激的過ぎる。


 荒ぶるおっぱい姉に困った悠が、ぎゅうぅぅぅぅ~っと強く抱きしめて姉の動きを止める。


「お姉ちゃん、誰かに見られたらマズいって」

「だってだってぇ、限界なのぉ~」

「い、家まで我慢しようか?」

「やだぁ~ここでするぅ~」

「いや、しないから」


 駄々こね姉になってしまった。


「んっ、ちゅっ……んあっ……」


 キスをしてから超魅惑的になった百合華の瞳に、ドロドロとした情欲の炎が灯っている。

 何かもう危険水域だ。


「ユウ君、帰ったら……うぅぅぅぅ~んっとサービスしてもらうからね!」

「わ、分かったよ……お姉ちゃん」

「ちゃんと『百合華ちゃん』って言って!」

「百合華ちゃん」

「ふへへぇ~ユウくぅ~ん」


 色々とアウト過ぎる姉をなだめ、何とか家路を急ぐ。

 毎日イチャイチャしているのにも飽き足らず、旅行中もずっとイチャイチャしまくり続け、帰っても更にイチャイチャするつもりなのだ。

 イチャイチャグランプリがあったら優勝しそうなほど、四六時中イチャイチャしまくる二人。

 もうすぐお盆で両親が帰って来るのに、こんな調子で親バレしないか心配な二人だった。

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